おっさん、恩返しがしたい
話が終わったので、席を立とうとすると……ハウゼン殿に呼び止められる。
「そういえば、何やら物件を探しているとか?」
「ソーマ殿、私の方からハウゼン殿に伝えたのだ。この方は三十年以上前からいるし、顔も広いからな」
「えっ? クレアさん、ありがとうございます。はい、料理屋をしながらも自分達が住める家を探しています」
「それは新築が良いとかあるのか?」
「いえ、特にはないですね」
別に中古であっても、条件さえ整ってれば問題ない。
前の世界でも居抜き店舗もあったし、それに改築許可さえあれば好きにできる。
「おおっ! そうかそうか……ならば、恩を返すのには丁度いい」
「えっと……?」
「すまんすまん。実は俺の昔のパーティーメンバーに、飲食店を閉めて田舎に帰った男がいる。金に困っていたので、俺が店を買い取ったんだが……それを貰ってくれるか? 金は良い、お主には迷惑をかけてしまった。本来なら、俺がしっかりしてれば……」
「俺個人としては、ありがたいお話ですが……本当によろしいのしょうか?」
見てないことには何とも言えないが、願ったり叶ったりなことだ。
店を探す手間も省けるし、ギルドマスターなら信頼もある。
何よりギルドに貢献していけば、お金もきちんと支払えるはず。
「ああ、もちろんだ。では、こちらの方で手配をしておこう。その間に解体屋に行くと良い」
「ありがとうございます! それでは、解体屋に行ってみます」
話を終えた俺達は、そのまま併設している解体屋に向かう。
そこでは、ドワーフ族のガラン殿が待ち構えていた。
「きたか」
「ガラン殿、ちょうど良かった。貴方にお礼を言わせてください。あの刀のおかげで、ソラを助けることができました」
「ふん、儂はお主なら扱えると思ってくれてやっただけだ。それをどう使おうと、お主の勝手じゃ。だが……役に立ったなら何よりだ」
「はい、とても助かりました。素晴らしい出来栄えの刀かと」
「ならば儂としては言うことはない。さて、本題に入ろう」
すると、後ろにある台に目をやる。
そこにはバラバラにされた肉の塊が置いてあった。
羽の部分、足の部分、胴体の部分などに分かれている。
「あれがワイバーンの肉ですか?」
「うむ、大きさの割取れる部位は少ないが」
「いえ、あれだけあれば十分です」
「しかし、本当に食べるのか? 硬くて食えたもんじゃないが……切るのにも一苦労したわい」
「ええ、必ず美味しくしてみせます。というわけで、ガラン殿にも食べて欲しいのですが……きっと、良いものを提供できるはずです」
この方がくれた刀がなかったら、ソラを助けるのが遅れていたかもしれない。
そもそも、こんな業物を貰って何も返さないなどあり得ない。
「……ふむ、わかった。そこまでいうなら行くとしよう」
「ありがとうございます。では、とりあえずこれは持って帰りますね」
荷車を借りて、クレアさんと一緒に宿を出ると……そこにはアリスさんが待っていた。
「あれ? アリスさん?」
「あっ、ソーマさん! この度はお疲れ様でした〜」
「ご心配をおかけしました。それで、どうしたのですか?」
「今、仕事終わりなんです。そしたら、ギルドマスターから頼まれまして〜」
俺に見せたその手には鍵があった。
「あれ? それって……」
「例のお店の鍵ですねー。クレアさんに、これを渡すように頼まれました」
「私にか?」
「ええ、この地図と鍵を渡せばわかるって」
クレアさんが地図を受け取ると……。
「うむ、この場所ならわかるな」
「なんか、もう自由に使えるようになってるみたいですよ?」
「それはどういう……?」
「ギルドマスターってば、素直じゃないんですよー。実は、前もって用意していたみたいです。昨日から忙しくしてましたから」
「あっ、そうなんですね。では、お礼をしないと」
なるほど、昨日の時点で用意してくれたってことか。
他にもやることがあったろうに……是非、お礼をしないと。
「ふふ、喜ぶと思いますよ?」
「そうだ。料理を作る際には、アリスさんもどうですか?」
「ええ〜私も良いんですか?」
「ええ、アリスさんがよろしければ」
すると、アリスさんがクレアさんを見つめる。
「クレアさん、良いですかね?」
「な、なんで私に聞くのだ!?」
「いや、何となく」
「べ、別に好きにすれば良い」
「えっと?」
「どうやら良いみたいなので、お邪魔させて頂きますね」
「はい、是非。わかったらすぐにご連絡しますね」
よし、決めた。
今回はお世話になった方々のために料理を作ろう。
そう決めた俺は、クレアさんと地図の場所に向けて歩きだすのだった。




