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暗澹たる茶会。

前回のあらすじ


 茶会の誘いを受けたルージュとエミル。だが二人の前に現れたのは、変態の中でもとびきり際物な、凄まじい体つきをした変態たちでした。


※このお話にはスゴいヤバい級の変態が登場し、痛い系のプレイを連想させたり心に来るようなワードが含まれております。オットーが生温いレベルです。

※後書きのほうに今回のざっくりとしたあらすじを書きますので、もしダメそうな方はそちらをご覧いただければと思います。

 

 それぞれ違った意味で凄まじい体格をしたこの二人の貴族が、ゴードグレイス聖王国の他の貴族たちから何と呼ばれているのかエミルはまだ知らない。

 だが仮にそれをエミルが前もって聞かされていたならば、きっと例の合い言葉を連呼してでもこの茶会への出席を拒んだだろう。

 そしてきっと、それを知りつつも招待を受けると決めたルージュを言葉の限り罵っただろう。

 何故ならクラウス将軍、そしてジエン侯爵の二人は…………この広い聖王国の中でも指折りの男色家にして少年愛嗜好者。そして特にハードなプレイを好むサディストであると噂されていたからだ。 


「さあ、どうぞ席へ。本日は勇者殿に合わせて茶会という形を取らせていただきましたが、こちらのペルヴの領内で栽培しているリェリオンは、今年もまた素晴らしい出来でしてな」

「はい! 今日はごちそうになりますね!」


 などと促され、円卓へとホイホイ向かっていくルージュ。

 やめろ! 行くな! そいつらは間違いなく変態なんだぞ! エミルがそう叫びたくなるほど、ルージュの足取りはあまりにも軽い。だがエミルには、叫ぶに叫べない事情があった。


 もはや疑いの余地はない。これからエミルが戦う相手は、まぎれもない変態だ。

 それもわざわざ女装少年を引き連れて、エミルが魔族であると知りながらも養子にしたいなどと申し出る種類の変態だ。そんな方向性の変態がエミルを養子に加えていったい何を求めているのか、想像するだけで身の毛がよだつ。

 だが忘れてはならない。この場で唯一エミルの味方として立つ勇者兼魔王ルージュは、変態と呼ばれる人種と極めて高い親和性を発揮する真性の変人なのだということを。

 思い出されるのは人界の温泉宿で首輪を着けた変態と出会った日のことだ。あの日エミルは変態と仲睦まじげに意気投合するルージュを目撃し、そして無理やり首輪を着けさせられたのだ。

 最初はエミルと一緒にどん引きしていたはずなのに、いつの間にか立ち位置が常人サイドから変態サイドへぐるりと入れ替わっていたのである。

 あの時の裏切られた感を、エミルは決して忘れないだろう。

 そしてその苦すぎる過去からエミルが学んだことは、ルージュを変態と一緒にしてはならないということだ。

 ルージュは変態的な趣味嗜好に関して、異様な理解力がある。

 というより、自らの欲望に対して非常に素直で、忠実なのだろう。

 自らの前の曝け出された通常とは異なる趣味嗜好に対して、少しでも「あ、いいかも」と思ってしまったが最後、それに準えることにまったく躊躇というものをしないのがルージュという少女なのである。


(だからいま俺が最もしなくちゃならねーことは、この変態どもとルージュが意気投合するのを防ぐことだ……! もしもルージュがコイツらの性癖に感化でもされてみろ、コイツは絶対に面白がって、またとんでもねーセクハラをやらかすに決まってる……!)


 だからエミルはこの変態貴族たちを指差して、「変態っ! この変態ぃ!」と罵ってやることができなかったのだ。ともすれば侍女服の中身にも気付いてなさそうな自然体のルージュだ。もしも相手が度を超えた変態であると気付いておらず、そうと知らずに済むのなら、それに越した事はない。

 しかし。少年に侍女の格好をさせて侍らせるという行いに、エミルは強いメッセージ性を感じずにはいられない。

 つまりこの変態貴族たちは、自らの持つ変態性をこれっぽっちも隠す気がないのだ。

 もしかするとこの貴族たちは、ルージュという少女のことを徹底的に調べ上げてきているのではないか?

 そうなればエミルにはお手上げだ。出身国の王侯貴族たちに「あの女勇者、実は変態なんだってよ」と知れ渡るルージュの立場以上に状況は絶望的だ。せめてエミルの想像するその最悪の未来が現実にならないことを魔界の神に祈るばかりだ。


(でも、もし……もしそうなっちまったら、俺はいったいどうなるんだ?)


 本来、エミルに必要とされたのは人界における責任の所在だ。言わば保証人のようなものが必要だっただけであり、書面上の関係だけがあればそれでよかった。

 だがそこに、エミルの生殺与奪を実質握っているルージュの思惑と欲望が絡んだとき、いったいどんなセクハラを命じられるのかまるで想像がつかない。

 否。想像もしたくないような何かが起こることは間違いない。


 エミルは顔を青ざめさせながら、ペルヴ・ジエン侯爵の膝に腰掛ける女装少年の姿を見た。丁寧かつ繊細に裁縫された、ふりっふりの侍女服を着ている。機能美よりも鑑賞用、あるいはもっと別の意味での実用性を追求したと思われるその侍女服は、エミルの美的感覚からしても少年の美貌によく似合っている。口を閉じて穏やかに微笑んでいるさまは、どこからどう見ても愛らしい女の子のようにしか見えない。

 だが、彼は男だ。男なのだ。その事実が、侍女服が似合っていればいるほど逆に居たたまれなさとなってエミルの胸を締め付けた。

 俺も、こんな格好をさせられるのだろうか。

 そう思うだけでエミルの二の腕にはぷつぷつと鳥肌が立った。あの少年の顔を自分の顔に置き換えたときにどう見えるのかなんて想像したくもなかった。

 でも、それだけで済むならまだいい。あの侍女服をちょっとの間、無理やり着させられるくらいであればエミルはきっと耐えられた。大丈夫。首輪の延長戦みたいなものだ。そう思い込んで。


 だがペルヴの膝に腰掛ける少年のどこか陶然とした表情が。

 そしてクラウスの側に侍る少年が面を上げた際に見せた完璧なまでの無表情が。

 エミルの予想を遥かに越える、無惨で過酷で破滅的な日々を、無情にも、ありありと、想像させるのだ!


 故に、エミルは決意した。


(コイツらに何があってこう(・・)なったのかは知らねーが、俺もこう(・・)されるのだけは絶対に嫌だ……! そのためにも、この変態どもとルージュの会話は一つ残らず叩き潰して、この茶会ごとブッ壊す! ルージュがコイツらを決して気に入ったりしないよう、あらゆる会話の腰という腰を片っ端からバッキボキにして折りまくってやる!)


 エミルの瞳の奥底で、メラメラとエメラルド色の炎が燃え上がる。

 竜王エミル・エアーリアの尊厳と貞操を賭けた戦いの火蓋が、今、静かに切って落とされようとしていた。


  @


「ですから! フーッ! この、後もうちょっとなのに! というバランスがいいのです! もう少しで手の届く希望からドンと突き放されたときの絶望! その時にこう、ひゅっと歪む表情がまたたまらない! フーッ! 分かりますかクラウス、勇者様!」

「ああ、分かるぞペルヴ! 思わず滅茶苦茶にしてやりたいというムラムラとした衝動が、下半身のほうから沸き上がってくるようだ!」

「あーっ! いい! 分かる! それすっごい分かります!」


 ダメだった。


(ハイ終わった! 俺の貞操完全に終わった! 分かんねえっ! コイツらの会話の内容、一から十まで何言ってるのかまったく全然これっぽっちも分かんねーよおおおおおお!! つーかルージュオマエぇぇぇぇっ! 分かるぅー!(↑) じゃねーーーーっ! オマエ勇者だろ! 自覚あんのか!?)


 エミルは内心の絶望感を、円卓にガンガンと額を打ち付けることで表現した。

 エミルの悪い予感は全て的中しつつあった。クラウスとペルヴはただの変態ではなかった。迅速かつ的確にエミルを出し抜く能力を持った、優れた変態だったのである。気付けば自覚の足らないルージュの興味はあっという間に絡めとられて、エミルは置き去りにされていたのだ。

 挨拶代わりに薦められた、紅茶が罠の始まりだった。

 一見して普通の紅茶だった。薬物や毒物の反応は見られなかった。それを探知魔法で確認したからエミルは口にしたのだが、ペルヴの領地で採れたというリェリオンという銘柄のそれは、確かにエミルが唸るほど美味かった。

 驚きの表情でエミルが紅茶を飲み干すと、ペルヴ付きの侍女少年の笑顔がそれはそれは嬉しそうに華やぐのだ。そしてペルヴの膝から降りると、働くのが楽しくて仕方がないといった様子でおかわりを運んでくれる。

 エミルは、恐らくだがこの少年の家は、この紅茶の産出に携わっているのではないかと推察した。家と特産品、そしてそれを排出するジエン侯爵領に対する誇りが垣間見えたのだ。

 こんな変態領主にいいように弄ばれているだろうに、それでも出身地が褒められるのは嬉しいものなのかとエミルが思案していた頃には……既に、会話はとっくに取り返しのつかない方向に舵を切っていたのである。

 気付いた頃にはもう遅かった。いくらエミルが話の腰を折ろうとしたところで暖簾に腕押し糠に釘だった。相手は舌先で権謀術数の世界を生き抜いてきた上位の貴族家の人間であり、茶会は彼らの独壇場だった。しまいには、


「フーッ! そうじゃないんですよ!」

「分かっておらんな」

「エミルは分かってませんねえ」


 とダメ出し三連発を食らい発言を封殺され、エミルの戦意は額と共に、あえなく円卓へと撃沈していったのであった。

 息の合ったコンビネーションを見せた三人の変態たちは、もはや初対面とは思えない打ち解けっぷりを見せている。会話に花が咲くとはこういうことを言うのだろうが、咲き誇る話題に薫っているのはラベンダーのような爽やかさではなく、ドロドロになった腐臭に似た何かである。


 エミルがガンガンと円卓に額をぶつけている間も、ルージュ+変態二名はわいわいと楽しそうに盛況を呈している。


「そうなんですよ! 普段はちょっぴりやんちゃな子だけど壁際に追いつめられると弱いっていうか、ドンッ『いいから俺の物になれよ!』って言われてついつい流されちゃう! みたいな感じの子が私の中で最近熱くて!」

「ああ、分かります分かります! フーッ! 竜騎士アグニとエミル君のような!」

「いやあ誰とは言いませんけどね!? 脳内! あくまで脳内でですよ!?」

「ええ、ええ、そうですとも。我々の趣味はいわば宝石のようなもの。みだりに見せびらかすのは下品な行いであり、それらは普段は心の中の宝石箱に、大切にしまっておくべきものなのですから」

「とはいえペルヴよ。お前にも自慢したくてたまらない、秘蔵の宝石の一つや二つはあるのだろう?」

「それもまた然りですな。気心の知れた友人に対してはどうしても自慢したくなってしまう。これもまた、人の性でしょう。そうですね。先日領内の孤児院を訪れた際に、年頃の美男子から張形の使い方を教えてくれとせがまれた時の話でもしましょうか」

「それ詳しくお願いします」


 ここで詳しくお願いしちゃうのが当代勇者の業である。


 先ほどから彼らはどうしてこうも、少年にアレな悪戯をする話ばかりでここまで盛り上がれるのか、エミルにはまるで理解ができない。率先して話題を提供しているのはペルヴ・ジエン侯爵だったが、それに追随して理解を示すクラウスとルージュも恐ろしい。

 業以前に盛り上がる方向性がおかしいだろ。ってかオマエら初対面だよな。デリケートな年頃の女相手にぶっ放す話がそれかよ。話題選べよ。力尽きたエミルの脳内で、無数のツッコミが浮かんでは弾けて消えていく。

 この光景を人界の人間たちに見せてやったら、もしかしたら士気とか最低になって魔界は圧勝できるんじゃないだろうか。エミルがそんな夢想をしてしまうのも無理はない。


 何せペルヴの話と来たら、上位貴族たるジエン侯爵である自分が如何に(・・・)少年たちと仲睦まじい(・・・・・・・・・・)日々を過ごしているか(・・・・・・・・・・)というものばかりなのだ。

 それもエミルから聞けば揃っておぞましいものばかりだ。醜悪だったと言い換えてもいい。侯爵家という気高い生まれを利用して、身寄りのない孤児たちを次々に毒牙にかけるさまを嬉々として語る男が醜悪でなくて何だと言うのか。

 エミルが特におぞましいと感じたのは、ペルヴの口から語られる『美少年』たちは皆、『自分のほうからペルヴを求めてきている』ということだった。

 漏れ聞こえる話題が最低であるので当然だが、ここまでの会話と振る舞いから判断するにペルヴ自身に魅力はまったくと言っていいほどない。外面的にも内面的にも魅力を感じない男に、ましてや同性の男が喜んで体を差し出すなどエミルの常識では有り得なかった。

 きっと侯爵家という権力を背にして、そう強要させたに違いない。

 だというのにこのペルヴという男は、彼らは自らの意思で求めてきたのだと当たり前の事のように話すのだ。

 そう信じている、などというレベルではない。赤ん坊がやがて両親を真似て言葉を覚えるように、次期侯爵として生まれたペルヴにとってはそれが真実だったのだろう。その理解に至るまでに、彼の周囲でどれほどの不幸が積み重ねられてきたのかなど、エミルは想像もしたくなかった。


 エミルは思わず、今も円卓の周りを忙しげに動き回るペルヴの侍女少年のことを目で追う。男でありながら美しく、生まれと故郷に誇りを持ち、そして紅茶を淹れるのがこの場の誰よりも上手い少年のことを。

 この少年一人を見れば、なるほど、確かに自ら望んでペルヴに付き従っているように見える。だがそれは、あくまで今、目に見える範囲での話だ。


 汗と脂に贅肉にまみれ、腐敗堕落を体言したようなペルヴのおぞましい肉体は、エミルの感性からすればまさに醜さの塊だ。時折挟んでくるフーフーという息苦しそうな呼吸音さえ耳障りに感じる。全身が震え出しそうな嫌悪感に包まれる。ましてやこの男は、その中身までが最悪と来ている。

 こんな男に喜んで仕えようとするまでに、この少年の身にいったい何があったのか。

 どのような不幸、どういった境遇を経て今の身にまで堕とされてきたのか。

 もし彼と同じことをされたとき、エミルはいったいどうなってしまうのか。


 ペルヴは今も饒舌に、過去の体験を面白おかしく語っている。あんな遊びは楽しかったよ。次はこんな遊びを試してみようと思うんだ。そう無邪気に語る子どものように。

 もう何度目かになる唐突な吐き気を、何杯目かになる紅茶を飲み干すところで無理やりに誤摩化す。ペルヴという男はこんなにも醜悪だというのに、その男の領地で採れる紅茶の後味はこれ以上なく爽やかだった。その皮肉がペルヴの罪深さを引き立てる気がして、エミルはますますペルヴが嫌いになった。


 では、それならクラウスを里親に迎えたほうがマシなのかと言うと、まったく全然そんなことはなかった。


「ぬるい! お前はどうしてそこで鞭を入れられんのだ。確かにじわじわと肉欲に溺れさせるさまは悪くないが、物覚えの悪い奴隷には躾というものが不可欠だというのに!」


 ペルヴを嫌悪するその一方で、エミルはこんなことを平然と宣うクラウスのこともまた、大っ嫌いになっていたのだ。


 この茶会の席では、確かにペルヴの邪悪さにも似た変態さが目立つ。だがそれは会話の筆頭にペルヴの姿があるからであり、そんなペルヴと気が合う彼が、致命的な変態でない訳がなかった。

 クラウスもまた、今回の茶会のホストの一人だ。ペルヴとは少し種類が違うが、れっきとした変態であった。

 ペルヴが『自らの意思で求めてくる』少年を愛する変態であるならば、クラウスはまったくその逆。

 クラウスは、相手となる少年が嫌だ嫌だと拒めば拒むほど、それを力尽くで屈服させることに興奮を覚える、それはそれで最底辺に位置する極めつけの変態だったのである。


 クラウスはペルヴに比べ、特に嗜虐的で暴力的なサディズムを好んだ。それは男性優位主義(マチスモ)を更に倒錯させ尽くした、歪んだ性癖の発露だった。

 男性を女性よりも優位なものであるとし、男性はより男性らしく在るべきだとする男たちの思想。だがクラウスはさらにそれを病的にこじらせ、男子たるもの強く逞しくあらねば許せない(・・・・)と感じるまでになっていた。

 生家と体格に恵まれ、そして自らの努力によって培ってきた男の筋肉の素晴らしさを、クラウスは誰よりも理解していた。

 ペルヴと並び、異形とすら例えられるほどの筋肉の塊が、クラウスが今まで何を信じ、そして何を捧げてきたのかを今も証明し続けている。

 だからこそクラウスは、鍛えもせず、まるで自ら望んで弱者の位置に甘んじようとしているように見えるひ弱な子どもを見るたびに、その心がこれ以上ないほどの嗜虐の炎に揺さぶられるのだ。

 そんな子どもに鞭を入れ、本来あるべき『強い男』へと導くことを、クラウスは『愛の鞭』だと言った。

 クラウスに命じられ、ずっと無表情だった付き人の少年が侍女服の裾をたくし上げると、剥き出しになった太ももには『愛の鞭』が刻んだ歪で生々しい傷痕が無数に重ねられていた。

 それは逆らおうとする気も失せるほどの圧倒的な腕力と権力を背景に生まれた、痛々しい暴力の痕跡だった。

 そしてそれをまるで戦場帰りの兵士たちが語る『名誉の傷痕』と同列のように誇るクラウスの感性も、それを曝け出すよう命じられてなお眉一つ動かさないこの少年の思いも、エミルは何一つとして分かりたくはなかった。

 人間たちなど、誰がどうなろうとどうでもいい。それは偽らざるエミルの本心だ。だがエミルはもし許されるのならば、人界に無数に存在する人間たちの中でも特にどうしようもないこの目の前にいる二人の残虐で傲慢で身も心も醜い直視すら憚られるほどの変態で最低で最悪なクズ中のクズである二人の鬼畜どもを血と塵に分解してやりたい気分だった。


 心の中にどろどろと沈殿していく重たい感情を感じながら、エミルはルージュを横目で伺い見た。

 魔族の目から見なくたって、目の前の男たちはろくでもない連中だった。彼らはもはや変態というより下種とでも呼ぶべき人種だ。いくら変態に理解があることで有名なルージュと言えど、こんな連中を目の当たりにしたら不快感を示すに違いない。


 そう思っていたエミルだったが、信じられないことに、ルージュは笑っていた。

 エミルと同じものを見て、同じものを聞いてきたはずのルージュが、静かに微笑んでいたままの姿でそこにいた。

 人間嫌いのエミルでさえ、少年に刻まれた『鞭』の痕には心に訴えかけてくるものがあったというのに。ルージュはまるでそこに何も見えていないかのように、ギリギリまでたくし上げられた少年の太ももを眺めて、ただにこにこと口元を緩めて笑っているだけだったのだ。


 挙げ句にルージュがこんなことを言った。


「お二人とも、本当に()なんですねえ」


 二人の変態は笑って答えた。

 ペルヴが言った。


「ええ。私はサディストです」


 クラウスが言った。


「我々ほどの筋金入りのサディストとなれば、この国の外を見てもそうはおりますまい」


 そう言って彼らが笑う理由が、笑える理由が、エミルにはこれっぽっちも理解できなかった。


 ──なんでルージュは笑ってるんだ? 気持ち悪くないのか? 自分がこいつらと同じニンゲンなんだってことに何も思わないのか?

 ──いや。同じニンゲンだからなのか?


 笑うルージュを見た瞬間から、エミルは見慣れたはずのルージュの姿が、何か得体の知れないものに変わったように見えていた。

 もう顔が、直視できない。二人の変態に向けるのと同等の嫌悪感が沸き上がってくる。もはや人界における親がどうなどと考えている余裕はなかった。エミルの心を急激に占めていくのは、抗い難い不信感。


 ──なあバロール。俺はこれから本当に、こんなヤツの従者として過ごさなくちゃならねーのか……?


 こんな鬼畜どもの所行など、戦場でだって見られない。それを前にして笑えるルージュに、エミルはおぞましささえ感じ始めていた。


 そんな時だった。

 ルージュがぱちんと手のひらを合わせて、こんなことを聞いたのは。





「それで……………………お二人の(・・・・)セーフワードは(・・・・・・・)なんですか(・・・・・)?」


 2週間ぶりにこんにちは! あなたの折言森人です。

 すみません。いざ書こうとしてみるとオットーを遥かに上回る極上の変態どもを前に筆が遅々として進まない中、ついにOBTが始まったToSなどを嗜んでいたらすっかり遅くなりました。


 前書きにも書きましたが、今回の変態どもはだいぶ笑えない種類の変態たちです。最後の一行でだいたいオチは読まれてしまうかと思うのですが、伝えたい内容と読みやすさの板挟みで、非常に難産なお話でした。

 こうして後書きで内容について補足するのは実力不足の証明だし、邪道な感じがして好きではないのですが、今回は内容がアレなアレですので本文をUターンした方向けにざっくりめなあらすじを残しておきます。


 次回はスカッとする予定。ただしエミルは相変わらずどん引きです。


  @


 二人の侍女の中身が少年だと知り、貴族たちが変態であると察してしまいげんなりとするエミル。

 こんな連中が親になるなどたまらないと、このお茶会をぶち壊す決意を固めるエミルだったが、開始まもなく変態の罠にかかり、ルージュが変態たちといきなり打ち解けてしまう。

 しかも二人の貴族たちは、オットーとはレベルも財力も比べ物にならない変態だった。

 ペルヴは醜さを極めたような容姿でありながら、幼い少年に相思相愛な関係を強要する自称サディスト。

 クラウスは異常発達した筋力と権力を背景に、幼い少年を無理やり組み敷くことに興奮する自称サディスト。

 二人の変態の自慢話を聞き流しながら、どちらも地上最低レベルの変態を通り越した下種野郎であると確信するエミルだったが、なんとルージュはそんな二人に対しても、かつてオットーにそうしたように、理解を示すかのように微笑んでいる。

 ルージュに対して、エミルの中で急激に不信感が膨れ上がっていく。このままルージュの従者になって本当にいいのか。エミルが自問自答したとき、ルージュが言った。


「それで、お二人のセーフワードはなんですか?」

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