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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【一方その頃】ネイと仲間たち3

 闘技場の地下にあるジアレイスたちがいた部屋には、年代物の禁書が多く置いてあった。

 他に、王家のエンブレムが書かれた背表紙も。これは本来持ち出し禁止の、国の重要な蔵書だ。前国王の時代に持ち出したのだろうか。自分たちの拠点に置かずにこの部屋に置いているということは、ここで使用するための事柄か何かが載っているのかもしれない。


 その中から、ネイはジアレイスたちがまとめたと思われる資料を手に取った。どうやら術式を書き写したもののようだが、残念ながらネイにはこの知識はない。何に関する術なのかは分からなかった。


(さすがにこれを盗って行ったらバレるなあ……)


 用紙のヘタリ具合からして、閲覧回数の高い術式だろう。魔道具に関するものだとすれば、ここから解呪のパスワードを導けるかもしれないのだが。


(あ、そうだ)


 ふと、転移ポーチの中にインスタントカメラがあることを思い出した。ずっと以前、雑務クエストで女装したユウトの写真をレオに提供した時に預かっていたものだ。特に返せとも言われなかったのでそのまま持っている。確かフィルムも何枚かあったはずだ。


 ネイはポーチを探ってそれを取り出すと、術式を判別出来る程度の灯りを点して接写した。最低限内容が分かる大きさがあればいいだろう。

 他にも気になるものは多々あるが、全てを撮っていくわけにもいかない。置いてある場所、そのしまい方、用紙の擦れ具合などから直感的に重要そうなものに絞ってさらに数枚写真を撮った。


 禁書に関しては、最初からネイはれない。

 開くだけで呪いが掛かったり、発火して消失したりするものがあるからだ。これらに関しては後でチャラ男に任せよう。


 とりあえずこの最下層はジアレイスたち以外が訪れることはないのか、調べる必要がありそうな場所はここまでだ。

 ネイはフロア全体にトラップがないかだけ確認し、そのまま坑道へ戻った。






「はい、みんな戻ったな。報告ヨロ。地上ブロック」

「警備員は10人、闘技場のスタッフは15人。雑魚ばっかよ。地上ブロックに関しては、やろうと思えば簡単に制圧できるわ。客が入るフロアだから特に罠もないし」

「中央に情報管理室のようなものがあって、そこで来場者の照合データなどが扱われているようです。あのデータさえ押さえれば、来場していた貴族の摘発は容易かと」

「今の段階での再侵入は要りそう?」

「必要ないわね。小細工するほどの価値がないし、バトルステージは地下からしかアプローチできないようだし」

「同感です。特筆すべきところはありませんでした。他のところに注力するべきかと思います」


 オネエと真面目くんは早々に調査を終えてしまったらしく、すでに見取り図まで描き上げている。仕事が早い。


「んじゃ次、檻ブロック」

「魔物や半魔の管理スタッフが10人くらいいましたコレ。そんで西と東に魔物の檻があって、今は西にランクA魔物の大棘亀スパイクタートル、東にもランクA魔物の毒岩蛇ロックバイパーが入ってました、コレ。今日は固い魔物対決ですね、アレ」

「半魔もいたよ-、檻に入って5人くらい。人狼とか虎人とか。『何者だ』って訊かれたけどリーダーが本当のこと言うなって言うからさあ、濁して『通りすがりのイケメン貴公子です』って言ったら、超警戒されちゃったー」

「余計なことを言うなと言っただけで、嘘をつけとは言ってないんだけど。まあいいわ、そっちは後で俺が行く」

「檻ブロックには逃げ出してもすぐに分かるようにでしょうが、感知系の術式があちこちに掛かってましたコレ。物理的な罠も結構ありましたよ、コレ」

「なるほど」


 まあどちらも大体予想通りか。


「魔研ブロックは降魔術式のスペースと書類や本のある部屋があった。禁書とか機密蔵書とか色々あった」

「あら嫌だわ、禁書置いてるとか、悪のアジトっぽいわねえ」

「禁書というのは大概が稀代の極悪魔導師が書いたものばかりです。それを置いているなら、まさに悪です」

「禁忌魔道書関連ならオレの出番じゃね?」

「コレはチャラ男が適任ですね、コレ」

「はい、というわけで再侵入です。今度は檻ブロック3人、魔研ブロック2人ね」


 ざっくりと闘技場内の状況が分かったところで、それぞれに専門の人間を送り込む。はっきりと得意分野があるメンバーだからできることだ。そうすることで調査の精度がぐっと増す。

 ネイは1人ひとりに役割を振った。


「まず檻ブロック。コレコレは物理罠の正確な場所と種類をチェックね。できたら小細工しといて」

「任せて下さいコレ」


 この指示代名詞男は、罠の専門家だ。罠の発動条件や仕掛け、どこに埋没しているか、どんな種類かをたちどころに見破る。本人曰く、『匂いで分かる』らしい。


「それからオネエ。後々ここを制圧する時にこの坑道から入るから、こっから上下の階段に真っ直ぐ繋がるように、壁に切れ込み入れておいて。蹴り一撃で抜けるくらいの感じで」

「はあい、お安いご用よ」


 オネエは破壊の専門だ。どんな構造物も思い通りに破壊するテクニックを持つ。構造のどこに作用すればどういうふうにものが壊れるかを熟知しているのだ。思い通りに壁をくりぬいたり、ほんの一撃で構造物を大破したり出来る。

 ちなみに人間も簡単に壊せる。怒らせると一番怖い。


「んで、俺もこっち。半魔からの情報もらいに行ってくるわ」


 ネイは人の扱いに長けている。他人に警戒心を与えない振る舞いが得意だ。もちろん暗殺者としてすでに一流だが、さらに人の心の機微に敏く、これこそがライネルから癖のある密偵たちのリーダーに選ばれている理由でもある。


「チャラ男はもちろん魔研ブロックな。禁書と機密蔵書、さすがにヤバそうなのは回収したい。すり替えできる?」

「もちろんっす! オレの偽装工作はそうそうバレないっすよ!」


 チャラ男は魔力に鼻が利く。その感覚の鋭さで、術式の『ヤバさ』が分かるらしい。魔術書関連の仕事をよくしているおかげで、禁忌書類の扱いも慣れたものだ。すり替え加工用に、いろんな本も持ち歩いている。


「真面目くんもチャラ男についていって。多分敵は出ないと思うけど、チャラ男だけだと色々怖いから」

「了解しました」


 真面目くんは、危機回避能力が頼もしい。

 とにかく危険なことに敏感で、誰かがしくじる前に回避してくれる。本人は何かが起きる空気を感じているだけだと言うが、ネイは彼が数秒先を予知する能力を持っているのではないかと思っている。

 まあともかくありがたい能力だ。これが最強じゃなかろうか。


「はい、じゃあまた2時間したらここに戻ること。中の人間に見つからないようにね。またトイレ行きたい人は今のうちに行って下さい。小腹空いてたらバナナあるよ」

「うえーい、バナナ-!」

「お前、何でも食うね」


 チャラ男にバナナを与えると、ネイたちは再び全員で建物の中に入った。


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