61話 いなくなったママ
ラメルの目が覚めるまでの時間の流れは、別の人の視点で繋いでいきます。
場面があちらこちらに飛びますが、申し訳ありません。
ママが女の人を施術して、彼女を捕らえていた糸から解放した。
彼女を捉えていた意思を持つ糸は、最後の抵抗とばかりにママを攻撃をする。
でもママなら問題ないと思っていたら、ママが捕らわれてしまった。
ママ、疑うことをしない人だから自分を守る魔方陣を展開していなかったの。
私やパパには護りの魔方陣をプレゼントしてくれているのに、自分で持っていないとか平和なんだ。
でも、だからとても居心地がいいの。
どうやって生きてきたら、あんなに人を疑わない人間になれるんだろう。
まあでも、すぐにパパが来てママを起こすだろうけど。
パパが魔力を使えるようになっていてよかったね。
「本来なら、もっと違った時にご案内する予定でしたが、クロマ様は王族の血を引く方です。城にもクロマ様のお部屋がございます」
ママにつかまっていたら、ザンダイの声が上から降ってきた。
ママの近くで待ってていいんだって。やったあ!
でも私、ザンダイ好きじゃない。
だって真っ黒なんだよ。ママとは正反対だ。たくさんの嘘を着て生きてる証拠だもん。
私は騙されないからね!
けど、ママの近くに連れて行ってくれるならついていくけど。
「クロマ様のお部屋はこちらですよ」
私を抱き上げてくれていた女の人が、扉の前で立ち止まった。
もう1人が扉を開ける。
「すごい!」
見渡す限り深い青と黒で埋め尽くされ、深海にいるようでとても落ち着く。
「イツクィン様に伺って、このようなお部屋になったのですけど、本当によろしかったですか?」
うんうん!すっごくいいよ!
「お気に召さなければ、すぐに取替えますから教えてくださいませ」
刃を潰した刀にロープ、棍棒に馬の鞭などが美しく飾られていて、それも落ち着く。
「ん。イツ、丸!」
もっと感謝を言葉にしたいけれど、言葉を制限されているのがとっても不便だと思う。
生まれ出たあの時、身体に融合できずに死んでいくはずだった私が「まだ死ねない」と抵抗すると、いろいろな制限をつけてその場に留まるのを許された。
あの時確かに私は何かを見届けたいと強く願ったはずなんだけど、なんだったのかなあ。覚えていない。
ともかく、年齢相応の言葉しか発せられないのだ。
不便!
私、一応まだ1歳にもなっていないんだもんね。
実際には生まれ出てから4年経ったから、4歳でいいんだと思うんだけど。
あれ?見た目は4歳くらいだね、私。
自分の身体の神秘について、あれこれ疑問に思っていると、急にママの気配がなくなった。
私と繋がっているママとの線が途切れてしまった。
まるでママなんて最初から存在していないかのように。
「ママ?」
私は不安になって周りを見渡した。
ママの気配がない。
扉に近づき開けようとしたけど、扉が重い。
お姉さんがそうっと開けてくれた。
顔を覗かせて部屋の外を見る。
「ママ?」
やっぱりいない。
何故だかわからないけど、泣きたくなってパパを探そうと走り出した。
「クロマ様!そちらはいけません!」
お姉さんが追いかけてくる。
捕まっちゃう!
私は羽を一生懸命バタつかせた。
一生懸命バタつかせると、周りの景色がほんの数秒止まる。
誰も気づいていない、私の不思議な力だ。
と、その間に大きな扉の前まで移動できた。
「パパ?」
手で押してみようとしたら、内側から扉が開いた。
びっくり。
追いかけてきたお姉さん達が一斉に跪く。
「騒がしいな」
出てきた人はパパによく似た人だ。
懐かしい。
……懐かしい?
その人は私と目が合うと、一瞬目を見開いた。
「私の最も愛しい者と、最も厭う者との色を持っているな」
ふむ、と1人で納得すると私を抱き上げた。
「恐れながら申し上げます」
この人の前に一歩出て、頭を垂れたままお姉さんが震える声をだす。
「そちらのクロマ様はユヌカス様のお子様でいらっしゃいます。何卒お咎めなく」
「ほお、これが噂のか」
お姉さんの言葉を遮ると、私の脇に手を差し込み持ち上げて上に斜めにクルクルと観察された。
この人に見られるのは恥ずかしくて嬉しい。
が、ハッとする。今は違う、ママだ。
楽しんでいる場合じゃない。
「パパどこ?」
「ユヌカスを探しているのか?」
私はコクンと頷く。
しばらく私と目を合わせていたこの人は、肩の上に私を座らせると歩き出した。
お姉さん達がものすごく驚いた顔をしてついてくる。
なんだかこの人の頭を見ていたら撫で撫でしたくなって、いい子いい子した。
ビクっと反応したこの人が目を細めてこちらを見上げた。
もっと甘やかしてあげたいな。
この気持ちはなんだろうか。
本当は本編には出ないはずだった父王様です。
イラストなんて書いてしまったので、愛着が湧いてしまいました。
(,,•﹏•,,)




