52 崩壊の予感②
そもそも王太子の私が、大司教に白い目で見られる筋合いはない。
ジュディットがいなくなり次々と起きる問題。やり場のない怒りを感情任せにぶつける。
「煩いッ! 何がだ!」
だが私の叱責もどこ吹く風。全く動じる気配のない大司教が、遠くを見ながらぼんやりと口を開く。
「魔力の結晶であるガラス玉は、ジュディット様が作っておいででした。わたくしには到底作ることのできない代物です」
「ジュディットが……」
「ガラス玉を禊の儀の前に受け取る予定でしたのに、あの日、祈祷室からお出になったジュディット様は急いで森へ向かわれ、お会いできませんでしたから」
「もう、ないのか」
大司教が無言で頷いた。
またしてもジュディットなのか……。
とんでもない事実が浮上し、口を開けたまま言葉を失う。
このままでは、魔力なしに配布していたガラス玉を巡り、国中で大問題になるではないか!
これまでと、なんら変わらず大司教がいるにもかかわらず、「ガラス玉を作れない」という現状をどうやって説明するのだ。
ガラス玉を配布できない適切な説明が見つかる気がしない。
正直に公表したところで、国民を欺いていたと批判されるではないか……。
それどころか、血相を変えてジュディットの捜索を始めるだろう。
駄目だ。魔力のないジュディットを他人に発見されるのは避けたい。
結界にしろ、魔力の結晶にしろ、全てにおいてジュディットが絡んでいるのか……。
まずい。彼女が居なくなった今。国の未来がドミノ倒しでおかしくなる映像が見えてきた。
とりあえず私の部屋にガラス玉がある。それで泉だけでも浄化すべきだろう。
「いいからリナを解放しろ! あれは私の婚約者だ」
「婚約者であろうが関係ございません。今は結界がほころびかけているんです。罪人であってもリナ殿を祈祷室に閉じ込め、せいぜい結界を張るために役立っていただかねば、この国が崩壊しますぞ。この国は長年魔物討伐とは無縁の生活をしておりましたので、魔物と戦える軍事力はありませんから」
「ふざけるな! 王宮の騎士団がいるだろう。やつらは飛竜だって捕まえる実力だ」
「殿下……。あなたは本当にジュディット様の功績をご存じないのですね」
「はッ、何がだ!」
「上級魔物をポンポンと捉えていたのは、ジュディット様あっての話です。いなければ、飛竜など捕まえられるはずがありませんぞ」
「う、嘘だろう……」
「殿下の隣に立っている騎士にでも聞いてごらんなさい。すぐに答えは分かるでしょう」
それを聞いた両サイドに立つ彼らは、悲嘆に暮れる顔をしたため、自ずと大司教の言葉が真実だと伝わり、目眩がする。
「あ……ああ。理解した。リナに……。リナに声をかけてもいいだろうか」
「それは構わないでしょう。ですが扉越しになさった方が殿下のためかと存じます。直接お顔を見れば、幻滅するでしょうから」
昨日、リナの顔を見た大司教が言うのだから、大人しく従った方が身のためだと瞬時に判断した。
ふらつく足取りで祈祷室の扉の前に立つ。
その緑の扉は、取っ手を動かせないよう鎖が幾重にも巻かれ、騎士二人体制で見張っていた。
「リナ聞こえるか?」
声をかけると、中から可愛い声が聞こえる。
「フィリ⁉ 来てくれたのね。ねぇ、ここから出して。大司教様がここから出てはいけないと言って、リナを閉じ込めるのよ。酷いと思わない」
「ああ、そうだね。私から大司教に頼んでおくからすぐに出られるよ」
「さすがフィリだわ。今日こそ結婚式の話をしたいと思っていたんだもの早くお願いね。それと、大司教のガラス玉も欲しいって伝えてくれるかしら」
「ああ、分かったよ」
悪ぶる様子のないリナの言動に当てられ、ますます眩暈を起こしそうな私は、そのままドゥメリー公爵家へ向かった。
お読みいただきありがとうございます!
フィリベールのエピソードはもう1話ありますが、先にジュディを投稿します!
なので次話は、ジュディ!
引き続きよろしくお願いします(。>ㅿ<。)




