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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、大精霊の存在を知る

「ザインに戻る?」

「まあ、しばらくの間な。まだ何も解決していないから、王都にはまた来ることになるが」

「そうか。それはいいかもな。今王都にいると、ユウトがジアレイスと遭遇する可能性があるし」

「……何かあったのか?」


 レオはマルセンのところをひとりで訪ねていた。ジラックに関する魔研絡みの報告や、ユウトに聞かせたくない話があるからだ。

 その中でレオたちが王都を発つことを告げると、マルセンはジアレイスの名を口にした。


「今、王都にジアレイスが出没してるらしい。どうやら王都に聖属性の結界を張った人間と、兄さんが言ってた冒険者ギルドのウィルを探しているようなんだ」

「ジアレイスが王都に……! それは確かなのか」

「間違いない。直接相対はしていないが、ウィルがその姿を見たと言っていた」

「ウィルが?」


 彼の記憶力と照合されたなら、それはもう間違いないだろう。しかし、なぜその話をマルセンが知っているのか。

 その疑問に、マルセンはあっさり答えた。


「今日の午前中にウィルが来たんだ。俺からジアレイスの情報を聞くようにあいつに言ってたんだろ?」

「……ウィルがひとりで来たのか。俺が引き合わせるつもりだったんだが、相変わらず仕事が早いな」

「一応、ジアレイスの性格や癖、生い立ち、諸々を提供した。裏での動きについては何も言ってねえ。そこは俺から伝える権限はないからな」

「そうか。良い判断だ」


 さすが、この男は思慮深い。


「実は、ユウトだけでなくウィルもザインに行くことになるんだが」

「あ、そうなの? それはちょうど良いな。……ちょっと引っかけてみるか」

「引っかける?」

「『魔法学校に、結界を張れる人がいるらしいですよ!』って噂を流して、ジアレイスを釣ってみようかなって。ウィルが不在で他に情報がないなら、とりあえず来るだろ?」


 マルセンが少し人の悪い笑みを浮かべている。

 どこか楽しそうに見えるのは気のせいではないだろう。


「……大丈夫なのか?」

「今の王都なら俺、防御はほぼ無敵よ? 聖属性結界はまだ持続してるから、奴らの闇系術式や召喚使えないし。単純に魔法も剣も俺の方が強えし。……ただ、奴も防御はガチガチに固めてくるから、倒したり捕まえたりは無理だけど」

「……コンプレックスを突っつく、か」


 以前、彼が言っていたことを口にする。それにマルセンは笑みを深め、大きく頷いた。


「そういうこと。怒り、劣等感、嫉妬、そういう感情は冷静な判断を鈍らせる。周囲にたしなめてくれる人間がいればいいが、あいつは自分に意見することを許さないし、自身の決定が絶対だという無駄なプライドを持っているからな。付け入る隙ができると思うぞ」

「しかしあんた、そんなことをしたらジアレイスに命を狙われる羽目になるんじゃないのか」

「んーまあ、平気だろ。俺、何かあっても隠れ家あるから」

「隠れ家?」

「隠れ家だから、内緒だよ」


 はぐらかすように手をひらひらさせたマルセンは、そこで話を変えた。


「ところで、この間はよくユウトを連れてゲートに入ったな」

「ああ、この世界からユウトを連れ出したことか? あんたがランクAモンスターと戦えと言いながら、ゲートに入ることも魔力を使い切ることも禁止しなかったから、大丈夫だと踏んでいた」

「そんだけの理由で? すげえ度胸だな。俺がただ単に言い忘れただけだったら、どうするつもりだったのよ。魔尖塔が出るとこだよ?」

「あんたがそんな間抜けじゃないことは知っている」

「買いかぶりすぎだよ、おい」


 マルセンは肩を竦めて苦笑した。


「まあ、ゲートはこの世界からの派生だからな。別世界扱いでありながらも繋がっているから、実際問題ないんだけど」

「この世界から切り離された別世界へ行くとアウトなのか」


 ということは、今もしもユウトが日本に飛ばされでもしたら、このエルダールは魔尖塔が現れ、枯れてしまうということか。

 レオとユウトがこの世界に戻ってくるのが遅かったら、今頃もう荒廃した世界になっていたのかもしれない。


 ……と言うことはもしかして、あの日ユウトが日本からこの世界に呼び戻されたのは、世界の危機を知る誰かの意図によるものなのだろうか。


「……世界の仕組みや意図というものはよく分からんな。世界の存続は全て世界樹の精霊の意思なのか?」

「いや、世界樹の精霊は意思を持たない。世界樹は存在するものを善悪に関係なく全肯定し、全てを許す、言うなれば神の存在だ。意図があるのはその下に付く数体の大精霊、各々の世界を監視するものたちだな。各地に大精霊の祠があるのは知っているか? あれは、自分たちに恩恵をもたらしてくれる能力を持つ大精霊をそれぞれ祀っているんだ」

「……何か、一気に宗教臭い話になるな」


 厭世家だったレオは当然神なんて信じていなかったし、大精霊の恩恵を欲しいと思ったこともない。

 そういう話は未だに胡散臭くて拒否反応が出る。

 渋い顔をするレオに、マルセンは苦笑した。


「ま、正直なところ、崇めて祀ったところで、祈るだけでは大精霊は何にもしてくれねえけどな。人間が偶然上手くいったことを、大精霊様のおかげだ! と勝手に紐付けて喜んでるだけ。願いが届かなかったら祈りが足りないとか言うけど、大精霊は最初から何もしてねえんだ」

「それはそれで元も子もない話だな」


 レオとしては納得だが。

 しかし、そうなると大精霊のいる意義は何なのだろう。監視というが、彼らは何を見ているのか。

 それにマルセンが答えた。


「大精霊は祈ってるだけじゃ動かない。まず人間が自分たちで動かないと駄目なんだ。それを視て、世界の気運、魔力の動きに反応してようやく動き、潮流を作る。本来は個々の人間が都合良く動かそうとしても無駄なんだよ」

「世界の魔力の動きに反応して、潮流を作る……? もしかして、魔力の欠乏によって世界が枯れるのは、大精霊の采配なのか……?」


 マルセンは『本来は』大精霊を都合良く動かそうとしても無駄だと言った。

 しかし、ジアレイスたちが強制的に世界の魔力をそぎ落としたことで、今、大精霊は動かされようとしているのだ。

 この世界の理を、奴らも知って利用しているということ。

 まさか魔研が、こんな大きな存在を使って世界を消そうとしているとは。


「……大精霊に抗する手段はないのか?」

「大精霊は世界樹を護る存在だ。害すればこの世界どころか全ての世界が危機に瀕する」

「だがこんな状況、ジアレイスたちを排除するだけで解決できるのか……?」

「それは何とも言えんがな。とりあえず大精霊を足止めしているのは、ユウトの存在だ。今、大精霊はあの子を監視している。下手打たないように気を付けろよ」


 どうしてこうなってしまったのか。

 ユウトを自由にしてやりたくて動いているのに、弟はどんどん雁字搦めになっていく。

 レオはそれを虚しく思い、憂い、大きく嘆息した。

 しかしそれでもユウトに絡みつく縄を解くのは自分しかいないのだ。兄は改めて、弟のために戦う決心をするのだった。


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