皇帝、食卓にて笑う。
前回のあらすじ
周りに被害は出さないでって! 倒すのはグリフォンだけにしてって! 何度も言ったじゃないですか! だから言ったじゃないですかあーっ! (ドンデンドンデンッ)
大陸南部に広がるレオイロスという名の大平原の果ての荒野に、切り立った断崖の岩壁を背負った馬蹄形の都市がある。
無数の傷痕が刻まれた、歴戦を思わせる頑強な外城壁に囲まれたそれは、人界に数多くある街や都市の規模を超え、かのゴードグレイスの王都ディアカレスにも匹敵するほどの巨大な都市だ。だが、夜市の賑わいによって眠らぬ都市と称される王都とは違い、その都市はいま、とっぷりと夜の宵闇の中に落ちている。
眠りについた都市を僅かに照らすのは、外城壁の上に焚かれた無数の篝火だ。その都市の外城壁はその分厚さ故に何人もの兵士が横に並んで通れる間があり、闇の中に目を凝らせば、そこには篝火の側を行き交う幾人もの兵士たちの姿が見えた。
彼らは壁の上から外の異常を見回る警邏の兵士たちだった。上官の目も届かない闇夜の中での見回りであったが、彼らは一様に一言も無駄口を叩かず、退屈そうにあくびを漏らす者もいない。まさに臨戦態勢を整えた兵士の士気であり、そして彼らにそれを維持させているのは、偏にその土地柄だった。彼らは自らの住まうこの都市が、いつ如何なる時でも脅威に晒される危険があることを理解しているのだ。
篝火が照らす荒野の向こう。
都市が形作る蹄の爪先が向かう先に広がっているのは、人類史に幾度となく綴られて来た戦地。レオイロス大平原と呼ばれ、恐れられている土地だ。
曰く。幾星霜と続く戦いの中で、多くの血と怨嗟を吸い込み続けて来た不毛の大地。
曰く。無数の魔物どもが徘徊し、どれほどの大盗賊だろうと生存を許さない死の大地。
だが真に兵士たちが恐れるのは、その土地が、魔物でも盗賊でもなく魔族を生み出すという点だろう。
そう。レオイロス大平原とは人界で唯一、魔界へのゲートが開く土地。
勇者はレオイロス大平原から魔界へ旅立ってゆき、そして魔族は、レオイロス大平原の彼方からやってくる。
突然の砂煙に目を瞑った次の瞬間、大地を埋め尽くすほどの魔族の軍勢を垣間見ても不思議ではないのが、このレオイロス大平原という場所なのだ。
だが。
その都市は今日も危険の隣にあって、しかし僅かな目だけを頼りに剛毅に眠りに就いている。
吹きすさぶ荒野の夜の帳の中、レオイロスの地を睥睨するように灯る蹄型の炎は、都市の民たちの闘志を象徴するかのように静かに燃えて揺らめいている。
彼らの矜持を支えるのは、この都市の住民たるという自負である。
危険な大地の目と鼻の先に悠然と構えるこの都市は、何の誇張も過言もなく、まさしく人界の最前線。
故に人々は鍛え、備える。
いつか必ず訪れる闘争を予見し、一人ひとりが戦士たらんとする気概を持つ。
故に兵士たちの目に諦めはなく、人々の心に怯えはない。
実に480年以上。人界と魔界との間の戦争の火蓋が切って落とされたその十数年後からの長きに渡り、この都市はそうやって、ただの一度も魔族の侵攻を許さず戦い抜いてきたのだから。
不落の伝説を持つ城塞都市。
その都市の名はスタングローヴ。
《大地を踏むもの》を冠するその都市は、正面に広がるレオイロス大平原の頭を抑える人類の防波堤とも呼べる都市であり、北に位置するゴードグレイス聖王国と並び称される人界屈指の軍国と名高い大国、ハルグリア帝国の首都でもあった。
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眠る帝都スタングローヴの一角に、闇の中、一際強く魔法灯の光を零すハルグリア帝国の帝城がある。
正しくは、帝城と呼ばれている建造物がある、と言うべきだろうか。岩壁を背にして建てられたそれは、大都市の規模を無視しても、城と呼ぶにはあまりに小さい建造物だ。城壁はなく、高さもなく、見張り台に取って付けたようにこじんまりしたバルコニーがあるだけのそれは、城と呼ぶより砦と呼ぶのが相応しい。事実それは遥か500年以上も前に砦として建造されたものだったが、ハルグリア帝国という国の歴史の最古の礎たるその砦は、魔族との闘争の歴史を経て、今ではハルグリア帝国の誇りと栄誉の象徴として民に広く親しまれている。
歴史を思わせる古びた外観だが、帝城の内装は皇帝の居城たるに相応しく整っている。改装に改装を重ねた帝城は、見た目はともかく中身は立派な近代建築に生まれ変わっていた。
そしてそんな帝城の中にある、皇族のための居住区にその食堂はあり、
ハルグリア帝国現皇帝ディネイト・ヴェル・アレキサンドル・ハルグリアと呼ばれる男がそこに座していた。
白髪を撫で付けたような髪型をした、勇ましく逞しい男であった。
肩幅が広く、その背中は椅子の背もたれに収まり切らないほどに大きい。
そしてその体格にみっしりと絡み付く強靭な筋肉は、彼が紛れもない実力者であることを物語っている。
それに加えて大陸南部の人間らしい彫りの深い顔立ちが、中年期を迎えてなお渋みとなって彼の男の魅力を存分に引き立てている。
勇猛さがダンディズムの皮を纏ってこの世に顕現したかのような男。
それが皇帝ディネイト・ヴェル・アレキサンドル・ハルグリア。
己の武力が物を言うこの国この時代において、平民に生まれながら一代にして皇帝にまで成り上がった武人の姿であった。
さて。
その皇帝ディネイトだが、普段は口元を引き締めた凄みのある表情をとっている。
その鋭い眼光は、射抜いたものを震え上がらせる異様な迫力となって相手を威圧するものなのだが、
「ハハハハハハハ! ワーッハッハッハッハッハッハ!!」
今は腹を抱えて爆笑しながら、ダンディズムそっちのけでばっしんばっしん膝を叩いており見る影もない。
目じりに涙を浮かべて破顔するさまは愛嬌さえ感じられるが、こう見えて普段は威厳豊かな立派な皇帝なのである。普段はだが。
ディネイトが膝を叩くたびに、水の入ったグラスがぐらんぐらんと不穏に揺れる。
それを見て、この上なく不機嫌そうに苦言を呈したのは彼の向かいの席で食事をしていた麗しい金髪縦ロールの少女である。
「お父様。仮にも皇帝の開いた晩餐会の席で爆笑するのはいかがなものかと思いますわ」
湧き上がる怒りをこらえてか、ふるふると肩と縦ロールを振るわすその少女の名は、エーリ・フォイエ・ディネイト・ハルグリアという。
目の前でひいひいと爆笑している皇帝ディネイト、そしてその隣でニコニコと微笑む皇后フォイエとの間に生まれた、ハルグリア帝国の皇女である。
「そうは言うがな、エーリよ。おまえも聞いていただろう? 当代の勇者、ルージュと言ったか? 話には聞いていたが、とんでもない逸材らしいじゃあないか。
よもやグリフォンを討伐しにいって、山ごと消し飛ばして帰ってくる勇者がいるだなんていったい誰が想像できた? 面白すぎるだろう! これが笑わずにいられるか!」
そう言うや、ディネイトは再び天井を見上げてがっはがははと大笑いする。
それとは対照的に、皇女エーリの機嫌はどんどん悪くなっていくようだ。だが皇帝たる父の無様を情けなく思うというよりは、火に油を注ぐような、何か直接的な怒りが燃え上がっている様子である。
ディネイトに相手にされないと見るや、エーリはぎりぎりと歯を鳴らしながらその隣へと視線を移した。ぎん! と吊り上がった鋭い視線が実の母親へと向けられる。
だが皇后フォイエはまるで動じない様子である。彼女はきほんディネイトの味方だ。愛するディネイトが上機嫌であるのが我が事のように嬉しく、そして恋する乙女の無敵さの前には娘の八つ当たりなど無力なのだ。
明るい幸せ空間を築く両親の姿に、エーリの苛立ちは増すばかりである。だがその怒りの原因は、決して両親にあるわけではない。
エーリはイライラを吐き出すように深く深く息を吐くと、最後に扉を睨みつけた。
たった今、ゴードグレイス聖王国の使者を名乗った一人の騎士が退室していったばかり扉を。
キラキラと輝く頭をした、紅蓮の瞳の騎士であった。
そしてその人物が話していった内容こそが、ディネイトとフォイエを喜ばせ、エーリを深く苛立たさせる直接の原因でもあるのだ。
(…………忌々しい)
エーリは心の中で密かに毒づく。
(何が…………何が、勇者ルージュ)
その名前が、エーリをひどく苛立たせるのだ。
(ただそこにいただけで…………自分では何もすることなく、ただ力だけを手に入れたくせに!)
エーリ・フォイエ・ディネイト・ハルグリア。
避けられない闘争に常に包囲されてきた帝都スタングローヴにおいて、ただ己の実力によって皇女の名に恥じない武勇を積み重ねてきた彼女を称え、人々は彼女を『青薔薇姫』と呼ぶ。
もし仮に、次の勇者に女性が選ばれることがあるとしたなら、それはきっと『青薔薇姫』に違いない。
国内外からそう評されるほどには武名の知れた彼女だったが、しかし今、その評価は、他ならぬ女神トーラによって明確に否定されている。
何故なら当代の勇者に選ばれた女性の名は、エイピアという辺境に生まれたルージュという名の少女であり。
『青薔薇姫』エーリ・フォイエ・ディネイト・ハルグリアは、勇者たり得なかったのだから。
(誰も名前も聞いたこともない、ただの町娘だったくせに。
ただ女神に与えられただけのぽっと出の勇者だなんて、わたくしは、絶対に認めたりなんかしませんわ──!)
勇者になり損なった少女は、朗らかに笑う両親の前で一人暗く俯きながら、決して誰にも吐き出せなかった思いをぐっと噛み締める。
これは、両親にも、誰にも打ち明けていないことだったのだが。
エーリは、勇者になりたかったのだ。
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その使者が帝都スタングローヴに訪れたのは、その日の昼過ぎのことであった。
ゴードグレイス聖王国の近衞騎士と名乗ったその男は、皇帝ディネイトに謁見を申し出ると、勇者ルージュが近く帝都に『送還』されてくることを告げた。
『送還』の先触れである。
ゴードグレイス聖王国を統べる王族に伝わる血統スキル『送還』は、一度でも自身が訪れた場所に他人を瞬間的に送ることのできる特殊なスキルである。
見知らぬ場所に送ることはできず、また自分自身を送ることができないという欠点はあるが、代々の勇者にのみ授けられるという転移魔法によく似たそのスキルは、人界で最も素早く正確な情報伝達を可能とする手段として、その存在の優位性を保っている。
その血統スキルは人界に住まう人々の間ではあまりにも有名であり、そして同時に、王族や勇者を初めとする重要な人物を『送還』する際に先触れとしてその訪れを予告する使者を遣わすということは、ゴードグレイス聖王国と国交をかわす各国の間では有名を通り越して常識であった。
勇者の来訪を告げるという役目を果たした聖王国の使者にこの後のことを尋ねると、使者は勇者が『送還』されるまでの間、帝都に滞在したいと答えた。数日後に送られる予定の勇者と、この帝都で合流する手はずになっているのだという。
それを聞き、ディネイトはこの使者が帰国するつもりなのだと理解する。ここが勇者の先触れとして送られてくる使者に共通する面白い所で、『送還』された先で何らかの役割がある者は足早に城を去っていき、早々に帰国するものは城に留まるのだ。普通は逆だと思うかもしれないが、ここに勇者の転移魔法の存在を加えると話が噛み合ってくる。
既に王都ディアカレスを訪れた勇者となれば、転移魔法を習得しているはずだった。勇者の手でゴードグレイス聖王国に転移する手はずになっているのだとすれば、この場に留まるというのは理にかなった答えであった。
ディネイトが使者を手厚く迎えるよう配下に指示を出すと、使者は帝城に設けられた客室の一つに滞在することが決まる。
その晩、ディネイトは使者を晩餐会に招いた。
晩餐会と呼べば聞こえはいいが、その実体は単なる夕食への招待だ。ただ、その場所が帝城内の皇族の居住区内の食堂であり、給仕と毒味役がいることを除けば、そこに同席する三人の人物が全員皇族というだけのことである。
ディネイトが使者を招いたのは、近く訪れるという勇者に興味が湧いたからであった。
勇者の訪れが、通例よりも早いのである。
ハルグリア帝国はいわば、魔界と隣り合わせの玄関口のようなもの。勇者が帝国を訪れるのは勇者の旅の後半以降になるのが通例で、勇者が王都に辿り着いたとされる日付から数えても、今回の早さは異例と言える。
そんなディネイトの思惑から生じた晩餐会だったが、その動機はともかくとしても、常人であれば尻込み必至な皇帝からの直々の招待を、なんと聖王国の使者は事も無げに受けた。緊張に喘ぐどころかどことなく嬉しそうですらあったと、皇帝の言葉を預かった文官は目を丸くしたという。
そうして開かれた晩餐会の席についたのは、皇帝ディネイト。皇后フォイエ。皇女エーリ。そして使者を含めた4人である。
使者は並べられた豪華な料理に心奪われる……ということもなく、食事そっちのけで皇帝ディネイトを相手にそれはもう熱心に語り合う事になった。
話題の中心は無論、当代の勇者ルージュである。
使者はルージュに話題が及ぶと、実に饒舌な男になった。まるでずっと隣で見てきたかのような臨場感溢れる語り口調。その言葉の端々から溢れる熱さは、当代の勇者に対する厚い信頼を余すことなく物語っている。
そして次第に、使者の語りはある意味ディネイトの思惑通りに、そしてある意味ではディネイトの予想を大きく裏切って盛り上がっていく。
控えめに言って、使者の語る勇者の旅の顛末が面白すぎたのである。
温泉町で起きた殺人事件の解決。辺境の村で起きた森牛の暴走騒動。そして話の舞台が王都ディアカレスへと移り、勇者が竜王に首輪を付けて戻ってきた辺りでディネイトは己の太ももを力強く捻り上げるハメになった。
いくら公式ではない私的な時間であるとはいえ、他国の使者を前にして無様に笑い転げる訳にはいかない。それは危うく爆笑しそうになったディネイトの苦肉の抵抗であった。
びくびくと無意識に痙攣する横隔膜。それを鋼の意思で制御するも、竜王が体育会系に変貌した下りではディネイトの鼻から一瞬麺が飛び出しかけたのを鋭いエーリは見逃さなかった。
それは新手の拷問のようであったと後にディネイトは語る。
やがて料理も冷め切った頃には、血色良さそうにテカテカと笑顔を輝かせる使者の姿と、笑いをこらえるあまり凶悪な人相となって使者を睨め上げる皇帝ディネイトという不可解な構図が生まれていた。
侍女に促された事もあり、食事もそこそこに退室していった使者はどこか満足げな様子でさえあった。流石は聖王国の近衞騎士と言うべきだろう。恐るべき胆力である。某国の近衞騎士たちにこの様子を見せたら「いや、あいつが特別おかしいんだ。やっぱり英雄ってのはどっか頭のネジが一つ二つ抜けてんだな」と言われること請け合いだが、そんなこととは知る由もない皇族たちである。
ただ、そういった経緯故に、
「わははははははははははは!」
騎士の退室を見届けたディネイトが、未だ震え続ける横隔膜に溢れる思いの全てを乗せて笑い声として解き放っても、無理からぬことではあった。
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「ヒ、ハハハ…………はー。いや、しかし平民生まれの勇者か。勇者というのはいつの時代も民衆が選ぶものだと思っていたが、どうやら女神の深謀遠慮は余人には見通せぬものらしいな」
娘の不機嫌もどこ吹く風、ひとしきり笑ったディネイトは、機嫌よさげに使者の話を振り返る。
使者の話を聞く限り、当代の勇者はたいそう面白そうな人物だというのが、皇帝ディネイトの評価である。好印象と言い換えてもいい。ディネイトは娯楽に乏しい南部に生きる武人らしく、面白い人物というのはそれだけで好意を寄せるに値するという性格をしていた。
「いったいどんなヤツなんだろうな。いや、俄然興味が湧いて来たわ。ひょっとすると顔まで面白いってこともあるかもしれん。いや、早く会ってみたいものだ」
本人が聞いたら「極めて失礼!」と憤慨しそうな皇帝の言いざまに、エーリが憮然と言い放つ。
「フン。わたくしはちっとも興味がありませんわ。何者でもなかったただの平民生まれの勇者だなんて、無知でトロくさくて顔以外にはなんの面白みもない人間に決まっています」
本人の預かり知らぬところで顔面をボロクソに言われている勇者である。
「なるほど、流石生まれついての皇女さまは言う事が違う。するってぇと、おれのような平民出の皇帝も認められないか?」
「ッ! それとこれとは話が違いますわ!」
そんな娘の一言に、ディネイトがにやりと言い放つ。
己の失言を悟ったエーリは、勢い良く慌て出した。違う、そういう意味じゃない。いきり立つあまり腕を振るうと、握ったままだった銀のナイフからぴぴっと何かが放たれる。
つい先程まで味わっていた肉汁とソースの混合液である。テーブルクロスや衣服に浴びれば大変に染み抜きに苦労するだろう悪魔の雫が三滴だ。それは狙い澄ましたかのように真っ直ぐディネイトの方へと向かい、とんでもない無作法を働いたとエーリが顔色を青くするよりも早く、皇帝ディネイトは動いていた。
ディネイトの頭が残像のように霞んで、一瞬三つに分裂したように見える。
そして何かを味わうように、喉を一つ鳴らして見せた。
ディネイトは今の一瞬のうちに、避けられないと悟った拳をあえて額で受ける拳闘士のように、飛来する全ての雫を舌で受け止めたのである。
「行儀が悪い。座りなさいエーリ」
「…………すみませんでした。お父様」
叱られ、しずしずと着席するエーリに反省はあれど驚きはない。
ハルグリア帝国の皇室で見られるごくごくありふれた一幕である。
静かになった食卓の席で、やがてエーリはぽつりと言う。
「お父様と、此度の勇者は、違いますわ」
「ふむ。何が違う?」
「すべてですわ」
エーリは再び顔を上げ、何かを訴えるように父を見た。
「勇者は何も持っていませんわ。それは平民に生まれただけではありません。特別武を学んだ訳でも、時代に名を刻んだ訳でもない。話は聞いていましたけれど、あの騎士がさも誇らしげに語った逸話はどれも勇者の身に相応しいとは思えません。それに何より」
「何より?」
そんなダメダメな勇者が、体から溢れさせるほどに過剰な魔力を持っている。
あろうことか、本来目に見えぬはずのそれが目に映るほどの濃密で強大な魔力を。
それに、何より。
ただ女神に選ばれたというただそれだけで、勇者としての力と責務を手に入れたこと自体がわたくしにとって許せない──
(なんて、言えるわけがありませんわ)
「ごちそうさまでした。少し気分が優れませんので、部屋に戻りますわ」
それだけ言うとエーリは席を立ち、体調不良を自称するにはしっかりとした足取りで足早に去っていった。
「…………ふむ。よく分からぬが、エーリは勇者が嫌いらしい。別に仲良く振る舞えなどと言うつもりはないのだが、やれやれ、あの直情的なところはいったい誰に似たんだか」
「そうね。私の好きな人にそっくりだわ」
やれやれと肩を竦めるディネイトに、愛する妻の言葉のナイフが優しくぐさりと突き刺さった。
ちょっとしたジョークのつもりだったが、思わぬ妻の反撃にディネイトは形勢の不利を悟る。
歴戦の戦士ディネイトは、すかさず料理を口に運ぶとこう言った。
「しかしこの魚は美味いな」
フォイエは優しく微笑みながら、ディネイトの頭をぺしりと叩いた。
お久しぶりです!
お待たせしました帝国編です。実は当初は聖王国と帝国でのお話を含めて第三章の予定でしたが、予想外に膨れ上がった聖王国編の影響で早くも章の区切り目を見失っております。
帝国編は、皇女エーリとスチャラカ勇者ルージュの物語。さくっと短くなる予定ですが、お仕事の影響で投稿が遅れに遅れた事をお詫びさせてください。
ヤベェよ……書き溜めとかちっともないよ……。お正月休みとかまったく期待できない修羅場がすぐそこまで見えてるよ……。来月半ばまでひたすらにピークが続く気配に震えてるにゃあ。
とはいえ、来月半ばを過ぎればもう少し余裕も生まれるはずなので、せめて週一投稿に戻したいところです。楽しみにしてくださってる方には申し訳ないのですが、今暫くご容赦を頂ければと思います。
私はわりかし元気です。仕事が大変に忙しいのもようやくリーダーなんかを任されるようになった弊害でして、お待たせしておいてこう言うのもなんですが、ちょっと嬉しい悲鳴だったりもします。
筆者の公私の成長をナマ暖かく見守って頂ければこれ幸いと存じます。
後書きが長くなりましたが、ますます肌寒くなる昨今、皆様もお体にはお気をつけください。
それでは。
よいお年を! (※保険です)




