21話 神殿小売店
魔石の削り出しは好調だ。
「魔石を削って出た粉は他のことにつかいますから、こちらのビンに集めて置いてくださいませ」
後でこっそりと魔石に戻しておかなくちゃ。
なんといっても、ナンテコッタとは違い、魔石が高いのだもの。
そして、やっぱり魔石が高いので、板の上に魔石だけを敷き詰めるのは無理があることに気がついた。
デコレーションのために石を敷き詰めると、結構な数になる。
私がやりたいのは、充電代わりに魔石をつけた高価な魔石電池作りではないのだ。
目指しているのは携帯とかスマホをデコレーションするかわいらしいあの飾り付けなのだ。
魔石は最低限でいい。
安価でかわいいあれをやりたい。
そのためにはカラフルな色の石の飾りが必要になる。
魔石は魔力を使いきってしまえば、無色透明になってしまうからね。
デザイン的な面からも経済的な面からも他の石を入れるのがいい。
「今まで通り、持ち込まれた物をそのまま引き取っていただける時は1カーネでいいのですけど、姫様が作り直した物はお金をいただいた方がいいと思います」
石を物色していたら、ガーディアに声をかけられた。
ガーディアは孤児達をまとめていた小さなお姉さんの名前だ。
「計算が大変ではないかしら」
物価がよくわからないし、調べ方もよくわからない。
「10カーネで統一してもいいかと思います」
なるほど、100均みたいにね。
1カーネに比べたらちょっと高いけど、きちんと分けられているのだから違って当然、ということらしい。
「他に処分に困っているものとかあるかしら」
私はこの場所しか知らないしな。
「そうですね」
少し考えたガーディアが口を開こうとして閉ざした。
「何かあるのでしょう?」
「その、あるにはあるのですけど姫様は近づけません」
「まあ、どうして?」
「えっと〜、あの、臭いが」
臭いとな。気になる。臭いは立派な公害ですからね。
権力を行使して行くことにする。
「無理だと思ったら帰りましょうね。私、怒られるの嫌ですからね」
おう、任せておけ。
逃げるのは得意だ。何があるのか知らないけど。
行ってみたら、なるほど臭いだ。
生ゴミだ。
でも私は知っている。これを分解すると、作物が異様に発育する肥料になることを。
鼻歌を歌いながら分解を開始する。
ふ〜、この辺りは肥料になったな。
「ガーディア、この土を袋に詰めて売りたいのですけど、袋を作って持ってきてくださいませ」
だいたい5キリグラム入る袋の大きさを腕で示す。
「心得ました」
ガーディアが袋を取りに行ったのを見届けて、分解作業を再開する。
結構な生ゴミの山だもの。頑張らなくちゃ。
っていうか、燃やしたりしないんだね。病気の元になりそうで怖いのにね。
1時間ほどして、ガーディア達がたくさんの袋を持ってやってきた。
「この土は何に使えるのですか?」
「肥料になるのですよ。畑に混ぜて作物を育てるとたくさんの実をつけてくれるのです」
「あんなに臭かった臭いもしないです」
すごいですね、って褒められた。テンション上がる〜。
私もっと頑張れるよ!
宣伝を頑張ったガーディア達のおかげで肥料がたくさん売れた。
そして、次の週になると手袋軍手が売れはじめた。
なんでも、畑仕事にいいらしい。
そりゃそうだ。
お姉さん達やガーディア達が軍手や袋を作るのに忙しくなった。
袋代も1枚につき2カーネのキャッシュバックをする。
なぜかそれぞれの商品のうち半分が私にもキャッシュバックされることになった。残りの3割が教会に入る計算だ。
そうこうしているうちにたくさんのキラキラ魔石ができたと連絡があった。
女の子は軍手や袋でお小遣いが増えたけど、男の子はまだお小遣いが貰えていない。
これでは不公平だよね。
キラキラ魔石1個を1カーネで買い取ることにした。
慣れてくると、1日になん十個と作れるようになる。けれど、手袋はそうはいかないだろうと思う。
そのためきちんと削れていないものは買い取らないことを徹底した。
私の厳しい注文で、手袋もキラキラ魔石も品質が日に日に上がることになった。
「おう姉ちゃんよ、神の土をくれ。言われた通りに畑に混ぜたら、つやつやとした野菜や果物が通常の半分の時間で実るんだもんなあ。こりゃあすごいもんだ」
肥料が10袋売れた。
「私は軍手を買いたいわ。土を混ぜる時に軍手を使うと手の膜が傷つかないんだもの」
隣のおばちゃん達にも頼まれたとかでダースで売れた。
「お母さん、僕向こうで水浴びしててもいい?」
綺麗な水路で水浴びができる施設も1回1カーネで使用できる。商品を物色する親に付き合えない子ども達がその間遊んでいる。
こうして噂が噂を呼び、神殿小売店が繁盛するようになった。
10カーネショップ開店中で~す。




