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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、宝箱を開ける

 先頭を歩くのはエルドワだ。

 尻尾を振りながら、鼻をクンクンさせている。どうやら彼は宝箱の匂いも嗅ぎ分けられるらしい。


「エルドワって、ものすごい優秀なわんこだねえ。階段も宝箱も見つけるし、魔物から魔石噛み千切るし、罠も見破るもんね」


 少し先を進むもふもふ子犬が、こちらを向いて尻尾を振ったまま立ち止まる。ネイはそこに近付いて、地面に仕掛けられていた電撃罠の作動板を取り外した。

 それを確認し、エルドワはまた進み始める。


「そう言えば、エルドワって何の半魔なんでしょうね。ガイナさんにも聞かなかったし、ヴァルドさんも何も言ってなかったけど。エルドワ本人に訊いても分かんないし……。人化はできないのかな」

「小さくて人化が上手く出来ないってガイナが言ってたから、出来ないわけじゃないと思うよ。かなり魔物寄りなせいかもね」


 ネイの答えに、ユウトは首を傾げた。


「……魔物寄りって何ですか?」

「ん? えっと、半魔には人間寄りと魔物寄りがいてね。原因は良く知らないんだけど、何かを切欠にどちらかに傾いてしまうんだ。魔力や心質によるのかな? ただ、一度傾いたらずっとそっちってわけでもないみたい」

「半魔のコミュニティは秘密主義で、あまり情報がないんだ。お前なら色々話してもらえるだろうから、そのうちガイナやヴァルドに詳しく聞いてみるといい」

「そっか」


 レオの言葉にユウトはひとまず納得して、スカートの後ろのリボンをふわふわさせながらエルドワを追う。

 その後ろ姿が大変可愛い。


「……ソードさん、もゆるちゃんをめっちゃガン見してる」

「何か問題があるか?」

「……いえ、別に」


 初めて会った時、あれほど暗く冷たい瞳で自分を半殺しにした男が、今はこんな目をするのだと思うと面白い。ネイもまた、彼にその変化をもたらしたユウトに目を向けた。


 そういえば、あの半魔の少年の正体も、未だに分かっていない。


「兄さん! 先生! あったよ、宝箱!」

「アンアン!」


 不意にユウトとエルドワが振り返り、笑顔でこちらを呼んだ。

 嬉しそうな彼らを見たレオも、気のせいか嬉しそうに見える。

 そう言えば、レオはゲートに潜っても面倒がって、進んで宝箱を探すタイプではなかったはず。なのに今回わざわざ探しに出たのは、ユウトが宝箱を楽しみにしていたからか。


 何かもう、ごちそうさまです。

 ネイは内心で苦笑した。


「すごい、大っきいの! 何か良い物入ってるかな」

「どうかねえ。宝箱の大きさって結構関係ないのよ。ぽつんと薬草1枚だけ入ってたり、大きいだけの竹箒1本だったり」

「そうなんですか。でも、ランクが高いゲートの宝箱だし、ワクワクします! これって、罠が掛かってるんですか?」

「掛かってるけど、先に罠を見破れば大丈夫」

「見破る……?」


 どうやって? と首を傾げるユウトに、レオが答える。


「魔法を使えば、8割くらいの確率で判明する。ランクBの魔導師なら使える魔法だ。マルセンから教わってるんじゃないか」

「マルさんから? どの魔法だろ」

鑑定ジャッジメントの魔法だ。手に入れたアイテムの詳細を知るための魔法だと教わっているかもしれんな」

「あ、それなら覚えてる! 掛けてみてもいい?」

「どーぞ。その魔法もゆるちゃんしか使えないしね」


 ネイが促すと、ユウトは宝箱に向かって手を翳し、魔法を唱えた。


「ジャッジメント!」


 途端に宝箱が淡く光り、カチカチカチとダイヤルが回るような音がする。しかし変化はそれだけで、光はすぐに消えてしまった。


「……開いた?」

「んー、まだ開いてない。もゆるちゃんの魔法では罠が判明しただけだから。……ほら、この鍵の所にダイヤルみたいのあるでしょ? このひとつひとつに罠の名前が入っててね、今の魔法で答えの罠にダイヤルが合ったとこなの。ここで、該当の罠を表示した状態で、盗賊のピックを使って鍵をこう開けると……」


 ネイが鈎状になった金属の棒で鍵穴の中を探る。すると間もなく、南京錠がカシリと外れた。

 開錠に成功したのだ。


「わあ、開いた!」

「今回はすんなりだね。でもソードさんもさっき言ってたように、鑑定の魔法は正答率8割だから、頼りすぎないように気を付けて。宝箱を開けるのが俺の時はいいけど」

「そうだな。危ないことはそいつに任せておけ。罠が発動してもどうせ避ける」


 レオに言われて、ユウトは目をぱちくりと瞬いた。

 そう言えば、魔法を持たない彼らは今までどうやって宝箱を開けていたのだろう。


「……兄さんたちがひとりでゲートに潜る時って、もしかして宝箱の罠を発動させてから避けてるの?」

「俺はそうだ。もしくは宝箱自体を無視する」

「さすがに俺は隠密のエキスパートだから、ちゃんと鍵開けするよ。魔法でなく、ピックから伝わる手応えで正解を導くの。まあそれでも正答率は9割、ルアンあたりで7割くらいかな」

「先生の方が正答率高いなら、僕の魔法いらなくない?」

「俺らのは集中力によってムラがあるし、時間も掛かる。でももゆるちゃんに魔法掛けてもらえば、それが正解かどうかを手応えで確認するだけだから、だいぶ楽なんだよね」

「……そっか。ダブルチェックになるんですね」


 ユウトが納得した様子で頷く。

 そして、そわそわと鍵の開いた宝箱に身体の正面を向けた。


「ね、ところでこれ、もう蓋開けていい?」

「構わん」

「え、ソードさん、いいんですか? 最後にこの宝箱がミミックの可能性も考えないと……」

「大丈夫だ。これがミミックならエルドワが気付かないわけがない」

「アン!」

「あ、それもそうね」


 ネイはおとなしく引き下がる。

 どうせ何があっても、背後に自分たちがついているのだし、問題は無い。


 レオの許可を得たユウトは、ワクワクした様子で大きな宝箱の蓋に手を掛けた。

 見た目ほど重くないそれは、ちょうつがいの軋む音を立てて、ゆっくりと後方に倒れる。そうして開いた宝箱の中を、ユウトは覗き込んだ。


「……何か箱が入ってる」

「箱?」

「クーラーボックスみたいなの。良い物なのかな」


 どんな物か判別しかねる様子で、ユウトがそれを宝箱から取り出す。見ればそれは50センチ四方くらいの大きさの箱だった。表面には術式らしきものが彫られている。

 それを見たネイが、俄然テンションを上げた。


「おお、これって劣化防止ケース(中)! 宝箱からしか見つからないレアものだよ、もゆるちゃん!」

「ほう、これは良い物を見つけたな。魔工翁のところでも作れないアイテムだ」

「そうなんだ。どういうアイテムなの?」

「中に入れたものが一切劣化しなくなるのよ。肉とか野菜とか入れておけば、腐ることなくずっと持ち歩けるわけ。何日もゲートに潜ってる時に、味気ない保存食に頼らなくても良くなるんだよね~。食事って結構メンタルにも影響するから、マジありがたい!」

「へえ、すごい……! みんなの役に立つ物で良かった!」


 ネイの説明を受けて、ユウトも手放しで喜んだ。

 ここに来るまで動物系の魔物から取った肉や、ドロップした野菜などが結構ある。牛の魔物からは牛乳も手に入れていた。これらを入れておけば、ずっと下の階に行っても新鮮な食材が使える。


「となると、一度食材の整理がしたいな。今日は下り階段の近くで野営をするか。水路があるから水も問題ないしな」

「僕、エルドワと森の果物取ってくる」

「俺は薪を集めてきます」


 ここに長居する気はないけれど、それでもこの期間中の食事が充実するのは嬉しい。

 とりあえず、腹も空いたし今日の晩飯にありつきたい。

 3人と1匹は、1日目を締めるべくそれぞれ動き出した。


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