さよなら、王都ディアカレス!
前回のあらすじ
陛下に尋ねられた私のもっとも行きたい国。それは人界のどの国でもなく、レオイロス大平原の先にあるゲートの向こう、魔界だったのでした。
しばし度肝を抜かれたように放心していた陛下とエイクエスさまでしたが、やがて二人は顔を見合わせると、私たちの魔界行きを許可してくれました。
「いきなり突拍子もなく何を無謀なことを言い出したのかと思ったが、しかしよく考えてみると、これは意外と妙手かもしれんな」
そう言って、ふむふむと頷く陛下。
いやにあっさり許してくれたなと不思議に思っていましたが、後ほど女神が理由を教えてくれました。
『ルージュに魔界で手加減下手を矯正させる。その提案が抗い難く魅力的に見えるほど、件のグリフォン事件が深く印象に残っていたということでしょう。あなたが再三の注意にも関わらず大山を一つ吹っ飛ばしたという事実に裏打ちされる、あなたをこのまま人界の野に解き放っていいのかという執政者故の強い不安。ですがあなたの提案は、その不安を払拭するどころか着実にルージュと、そして人界の未来に前向きなものであり、同時に魔界に甚大な被害をもたらすであろう攻守一体の妙手だったのです。少なくともギリエイムとエイクエスの二人には、そう見えたようです。ここまでのあなたの実績を踏まえれば無理からぬ結論と言えるでしょう』
『事実じゃないし! タイローン山を吹っ飛ばしたのは私じゃないですし!』
陛下とギリエイムさまの脳裏では、私こと勇者ルージュが魔界の山や湖を駆け回り、「あはは! あはは!」と笑いながらばっしゅばっしゅと剣を振りまわして辺り一面を壊滅させながら爆走していく様子がなんか克明に思い描かれていたらしいです。激しく異議を申し立てたい。私のイメージどうなってるの!?
『唯一の懸念として、レベルを上げる間もなく庶民生まれのルージュをいきなり魔界へ送り出すことへの危惧があったようですが』
『あっ、そうですよね! なんか最近バロールのせいでいきなりレベルが上がりましたけど、そのことは陛下たちには言ってないですし! やったっ私心配されてるっ!』
『魔族どころか魔王でさえも軽く返り討ちにされるビジョンしか見えず、別に襲われてもよくない? ていうかそのまま魔王討伐してもらってもよくない? という考えから許可を出しました』
『そんなこったろうと思ったよ!』
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とまあそんなこんなで十日が経ちました。
あっという間の日々でした。私を魔界に放り出す……もとい、送り出すことに国益を見出したエイクエスさまの手腕が光ったのです。
ゴードグレイス聖王国が一丸となって本気を出した結果、私たちが陛下に希望を告げた翌日にはもうハルグリア帝国来訪までの予定ができあがっていました。
私という勇者の次なる目的地が、ハルグリア帝国に定まった瞬間です。
まずは、ハルグリア帝国へ先触れとなる使者が送られました。私という勇者の来訪を予め伝えるという重大な役目を担う使者は、陛下が信頼する近衞騎士団の中から選ばれました。
その騎士さまは近衞騎士団の中でも随一の腕前を持ち、またゴードグレイス聖王国のみならず、他の国々でもその名の知れた、有名な人物。
というか、アグニでした。
「アグニが使者になったんですか?」
「そうだ。自ら志願した。陛下の『送還』は送ることはできるが戻すということはできないからな。それならば、君と共にハルグリア帝国に向かうことが確定しているオレが適任だろう。オレはハルグリア帝国の帝城で、君が『送還』されてやってくるのを待つことになる」
私がびっくりしたのは、アグニが使者になるだなんて全然聞いてなかったからです。
アグニの言い分はもっともで、確かにアグニは適任でした。だけどせめて一言くらい、事前に相談があってもいいんじゃないですかね。
そう思ってふくれる私の頭に、アグニの大きな手のひらがポンと乗せられました。
「勝手に決めたことを怒っているのか?」
「別にそういう訳じゃないですけど」
「そうか。だがオレも一度君に置いていかれたから、これでおあいこだ」
そう言って、私の頭頂部をぽふぽふするアグニ。
置いていったというのは、陛下とアグニの目の前で転移魔法を使って、エミルを迎えにいったときのことを言っているんでしょうか。
あれは確かに、アグニからすれば置いていかれたも同然で、申し訳なかったかなとは思いますけど。
意外と根に持つんですねアグニ。
思わずじとっとした目で見上げてしまいましたが、アグニは湿気を吹き飛ばすようないつもの笑顔を見せました。
「なに、心配は要らないぞルージュ殿。タイローン山では少し失敗してしまったが、オレの気力は充実している。先触れの使者の任はオレに任せてくれ。ルージュ殿がいかに素晴らしい勇者であるのか、余すことなく帝国の民たちに語って聞かせよう!」
そして聞き捨てならないことを言いました。
「……えっ! なに言ってるの? 語るってなんのこと!? 余計なことは言いませんよね!?」
「ハハハ、こと君に関して余計なことなどあるものか。おっと、すまないルージュ殿。時間が圧している。今日にも装備を整えて、陛下の『送還』を受けねばならない」
「アグニ! 話を聞いて!」
「ではルージュ殿、ほんの数日の別れだが、息災を祈る! ハルグリア帝国で君を待っているぞ!」
「待って! アグニ! こんな時に限って話を聞かないのやめて! アグニ! アグニーーーーーーーーっ!!」
アグニは私の制止を振り切って、その日のうちに陛下の『送還』を受けてハルグリア帝国へと旅立っていきました。
どうしよう。ずっと楽しみにしていた魔界への旅路に、さっそく暗雲の影が見えます。
大丈夫かな。私が帝都に降り立った瞬間、悲鳴をあげられたりしない?
ですが私の不安をよそに、王都ディアカレスは平和でした。
隣にアグニがいないことにちょっとそわそわしつつも、不安を抱き続けることにたった数日で疲れた私は、それなりに楽しく王都の日常を過ごしました。
これから暫く王都を離れるということで、王都で知り合った方々に挨拶をしにいったりもしました。
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「オォ、ようやく旅立つのか勇者のお嬢ちゃん。っていうか、まだ王都にいたんだなおまえさん。俺ぁてっきりもうとっくに旅立ったのかと思ってたぜ」
アグニの友人で、王都の東門を守る強面兵長さんことジィドさんです。
夏の日差しを受けて、見事に剃り上げられたジィドさんの禿頭が、アグニの黄金色の頭髪とはまた違った輝きを見せています。
「挨拶ぅ? あー、こりゃあまた律儀にどーも。ところで、今日はお嬢ちゃんだけか? アグニの野郎は…………あぁ? 先に帝国に行っただあ? チッ、あいつこそ俺に一言言いに来いってんだよバカが畜生」
ジィドさんはガリガリと頭を掻くと、その手をポンと私の頭に乗せました。
それはアグニみたいな仕草で、やっぱり友達って似るのかなぁと思いましたが、正直言って頭を掻いた手でそのまま撫でるのは止めてほしいなと思いました。
「まぁ、なんだ。アグニの野郎にはお嬢ちゃんから、今度こそ俺に美味い酒を呑ませろって伝えといてくれや。
じゃあな、勇者のお嬢ちゃん。帝国に行っても元気でな。アグニの野郎には死ぬほど迷惑をかけてもいいが、おまえさんは軽々しく死んだりするんじゃねーぞ。お嬢ちゃんの命で救われたって、俺もアグニも喜びゃしねえからな。
あぁ、そうだ。お嬢ちゃんよ、ここだけの話、アグニのことをどう思ってんだ?
あいつは筋金入りの一直線バカだが顔はいいだろう? あれで王都じゃ結構モテてんだよあいつ。そんなあいつと曲がりなりにも男女二人っきりで旅してよ、そりゃあおまえさん、何もねぇってことは流石に…………え? 何もない? 本当にか? またまた…………本当になんとも思ってないのか? あ? いい仲間? あー………………そうか。悪かったな。変なこと聞いてよ……」
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「ゆっ、勇者さまぁああー! いっ、いっ、行かないでくださいぃいいー!!」
悲痛さの籠った涙声をあげて私を囲んで引き止めようとしているのは、王城で暮らしているうちに仲良くなった、王城で働く侍女さんたちでした。
「なんでですかあ、なんで帝国なんかに行っちゃうんですかあ! 私いやですう! ずっとこのお城にいてくださいぃい!」
なんでも何も、勇者なんだからいつか旅に出るのは当然なはずなのですが、取り囲む侍女さんたちは誰もがだばだばと涙を零して冷静さを失っていました。
肩を振るわせ、地団駄を踏み、顔をくしゃくしゃにしてわあわあと泣き喚いてまで「行かないで」と言ってくれる王都でできた友人たち。
そんな彼女たちの姿に、私は心底感じ入るものが──
「見てください! このお肌のハリ! ツヤ! 勇者さまと混浴してから、諦めかけてた若さが戻ってきたんです! もう戻ってこないと思ってた若さを、また失うだなんていやですうう!」
「お願いします! お願いします! 私いまお付き合いしてる方がいるんです! 結婚できるかどうかの瀬戸際で、適齢期的にはもうギリギリアウトなんです! このラストチャンスを前に、いま輝きを失うわけにはいかないんですうぅう!」
──とくにあるはずもなく、私は光り輝く侍女さんたちに肩を掴まれてガクガクと揺さぶられながら、歳を取るってほんとに怖いことなんだなあと他人事のように考えていました。
「ずっとお城で暮らしましょ? ね? ね? 私たち、みんなでお金を出し合って勇者さまをもてなしますから! 魔王なんかずっとほっといて、私たちと暮らしましょ!? どっ、どっ、どうしても旅に出るっていうなら、お願い、毎日戻ってきて! 転移魔法があるんでしょ!? だったら毎日お城に戻ってきて、私たちと一緒にお風呂に入ってえええ!!」
せせせせかいががゆゆゆゆれれるるるるる。
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「おや、勇者殿ではないですか。……どうしました? 御髪が乱れておりますが」
王都で色々とご迷惑をおかけした、宰相のエイクエスさまにもご挨拶に伺いました。
エイクエスさまは陛下のいない執務室にいました。目の下に色濃い隈を作り、私に負けず劣らず髪をぼさぼさにして、明らかに寝不足と分かる疲れ切った様子で、どこか悟りを開いた修行僧のような微笑みを浮かべながら書類仕事をしていました。
「なるほど、お別れを言いに来たと。いえいえ、こちらこそ、勇者殿には色々とお世話に…………本当に………………おせわに…………………………………………なりましたね………?」
ペンを持つ手を震わせながら空っぽな笑顔を浮かべるエイクエスさまの姿に、私は早くも、この部屋に一人で来たのは間違いだったかもしれないなと思いました。
「ろくにお構いもできずにすみません。なにせ、隣国がタイローン山…………もとい、タイローン山跡地付近に大軍を派兵したとの情報が入りまして、その対応に寝る間も惜しい状況でして。ええ。隣国の動きは当然で、尤もなのですよ。今まで当たり前のようにそこにあったタイローン山が、一夜にして崩壊したと知れば、軍を派兵して詳しい調査をするに決まっています。なにせタイローン山脈は我々という大国との国境線。その焦りや驚きは一入でしょうね。ましてやタイローン山を吹き飛ばしたのがゴードグレイス聖王国に滞在していた勇者となれば、これはもう宣戦布告と捉えられても仕方がない。人界が一丸となって魔界という脅威に立ち向かわねばならないこの時に、まるで固い結束に楔を打ち込むが如くの無礼で暴挙で間の悪い…………ああ。失礼。少し話が長くなってしまいましたね。別に貴女を責めたい訳ではないのです。いいのですよ、頭をあげてください。そんな必死になって謝ることはありません。いいのです。いいのですよ。本当に……本当に…………」
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「よく来たな勇者よ。……どうした? 存分に英気を養う時間はあったはずだが、なにか妙に疲れた顔をしておらんか?」
「いいえ、陛下。この王都で知り合った、かけがえのない友人たちのことを思い出していただけです」
『瞳がハイライトを失っていますよ。今すぐ光を取り戻すのです』
『今更ニンゲンがどうとは言わんが、おまえ付き合う相手はもっと選んだほうがいいぞ』
そんなこんなで、私とエミルがハルグリア帝国へと『送還』される日がやってきました。
流石に勇者の旅立ちとあって、お馴染みになってしまった執務室ではなく謁見の間へと呼ばれたのですが、今日はなかなかすごい人口密度です。貴族さまや騎士さまのみならず、城中の人たちが参列を許されていたからです。
王城の侍女さんたちの姿も見えます。何人かが未だに鼻を啜っていてちょっと引く。
私に……というよりエミルに手を振ってくれているのは、エミルと仲良くなっていた騎士さまや厨房の料理人さんたちでしょう。エミルは魔族で竜王ですが、それでも打ち解けられる人間は確かにここに存在していました。色々あって荒んだ心が癒されていくのを感じます。エミルもそっぽを向いてないで、尻尾の一つも振ったらいいのに。
そうそう。仲良くなった貴族さまと言えばジエン侯爵さまですが、貴族さまがたの列の中にその姿はありません。ジエン侯爵さまは例の自称サディスト変態筋肉ことクラウスさんのお屋敷から監禁されていた少年らを救出したあと、彼らを保護するために領地へ戻っているからです。
そんな理由で一足早くお別れを済ませたジエン侯爵さまですが、お別れに際しては妙にほくほく顔というか、どこかツヤツヤしていたのが記憶に新しいところです。今頃領地ではどんなハーレムライフが繰り広げられているのでしょうか。またお会いした時には、そこのところ詳しく追及したいと思います。
さて、王都では何かと軽装で歩き回ることが多かった私ですが、今日は久方ぶりに旅の装いを固めています。向かう先は荒廃したレオイロス大平原に面した、ハルグリア帝国の首都スタングローヴ。その都市では特に砂塵がすごいと聞いたので、季節は真夏ですが、王都で買ったフードの付いた薄手のコートを羽織っています。
一方のエミルはというと、普段通りのだぼだぼっとしたローブ姿……ではなく、大きな緑竜の姿をしています。その体には黒光りするハーネスに似た竜具が取り付けられていて、その背中に取り付けるようにして、私たちの旅の荷物が搭載されています。
デルタとバトンタッチして、ここからはエミルが私たちの積み荷の担当になります。三人ぶんの重たい荷物ですが、力強い雄姿を誇る竜王たるエミルならば軽いものです。
『確かに重くはねーけどよお。なあ、やっぱ荷物の配分おかしくね? ここで10対0を要求してくるオマエのメンタルマジ勇者だよ。せめてオマエもリュックサックの一つくらい背負えよ!』
竜王たるエミルならば軽いものなので、真の勇者たる私は聞こえなかったふりをしました。
「さて、勇者よ。今こそそなたは我がゴードグレイスの地より旅立ちを迎える。やがて復活を遂げるであろう次なる魔王の脅威に備えるため、自身の力を高め、誰よりも信頼できる仲間を集める旅に出るのだ。まぁ、とは言えそなたとその隣を見ていると、戦力過剰の文字が脳裏をよぎって離れぬのだが」
「アハハ」
ここは笑うところかなと思ったら、陛下に睨まれてしまいました。
あっ! ため息までついた!
「故に余は、勇者と、そのパーティメンバーであるアグニとエミル、この三人による魔界への遠征を認める。その目的は魔王討伐でも魔族根絶でもなく、ある意味この旅本来の目的に基づくものだ。すなわち、勇者のレベルアップである。魔界は過酷な世界だと聞くが、そなたの魔力量とこれまでの実績から鑑みればむしろ適切であろう。
勇者よ。余はそなたの手加減下手を、そなたの唯一の欠点だと考えている。これを矯正することは、間違いなくそなたの、そして人界のためになることだ。だからあまり宰相の胃を痛めさせてくれるな。頼んだぞ勇者よ」
「はい……」
優しく窘めるような陛下の声になんだか恥ずかしさを覚えて、頷くふりをして俯く私。
こんなことを思うと不敬かもですけど、まるで親戚のおじさんみたい。タイローン山の一件以来、エイクエスさまの態度はどこか刺々しくなっちゃいましたけど、陛下の包容力はどこか、当然あるべき年齢差みたいなものを感じさせるんですよね。
陛下は気を取り直してか、こほんと一つ咳払い。そして改めて威厳たっぷりな声で、広間中に聞かせるように言いました。
「では、そなた達を余の『送還』によってハルグリア帝国へと送り届けたいと思うのだが」
「はい! 陛下、よろしくお願いします!」
私はすっくと立ち上がり、どんとこい! みたいな感じで「んばっ」と両手を広げました。
勇者の転移魔法は、魔力の高まりと同時にしゅばっ、という感じで移動するのですが、陛下の『送還』はどんな感じなのだろうかと、実はちょっぴり楽しみでした。
「具体的には、ハルグリア帝国の首都スタングローヴの正門前に、送り届けたいと思うのだが」
「はい! 大丈夫です! いつでもどうぞ!」
「いや大丈夫ではないぞ勇者よ。そなた、もしや竜王をそのままの姿で転移ではあるまいな?」
一つ瞬きをするほどの時間が流れました。
私はエミルへとゆっくり振り返ると、見上げるようなその勇姿を改めて視界に収めました。
二本の太い足でどっしりと床を踏みしめ、堂々と胸を張るように佇む、小山のような巨大な生物がそこにいました。
エミルの前進を覆う緑竜の鱗は、触れればスパっといってしまいそうな硬質かつ鋭利な輝きに包まれています。まるで全身に宝石を纏っているかのような、高貴かつ神々しい姿です。
そしてその顔つきたるや、人化したエミルきゅんの可愛さとは真逆の獰猛さを秘めた造形です。既に見慣れた私としてはカッコいいなーくらいの感想ですが、いつか竜化したエミルを間近で見た王城の騎士さまが「見たかよ。あれは間違いなく騎士を食い殺す顔だぜ」「いや、あれはむしろ人なら誰でも食い殺すって顔だぜ」「うむ」「わかる」などという会話をしていたのを覚えています。
その存在感たるや、Sランクに分類される魔物グリフォンにも引けを取りません。いえ、実際にこの目でグリフォンを見てきた今なら言えます。エミルはSランクの魔物なんかより、ずっと生物としての格が上なのだと。
そう思うと、私はなんだか急に自分が誇らしくなってきました。
なんてったって、それほどまでの存在である竜王エミル・エアーリアはいま、私の従者になってくれたのですから!
どうしよう。
なんだか無性に自慢したい。
今すぐエイピアの町に引き返して、エミルのことを見せびらかしたい。
私はこんなすごい魔族を、従者にして、ちょっぴり調教して、お風呂なんかも一緒しちゃった仲なんだぜとご近所中に触れ回りたい。
私はまず手始めに、妄想の中で故郷の幼馴染みことコロンとエミルを対面させてみることにしました。
シチュエーションはサプライズ。
何も知らないコロンの元に私とエミルは転移してきて、私はどやっと胸を張り、エミルはぼぼぼぼっと炎を吐いてみせて(魔王注:吐かんぞ)、私はコロンに言うのです。
『どうっ! 見てみてっ! これ、私の従者なんだよ!』
するとどうでしょう。
コロンのくりくりとした瞳が、ものすごい勢いでカッと見開かれて──
『…………ホッ。ホギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
そこでハッと目が覚めた私は、ゆっくりと陛下に向き直りました。
そしてにこりと微笑んで、私はこう言ったのです。
「やめましょう」
「それが賢明だ勇者よ」
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そんなわけで。
「さあエミル、その竜化を解いてください! 荷物は体に触れてさえいれば、一緒に『送還』されるらしいですよ!」
『チッ、だったら最初から持たせるんじゃねーよ! あと、解いてくださいじゃなくてとっととこの竜具外せ。これ自分じゃ外せねーんだよ!』
エミルがくいくいと背中の辺りを指差して言いました。
どうやら金具に指が届かないようです。
かわいい。
『つーかよく考えたら、この竜具、自分で装備もできねーことにいま気付いたぜ。ルージュ、オマエこれ俺に装備させられんの?』
「いえ、やり方知らないです」
『つっかえ……いや。オマエにべたべた触られながらこの竜具を取り付けられるとかそっちのほうが鳥肌モノだったわ。一生覚えなくていいぜルージュ。だから『盲点だった』みたいな顔でこっち見んな』
「大丈夫、アグニがちゃあんと装備の仕方を覚えてますよ。そうだ! 私もアグニに教えてもらおう。私もお手伝いして二人でしたほうが早いですしね!」
『なにい!? おいバカやめろ! 俺とアグニの貴重な時間を邪魔するんじゃねえ!』
私の従者の自覚が足らないアグニ大好きっ子……大好き竜? のエミルきゅん。
いえ、ある意味自覚に溢れていると、そう言ってもいいのかもしれませんが……(鼻を抑えながら)。
「それはさておき、外すだけなら普通に竜化を解いたらいいんじゃないですか? だってその竜具、人のサイズを考えたら全然ぶかぶかですよね」
『あー……。言われてみればそれもそうか。いや、ちょっと待て。荷物どうすんだ』
「仰向けになれば? 全部背負ってるんですし」
竜王エミルは荷物を全部下にして、まるでクッションに仰向けに寝そべるみたいな姿勢をとりました。
「なにこの無防備な竜……。か、かわいい……!」
「見てあれ。お腹見せてる。かわいー」
「ぶふっ! ぶふふっ! エミルっ! それやばい!」
「おれ、あの竜王なら倒せる気がする」
『オマエらうっせーぞ! 最後のヤツかかってこいやあ!』
急に騒がしくなった謁見の間に、エミルが半ギレ気味に言いました。
ちなみに私は三番目でした。
『チッ! それじゃあ竜化を解くからな!』
そしてエミルは翠色の光に包まれ、みるみるうちにその輪郭が縮んでいきました。この光が収まったとき、エミルは暴虐不遜な風と嵐の支配者こと竜王エミル・エアーリアから、風に散らされたようなナチュラルショートヘアをぶかぶかローブのフードに収めた、ショタ緑竜族エミル・エアーリアへと華麗に変身するのです。
さて、その前に一つ、エミルの装備している竜具について説明したいと思います。
エミルの竜具は、竜に装備する馬具をイメージして作られた、王都の職人さんたちによる特別な特注品です。
そのデザインは主に私の希望に合わせ、竜王エミルの全身をぎちっとタイトに締め上げるハーネスタイプ。
それは見ようによっては、まるで全身をきつく縛り上げる縄のよう。加えて竜具は魔物の革をベースに深い黒色に染め上げられており、口元に噛まされたミスリル製の轡と相まって、非常に想像力を掻き立てるこだわりの逸品へと仕上がっています。
ですがいかにタイトな造りと言えど、それは竜王の巨大な体躯にあわせて作られたからこそ。
みるみるうちに縮小していくエミルの体に、竜具はぽつんと取り残されて…………いくかと思いきや。
どういうわけか黒光りする竜具はエミルと一緒に縮んでいき、あっという間にあらふしぎ。
「…………ほひ」
そこにはなんと、たくさんの荷物をベッドにして横たわる、翠色のローブの上から黒革的な何かでぎっちぎちに束縛され、噛まされた口枷のせいで発声もままならないウルトラ背徳美少年エミルきゅんがががががががががが!?
こっ、これはーーーーーーーっ!
これはっ!
これわわわわわわーーーーーーっ!?
「さっ、さっ、さっ、サイズ自動調整だー!!! この効果! その竜具もマジックアイテムだったんだ!!! さっ、さっ、さっ、サプライズだーーーーーーーっ!!! 職人さん、ありがとおおおおおお!!!」
『っはへんなほあーーーーーーっ! はうへっ! ひまふぐはうへーーーーーーーーーっ!!』
血涙ならぬ鼻血を吹き出しながらあまりの感動に咽び泣く私!
どういう仕組みか両腕もがっちり縛られているらしく、仰向けのままびったんびったんと暴れて叫ぶエミルきゅん!
なんて、なんて素敵なサプライズ! 嬉しすぎて鼻血が止まりません!
こんなの女神さまに祈らずにはいられません!
女神さま! ありがとう! 私に職人さんたちを遣わしてくれて、本当に、本当にありがとう! 大好き! 愛してます!
『いいのですよルージュ。ゴミカス魔界とクソッタレ魔族の全てはあなたの幸せのためにあるのです』
『躊躇なく自分の手柄に上積みした上魔界を売ったぞこのクソ女狐! 汚い! 流石女神は汚いわー!』
慈愛たっぷりの女神。もがくエミルそっちのけでツッコミに走る魔王。
そんな混沌を制したのは、事態を静かに見守っていた、ゴードグレイス聖王国国王、ギリエイム陛下その人でした。
「…………『送還』」
『『「「あっ」」』』
その瞬間、私とエミルを中心に温かな光が広がったと思うと、私の意識は抗う間もなく急速に流れていって──
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──その跡には、勇者ルージュが残した無数の血痕だけが残されていた。
「…………」
「…………」
謁見の間を支配する静寂が重い。
誰もが言葉を発せない中、唯一その場で発言権を持つ男が、疲れ果てたように頭を振る。
そして一言。
「そなたらもどっと疲れたことだろうが、当代の勇者ルージュはこうして無事旅立ちを迎えた。いいな? 無事に旅立っていったな? 特に胃痛で倒れた宰相には、くれぐれもそう伝えておくように。
では皆の者、新たなる勇者の門出を祝え」
微妙な空気の謁見の間に、まばらな拍手の音が響いた。
新年あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします。
年末年始? なにそれ? レベルで何かと忙殺されていた間に、なんと総合評価1000突破、スコ速さんにも取り上げられてて、ヤベぇ早く更新しなくちゃ! でもお仕事が待ってくれない! そしてCOJP面白い! そんな、状態でした。
すみませんでした。
お仕事ラッシュも今週で終わりのはず……せめて今月中にあと2回は更新したい……!
今年も書き溜めはありませんが、どうぞ拙作をよろしくお願いします。




