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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、もえすでアイテム作成を依頼する

 レオはユウトを伴い、久しぶりに『もえす』へ向かった。

 職人ギルドでの精算の方は、夜8時を超えるまで待たないといけない。その前に面倒事は済ませておきたかった。


 昼間ということもあり、店の正面から入る気はさらさらない。

 隣の民家から中を伝って店舗内に行くと、怠惰な感じでカウンターに座るタイチが、アニメ雑誌を捲っていた。


「……真っ昼間から、そのダレた様子は何だ。見苦しい」

「あっ、レオさん! ユウトくんも!」


 レオの苦言にぱっと顔を上げたタイチは、その姿を認めて表情を明るくする。ユウトがちょっとビクッとして、レオの側にぴたりとくっついた。


「丸一ヶ月以上ぶり? ユウトくんは相変わらず可愛いね~、生足最高。もうレオさんたちが王都に行っちゃってから萌えないし暇でさ。元々はこんな感じだったんだけど、あの充実した日々を味わっちゃうと、物足りなくて」

「ミワもそんな感じなのか?」

「いや、姉貴はじっとしていられない性分だから。レオさんたちがザインから離れている間、バラン鉱山に行ってる」

「……バラン鉱山? 王都の北東にある稀少鉱石が取れる鉱山か。しかし、あそこからはもうほとんど鉱石が産出しないと聞いているが」


 鉱山の街ジラックで取れる鉱石は一般に流通する通常鉱石だが、バラン鉱山で取れるのはオリハルコンやミスリルといった稀少鉱石だ。

 元々掘り当てるのが難しいうえに、最近では全く取れないと聞く。

 無駄足ではないのだろうか。


「それがさ、鉱山に特殊なスライムがいるらしいんだけど、そいつがレア鉱石を喰ってると最近判明してさ。鉱夫たちが駆除に乗り出してて、その手伝いに行ってんの」

「鉱石目的ではないのか。……しかし、もう鉱石が取れないところで駆除しても仕方ないだろう」

「まあ、放っておいて他の鉱山も食い荒らされたら大変だし。それにどうやらスライムを倒すと、その体内で精製された高純度のレア鉱石を低確率でだけどドロップするらしいんだよね。それも目当てかな」

「なるほど、それなら納得だ」


 鉱夫だけで魔物と戦うのは大変だ。けれど、スライム系は他の魔物に比べれば動きも遅いし攻撃力も低いからどうにかなる。

 難があるとすれば鉱石を溶かすその強力な酸性の体液だが、ミワに関して言えばそれをものともしない武器防具を作る技術があるのだから問題ないだろう。


 まあ、とりあえず。

 あのセクハラまがいの萌え攻勢に遭わなくて済むのはありがたい。


「ところで今日は新たな作成依頼? 武器じゃなければすぐに取りかかれるけど。あっ、でも待って。その前に犬耳フードで子犬を抱いてるユウトくんの姿に1分くらい萌えさせて」

「ガルルルル……」

「あっ、珍しくエルドワが威嚇してる」

「ユウトの嫌悪感が伝わったんだろう。噛み殺されないうちにとっとと仕事しろ」

「こんな小さな子犬に噛み殺される……? ちょ、真顔で言わないで。え、マジ?」


 ちょっとビビりつつ、タイチは受注用紙を取り出した。


「……仕方ない、仕事します。で、今回の依頼は?」

「大容量ポーチと、ジャイアント・ドゥードルバグの素材を使った有用アイテムを。形態はどんなでも構わん」

「ジャイアント・ドゥードルバグか! 昨日来たウィル氏がめっちゃ熱く語ってた超稀少素材だね。見せてもらって良い?」


 氏ってなんだ。その敬称に違和感を覚えるけれど、突っ込まない方がいいのだろう。

 レオは敢えて無視をして、素材をカウンターに広げた。


「まず、これは大容量ポーチ用の素材、砂漠ワームの胃袋だ」

「はいはい、じゃあ先にこれを受け付けちゃうね。デザインは?」

「任せる。一度ここにルアンが来たことあるだろう。あの子用だ」

「あ、ネイさんのお弟子さんか。確か職業盗賊だったよね。ならベルト太めのフィットタイプがいいかな。了解」


 タイチが大まかなデザインを描き付けるのを、ユウトも兄の後ろから覗き込む。それからレオを見上げた。


「ルアンくんにポーチ作ってあげるんだね。転移ポーチとはまた違うの?」

「転移ポーチは余所に物を送れるから、ある意味容量制限がない。だが、大容量ポーチは容量が決まっているから上限がある。それでもアイテム100個は入るから、役に立つはずだ」

「転移ポーチから転移ポケットを取った感じなんだね」

「そういうことだな」


 もちろん、大容量ポーチもかなりの稀少品だ。素材となる砂漠ワームの胃袋は、敵を一息に殺さないと手に入らない。どんどん千切れて行く過程で切り離されて、カスになってしまうのだ。

 今回はエルドワが体内から魔石を剥ぎ取ることで、幸運にも切り離される前に手に入れることができた。これはかなりありがたい。


 ルアンたちのパーティがランクSで活動するなら、一人でも大容量ポーチを持っていれば探索の快適さがまるで違うはずだ。ギルドお抱えになる祝いの品としてもちょうど良い。


「じゃあ、ポーチはこのデザインでいくね。納期は3日くらいだけど、これが優先でいいのかな?」

「それで構わん。他のはどんなアイテムにできるかも分からんからな」

「ここから先がジャイアント・ドゥードルバグの素材だね。ええと、頭部殻、腹部外皮、大顎か」

「それぞれにどんな特殊効果があるか、分かるか?」

「俺も、流通したことのない素材だと資料がないから分かんないんだけどね」

「……ということは、まずは鑑定が必要か」


 夜になったら職人ギルドに行くつもりだし、余った分の素材はすでにギルドの保管庫に送ってあるからロバートの鑑定も終わっているはずだ。それを確認してからもう一度来るか。

 そう考えたレオに、しかしタイチは「平気平気」と素材を手に取った。


「俺は分かんないんだけどさ、ウィル氏がレオさんたちに素材を見せてもらった時に勝手に鑑定してたみたいで。昨日この素材のすごさをめっちゃ語ってったの。だから、鑑定書は付かないけどアイテム作るなら問題ないよ」

「……そういえばあいつも有能な鑑定師だったな」


 考えてみたらウィルはランクS素材まで鑑定可能で、未識別アイテム鑑定の資格まで持っていた逸材だった。あの暴走さえなかったら、もっと頼れるのだが。


「ざっくりと特殊効果を言うと、頭部殻が物理防御+と斬絶・刺突属性無効、腹部外皮が沈下無効、大顎が腕力+だね」

「……他は分かるけど、沈下無効ってなんですか?」


 レオの後ろに半分隠れながらユウトが訊ねた。

 確かに、あまり聞かない特殊効果だ。


「これはかなり珍しい効果らしいよ。砂漠の流砂とかでも沈まずに、その上を歩けるんだって。おまけにそれだけじゃなく、水面とか泥の沼とかにも沈まないみたい。落とし穴の上も歩けるらしいから、ものすごく重宝するんじゃないかな」

「へえ、それはすごく便利ですね!」

「沈下無効……それがあれば今後ジャイアント・ドゥードルバグを倒すのもだいぶ楽になるな。……なら、ブーツに加工するべきか?」

「いや、これだったらブーツの中敷きに出来るよ。いちいち履き替えなくてもいいし、常時効果が期待出来るでしょ?」

「なるほど」


 タイチが中敷きの受注用紙を書き込む。

 レオとユウトの靴のサイズを記入して、彼はふと顔を上げた。


「ネイさんの分はどうする? ユウトくんの護衛なんだよね?」

「ああ……一応、あいつの分も素材が足りそうなら作ってくれ。いざという時ユウトを護れないと困るからな」


 不本意だが、これは仕方がない。


「そうだ、こいつにも作れるか?」

「え、こいつって……子犬?」


 ネイのを作ってエルドワに作らないわけにはいかないだろう。

 普通に考えれば、通れないところは誰かが抱えていけばいいだけなのだが、しかしこの子犬はゲートの中では自由に歩かせた方が良さそうなのだ。

 エルドワは実は戦い慣れているし、無謀なことや無駄なことを一切しない。こんななりだが、かなりの手練れだというのがレオの子犬への評価だ。

 おそらく今後も大いに役に立つ。


「この子犬もクエストに連れて行くの?」

「ああ。言っておくがこいつは強いぞ。その素材の砂漠ワームを倒したのもエルドワだしな」

「え、うそ、ちょ、それは強い……! さっきの俺を噛み殺すって話、マジなの……!?」

「アン」

「うわっ、肯定された」


 タイチが再びビビっている。


「ええと、エルドワ様の犬用ブーツも作らせて頂きます……。頭部殻はユウト様に使うのが良いと思うのですがいかがでございましょうか、レオ様」

「俺たちにまでへりくだるな。……頭部殻は防御特化の素材だな。構わん、ユウトのアイテムにしてくれ」

「……了解です」


 タイチは顔を引きつらせつつも一度息を吐き、気を取り直すように受注用紙を捲った。


「……さて、最後の大顎は武器にするのが一番なんだけど、腕力+だからレオさんよりもネイさんみたいな人の方が効果が高いんだよね。どうします?」

「そうだな……俺の武器は今ので十分だし、ユウトには必要ないし、まあいいだろう。金はあいつに出させるから、とりあえず預かりにしておいてくれ」

「了解。こっちも姉貴が来るまで武器は作れないし、保留しとく。……それにしても、この素材は姉貴が喜びそうだな~。ネイさんの武器作りたがってたから」

「ミワがネイの武器を作りたがってた?」


 それは意外だ。あれだけネイに対して無の境地だったのに。

 レオが不思議に思っていると、タイチが説明してくれた。


「レオさんって、姉貴の理想なんだけどさ。強さも完璧でもう手の入れようがない、崇拝対象なの。だけどネイさんは萌え全く関係なく、強いんだけど足りない部分があるところに鍛冶職人の血が騒ぐみたいでさ。『自分の作った武器でこいつを最強にしてみたい!』と思ってるらしいよ」

「あ、一応あの怪物にも萌え以外で物作りの原動力はあるんだな」


 きっかけはよく分からないが、良いことだ。

 もしもミワがネイの力不足を補えるのなら、あの男は今以上にとんでもなく強くなる。


「ではミワが戻ってきたころにネイをここに寄越そう。ミワはいつ頃帰ってくる予定なんだ?」

「んー、本当はもう帰ってきてもいい頃なんだけどね。スライム退治に難儀してるのかも」

「そうか。まあ、俺たちもこれから数日間クエストに出掛けることになっている。それが終わったら来させよう」

「うん、じゃあお待ちしてます」


 とりあえず、ネイの武器はランクSSゲートを攻略して帰ってきてからだ。

 その頃にはミワも帰ってくるだろうと考えて、レオたちはもえすを後にした。


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