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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、ウィルの仮説を聞く

 レオはウィルに今までにあったジアレイスの行動の詳細を語った。

 すでに彼が薄々勘付いていたであろうレオの正体や、ユウトが半魔であることまで。魔研とのことを語るには、そこまで詳らかにする必要があった。


 最終的にネイが知るのと同等の情報を提供する。

 それを聞き終えたウィルは、情報と知識を擦り合わせ、思案するようにしばし黙った。


 レオはその答えが出るのをじっと待つ。

 その間に、周囲の席にいた他の客は皆部屋に戻ってしまったようだった。給仕も呼び鈴を鳴らさなければ来ない。静かになったラウンジの片隅にいる2人を、気にする人間は誰もいない。


「……殿下、現時点での私の推察をお話ししても?」

「殿下はやめろ、レオでいい。……お前の分析を聞こう」

「かしこまりました、レオさん」


 軽く頷いて、ウィルは淡々と語り出した。


「話を聞き、実際に当人を見てその性格を分類したところ、自身とその周囲の一定の人間だけの価値しか認めない選民主義、他人は自分より劣っていると見る高慢、思想や価値観の違いを許さない狭量が目立つようです」

「まあ、そのものずばりだな」


 その性格分析は、正直ウィルでなくても言い当てられる。

 問題はここからだ。


「選民主義で狭量。これがジアレイスの一連の行動の鍵になっていると思われます」

「一連の行動……世界の魔力を禁忌術式を使って食い荒らし、滅ぼそうとしていることか?」

「そうです。詳細を知らなかった時は、ジアレイスたちがライネル陛下の治めるエルダールを転覆させたいだけだと思っていました。しかしそれにしては降魔術式を使ったり、世界に対する危機を取り過ぎているのが気になっていたんです」


 ウィルは一度舌を湿らすようにコーヒーを口にして続けた。


「彼らは自身の立場を貶めた陛下に強い恨みを持っている。けれどジアレイスは、陛下への復讐のために自分の命も省みないような性格ではありません。何故なら、彼は自分が選ばれた人間であり、敵対する愚者の命より己の命の方がずっと価値があると思っているからです」

「……あの男は、兄貴を愚者だと考えていると?」

「ええ。彼の認めていた選民たる前国王、それを殺したライネル陛下を、ジアレイスは価値の分からぬ愚かな者と位置づけているのだと思います」


 公費を使って好き勝手に研究をさせてくれていた友は、国王という権力も相俟ってジアレイスにとって都合の良い、もとい、価値ある仲間だったのだろう。

 その自儘で放逸な立場を潰し、後ろ盾を消したライネルを、高慢で身勝手な男が逆恨みして愚者扱いか。

 その思考が自分主義すぎて救えない。


「しかし、兄貴より自分の命に価値があるというわりに、今のやり方じゃ共倒れリスクの方が高いだろう。何より、世界ごと枯れてしまうわけだからな」

「そう、私も推察しながらそこに矛盾があると思っていたのです。が、今レオさんからお話をお聞きしている中で、ひとつの仮説が浮かびました」


 ウィルはそう言って、思考を整理するように視線を一度落とし、すぐに再びレオを見つめた。


「確か魔研の本拠地は未だに分からないと言っていましたよね? 空間魔法か何かで、王都近くの森に隠されているんじゃないかとか」

「ああ。魔研の人間を尾行しても、森まで行くとぱっと姿を消してしまうから跡を追えないとネイが言っていた」

「……あくまで仮説なのですが。もしかすると、その先……魔研が拠点としている空間は、この世界が消えても存続する場所なのかもしれません」

「……何だと?」


 この世界が消えても存続する場所?

 レオはその思いも掛けない推察に目を瞬いた。


「……つまり、別世界ということか。ゲートのような……」

「ゲートとはちょっと違うかもしれません。ゲートはその接点をこの世界に限定していることから、この世界が崩壊したら存続出来ないと思われます。……魔研が拠点を作っている場所は、もっと大元からこの世界と分かたれている場所かと」

「大元から?」


 そう言われて思いつくのは、魔界やレオたちが飛ばされていた日本のある世界。ああいう世界のひとつとこの世界を、魔研が自由に行き来しているというのか。


「全ての根源である世界樹というものが実際樹木のようなものなら、この世界の魔力が枯れ始めたために行き渡らずに滞った養分で、大精霊が別の新芽を吹かせるかもしれない」

「……それは、世界樹に新たな世界が出来たということか? そこに魔研が拠点を置いている……つまり、ジアレイスたちが意図的に新世界を発現させたかもしれないと……?」


 自分で口にしながらも、レオはあまりに大それた話に絵空事のような気分になる。すぐにそれを察したウィルが断りを入れた。


「突拍子もないことを言っていることを自覚しておりますので、一応話半分で聞いて下さい。私がジアレイスを取り巻く環境や思考展開から導き出した推論ですから」

「……分かった。続けろ」


 大それた話ではあるが、ジアレイスたちの動きを考えれば絶対にないと言える話でもない。世界樹の話の整合性は今度マルセンに確認することにして、レオはウィルを促した。


「ジアレイスは陛下と、それを歓迎して従う臣下や国民を許容しません。おそらくジラックの街以外は捨てるつもりです」

「ジラックは救うと?」

「救うと言うより、この世界から連れ去るというのが正しいかもしれませんね。新たな世界を作っても、民がいなくては発展はないですから。ジラックはここ3年王都とほぼ断交状態で、ライネル陛下からの待遇に不満を持つ貴族たちが自然と集まって来ています。平民のことはそもそも家畜くらいにしか思っていないでしょうし、丸ごと新世界に連れて行くつもりではないかと」

「……街一つ分の人間を、従わせて連れ去ることなんて出来るのか?」

「大きなパニックを起こし、そのさなかに救いの手を差し伸べるふりをして誘導すれば簡単です。さらに大衆の中に数人のサクラを入れておくことで、集団心理はすぐに操れます」


 パニックを起こす。

 そう聞いて、レオはすぐにピンときた。


「闘技場にいた魔物と、死の軍団を使うつもりだったのか。今は死の軍団だけだが、あれを街中に放てば確かに間違いなく大混乱になる。領主が使役しているとはいえ、アンデッドだしな……」

「私は、実際には領主が使役することはできないと思っています。おそらくジアレイスは領主を格下だと思っていますし、人となりも知っているでしょうから信用もしていません。彼は次男の目を覚ます起動スイッチになっているだけで、使役自体はジアレイスたちしかできないと思います」

「ああ、確かに……」


 ジラックの領主は手前勝手で気分屋だ。ジアレイスはそこにつけ込んで利用したのだろうし、だからこそ信用していないのだろう。

 おそらく、起動スイッチの役目を果たしたら、奴も殺される。


「ジアレイスたちがアンデッドを操るなら、パニックを起こすのは簡単だろうな。そこで奴らが逃げ場所として新世界への入り口に誘引するのか」

「異空間の入り口を通すのに、魔研の人間の誘いでは弱いです。私が思うに、ここでアレオン殿下の偽物が出るのではないかと」

「……俺の?」


 渋い顔をしたレオに、ウィルは表情を変えずに頷いた。


「殿下のそのお姿こそ皆知りませんが、ずっと魔物と戦ってくれていたことは知っている。ある種、英雄的な存在です。例えばその方が異空間から出てきて、後は任せてこの先に逃げろと言ったらどうでしょう。その呼び掛けに応じた数人のサクラが中に入れば、後は皆我先にと入っていきます。現在ジラックでアレオン殿下が生きていると噂されているのも、おそらくこのための布石かと」

「……どれだけ用意周到なんだ」


 レオは大きくため息を吐いた。

 ウィルはこれを話半分の仮説だと言ったけれど、いちいち整合性が取れていて、ほぼ疑問をはさむ余地がない。


「反国王派の貴族が誰なのか、墓地の側に建設中の塔に何の意味があるのか、未だに私を探し降魔術式を発動したい理由、その辺りも分かればもう少し推察が進むのですが」

「その辺は分かり次第また知らせる。……とりあえず、仮説は検証するためのもの。お前の推論を元に調査させよう」


 伏線を張りまくった魔研の動きに辟易としながら話を締める。

 本当に、あいつらはどこまでも胸くそ悪い連中だ。

 だが、ウィルの推察が合っていれば、ずっと後手後手だった展開が少しは開けるかもしれない。


 それに多少の期待を掛けて、レオはささくれた気持ちのまま、癒やしのいる部屋へ戻るために立ち上がった。


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