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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【一方その頃】ジラックの査察 4

 ルウドルトは難しい顔をしたまま、黙っている。

 どうやら今は言葉を発する気分ではないのだと察したネイは、宿の雨戸と扉に鍵を掛けて、全員を卓に着かせた。


「はい、じゃあ報告会を始めまーす。まずコレコレとチャラ男、報告ヨロ」

「うぃっす。何か領主がすげえ怒りながら貴族街の奥にある納骨堂カタコンベに行くのを見たっす」

「納骨堂? 中で反国王派とでも落ち合ってんのか?」

「いや、直後に中に入って調べてみたけど誰もいなくて、死体しかなかったんですよね、コレが。何が目的なのか分かんないんですよアレ」

「隠し扉とかがあるわけでもねーし。その後はどこにも寄らずに館に帰るし。変なの」


 どうやら反国王派との接触は確認できなかったようだ。

 しかし、その意味の分からない行動は、つまりそこに調べるべきことがまだあるということ。ネイは小さく唸った。


「んー……その納骨堂って、誰が埋葬されてんの?」

「貴族が中心にいっぱいっすよ。100体は下んないかな。あ、一番奥に歴代領主の棺があって、そこに今の領主の親父と弟が埋葬されてたっす」

「……そういやコレ、弟の棺だけちょっと違和感がありました。他の棺は蓋が釘で打ち付けられてんのに、弟の棺だけ鍵付きだったんですよね、コレ」

「棺に鍵? ……中に死体は?」

「普通に入っているようでした、コレ」


 死体の入った棺に鍵を付けている理由とは何だろう。大事な宝物を入れている? 誰かと密かに連絡を取り合うための入れ物にしている?

 いや、そんなことのために、時折管理の祓魔師が来る程度のセキュリティの甘い納骨堂を使うとは考えづらい。何より趣味が悪すぎる。


「……とりあえず一度鍵を開けて中を見てみるか。チャラ男、棺に術式は?」

「鍵と棺自体には掛かってねえっす。……ただ、中からちょびっと魔力が漏れてる感じがするんだよねー」

「魔力が?」


 死体から魔力が漏れる。それはあまり良い兆候ではない。死体がアンデッドモンスター化している可能性があるからだ。

 ……それが鍵付きの棺に収められている。そこにある意図に、ネイは眉を顰めた。

 正直、嫌な予感しかしない。


「……次の報告に移れ」


 不意に、ずっと黙っていたルウドルトが眉間にしわを寄せたまま次を促した。

 その横槍にネイは一瞬瞳を瞬く。しかしこれを掘り下げないということは、おそらくルウドルトが得てきた情報で補完出来るのだろうと理解して、話を進めることにした。


「んじゃ、次オネエ」

「あたしの方は情報らしき情報はないわ。襲ってきた私兵を返り討ちにしてたけど、みんな報酬狙いの雇われみたいだったし、重要な所持品もありゃしないし。ただ死体の山を築くためだけに送り込まれたみたいで、途中で嫌になっちゃった」

「俺も同じようなもん。もしかすると何かの思惑に乗っけられてんのかもと思って、後の方はとどめ刺すの止めたわ。……今の納骨堂の話も聞いて、かなり嫌な予感してるんだよね」

「もういい。次」


 すぐにルウドルトがネイの言葉を打ち切って、強制的に次の報告を促す。

 ネイは彼をちらりと見た。不愉快そうなルウドルトと目が合って、自身の予感がさほど外れていないと確信する。


「はい、じゃあキイとクウ」

「キイたちは色々領主の怪しい動きを聞いてきました。ジラックに住んでから街の人たちがあまり領主を慕っていないことは知っていたんですけど、王都の鎧を着てるとその不満の集まり方がすごかったです」

「まあ、王都の、それも国王側近のルウドルトが率いる一団だからな。領主をどうにかしてくれるかもって期待があんだろ。そんで、どんな話があった?」

「クウが聞いたのは、まず生活に関することでした。税金がどんどん上がっている、街の整備が全くされない、軍が機能していなくて治安が悪い。悪いことをしていなくても、貴族や私兵の機嫌を損ねて目を付けられると連行される」

「あー……なんつうか、悪政のお手本だな」


 クウの話を聞いたルウドルトが、隣でチッと舌打ちをした。

 やっていることが前国王に近いのだ。ライネルの後ろについて間近でそれを見ていたルウドルトは、おそらくかなりその行為を嫌悪している。見なくても苛立った様子が伝わってくる。


「街の整備はしないのに、何故か墓地は拡張整備しているという話もありました。鎮魂のためと言って、妙な塔を建てているとも」

「……妙な塔って?」

「死の安寧を司る、神の依り代を祀る塔だという話です」


 塔、と言われてネイとルウドルトの脳裏には同じ単語が浮かんだ。

 魔尖塔。

 召喚が出来ないことを知って、魔研が自らその塔を作ろうとしているのだろうか。これは急ぎライネルとレオに報告しなくてはならない。


「キイは、反国王派の存在について街の人に訊ねてみたのですが、その中に反国王派の活動に参加したことがある人がいまして」

「えっ、マジで? すげーじゃん! 各街の活動家って、活動してる最中は全然組織について口を割らねーし、活動が終わると煙みたいに消えちゃうから、話が聞けたためしがなかったんだよね! うひょー、キイのことマジリスペクト!」

「チャラ男落ち着け、コレ。キイ、そいつ何て?」


 コレコレに訊ねられて、キイはこくりと軽く頷いた。


「反国王派という組織は存在しない、と」

「うわっ、出た。俺たちの苦労を一蹴じゃん」

「皆、お金で雇われた活動家で、主導しているのはたったひとりの貴族らしいです」

「そいつ、それバラして大丈夫なのか、コレ?」

「今は活動家、解散してるらしいですよ。先日王都で活動している時に、自分たちは何をやってるんだとふと目が覚めたそうです。……まあ、それ以上はお話ししてもらえませんでしたが」

「たったひとりの貴族、ねえ」


 組織が存在しないなら、いくら探っても見つからなかったのは当然か。

 そいつがジラックの要職についていれば、領主との接点なんていくらでもある。そもそも一対一なら、ジアレイスたちが間に入ってやりとりするのも簡単だろう。

 今後はその貴族の特定が急務か。


 ……しかし、その前に。

 まだ全員の報告が終わっていない。

 キイとクウの報告が済んだ後、そこにしばしの沈黙が横たわった。


「……ルウドルト。後はおたくだけだぞ」

「分かっている」


 短く言葉を促す。すると、ルウドルトはようやく口を開いた。


「……私は、リーデン殿に直接会いに行ってきた」

「はあ!? リーデンに!? ひとりでかよ、危なっ!」

「平気だ。あの人は話も聞かずに戦い始めるような野蛮人ではない」


 彼がリーデンを慕っていたことはネイも知っている。だが、リーデンの忠誠が領主にあれば、ルウドルトと剣を交える可能性だってあったのだ。

 しかし、そうならなかった。

 ルウドルトは、直接会うことでまずそれを確認したわけだ。


「そんな危険を冒して、リーデンからどんな話を聞いてきたんだよ」


 リーデンと会った上でこんな神妙な顔をしているということは、何か良くない話を聞いてきたのだろう。さっきのこちらの報告に対する反応といい、やはり嫌な予感しかしないのだが。


「ジラックの兵士を1人も殺してはならないと」

「えー? そんなの無理じゃない? あっちから襲ってくるんだし。つか、今日だいぶ殺しちゃったし」

「これ以上死体を増やすなということだ。……後々、それが全部魔物としてよみがえる」

「……ん? 魔物としてよみがえるって、どういうこと、コレ?」


 コレコレの問いに、ルウドルトは小さく息を吐いて答えた。


「……今後、死体が全てアンデッドとなって襲ってくるということだ。……ジラックは、死の軍団を作るつもりなんだ」


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