65話 モブですけど、何か?
この世の終わりってのは、今日みたいな日を言うんだろうな。
昇殿の渡りがピンポイントで燃え上がり、城周辺が灼熱の地獄と化した。
燃えているのは昇殿の渡りだけなのに、ドロッとした炎が上がるたびに俺らの身体は耐えられないと悲鳴をあげる。
焦げるといい匂いするんだな、俺。
と思っていたら今度は城が氷の城に早変わり。極寒の地獄と化した。
氷の中は冷たかったぜ。
2時間ほど記憶がないもんな、俺。
温暖なこの国で暑さから身を守るために着ているこの服が、寒さを凌ぐにも役に立つなんて別に知りたくなかったよ。
焦げて穴があいたけどな。
これを引き起こした本人は悪びれることもなく、ケロッとしている。
一言ぐらい謝れってんだ!
けど凄みのある笑顔を向けられた日には、心臓が縮み上がる。
考えてもみてみ?天災を背負って歩いているようなもんだぞ。
面と向かって文句を言えなくても、別に悪くないよな?
奴の機嫌を損ねてはならないと、皆一様に笑顔を浮かべるが、引きつってるのだって仕方ないと思う。
しかも1年の大半を海に出ていて、滅多に姿を見せることがない王までが現れた。
ご自分の奥方様にもお子様にも興味を持たない王が、クロマ様を慈しむ様子を見てしまえば、思わず高速で2度見3度見してしまうってもんだ。
今日の天変地異は、王が原因に違いない。
その王の命令により、ザンダイ様の執務室及び屋敷をあらためることになった。
先に捜索した執務室はもちろん、ザンダイ様のお屋敷にもオクスィピト様やユヌカス様が同行する。
「それにしても使用人くらいいるだろうに、人影が見当たらないな」
なるべく少ない抵抗で捜索を進めるためのお二方の同行だったのだか、扉もすんなりと開いてしまった。
「不用心ですよねえ」
誰かいませんか〜?
っていうかここまでくると不気味ですよ〜。
がこんなことでもない限り、ザンダイ様のような偉い人のお屋敷を訪れることなんてない。皆興味津々だ。
「執務室もそうだったが、ここも魔法陣ばっかりだな」
オクスィピト様が感心したように呟いた。
「魔法陣ですか?」
壁や床の隅々まで、俺たちにはなんの意味があるのかさっぱりわからない模様が描かれている。
「装飾の模様にしか見えませんけどねえ」
意味がわかるオクスィピト様も相当変わってると思うよ。
そして正面の扉を抜け目の前を通る通路を歩いていくと、歴代の家長や夫人と思われる人物の絵が飾られていた。
「これはザンダイ様ですね」
今とたいして変わらない姿絵だ。
「では隣の人が奥様でしょうか?」
この中で一番年のいったロウタイなら知ってるかな、と声をかける。
「う〜ん、ザンダイ様に奥様がいるという話は聞いたことがないな」
え?マジ?ザンダイ様、独身?何、何、仲間なの?
「ロウタイは兵役について40年くらいになるだろ?」
ユヌカス様がたずねる。
「俺も今不思議に思っているのですけど、ザンダイ様って俺がはじめてお会いした時からこの姿なんですよね」
ロウタイが壁を見上げる。
「ってお前、そんなバカなことあるかよ」
ザンダイ様いくつだよ。バケモンか?
「ははは……、コワ〜」
なんだか、この屋敷自体が薄ら寒く感じるわ!
「あながち間違ってないかもしれないぞ。見ろ、ザンダイ以外は皆若い肖像画だ」
オクスィピト様が怖いことを言い出した。
「他人の精気を吸って生きる化け物の話をどこかで読んだことがある。こう、細い触手が背後から……」
トントン、トントンと背中をつつく細い何か。
「ウギャアアアアアアアアアアアア!!!」
吸い取られるううう!
猛ダッシュで駆け出した。
「あ、おい!ハヤガテン!そっちはまだ、」
オクスィピト様が何か言ってる。
「あんなに怖がるとか思わなかった」
振り返ると、ロウタイがゴメンポーズ。
ってか、ヒョエエエエエエ〜!
槍が降ってきた!足元に尖った物が転がっている!
落・と・し・穴!
「人を欺くのが大好きで、屋敷に罠がたくさん仕掛けてあるから家パーティとかできないって、ザンダイから聞いたことがあるんだけど、本当だったんだな」
ユヌカス様の呟きは、残念ながら俺の耳には届かなかった。
「1つずつ罠を解除して進もうと思ってたけど、手間が省けたな。行くか」
ひどいです、オクスィピト様。
「おーい、生きてるか〜」
近づく足音の後、穴の上から声がした。
生きてる。生きてるけども、なんとかしてください。
ネッチョリ、ネバネバ。
「あ〜なんだ、もう骨になってるな。南〜無〜」
それ俺じゃないです!
「ガバ、ババババ」
口の中にネバネバが入ってくる。
ん?あれ?息できるじゃん。
あ!なんか紐みたいのある。
エイ!
引っ張って上がろうと思ったら、上の床が滑り台みたいになって仲間達が落ちてきた。
「見ろ、人がゴミのようだぞ」
ってどういうこと?オクスィピト様!
今日一日で、ザンダイ様と王様達をキライになったとしても、悪くないと思うよ、俺。




