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竜殺しの料理人~最強のおっさんは、拾ったケモ耳娘とスローライフを送る~  作者: おとら@9シリーズ商業化


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おっさん、本気を出す

 ……俺に人を殺せるか?


 ステータスにより精神力が増しているが、正直言ってその覚悟はない。


 日本という平和な世界で育った俺には、簡単な話ではない。


 だが、それでも俺が負ければ二人が殺される……おそらく、俺の目の前で。


 それだけは耐えられん……ならば、それを圧倒する力で!


「ははっ! いくゼェ!」


「シッ!」


 上から振り下ろされる大剣に刀を合わせ、そこで力を抜いて下に受け流す。

 すると相手の大剣が地面にめり込むので、その隙をついて——胴体に剣撃を叩き込む!


「ぐはっ!?」


「……硬いな」


 相手は吹き飛んだが、傷はそこまでじゃないはず。

 まるでタイヤを叩いたように、跳ね返される感触があったからだ。


「ちっ、姑息な手を使いやがって。というか、その剣?はなんだ? 俺の大剣で破壊できないとは」


「これは刀というものだ。それと姑息ではなく、ただの技だ。直撃さえ避ければ、刀はそうそう折れることはない」


「気に食わねえ」


 そう言った奴の目は、認めたくないといった感じだ。

 もしくは、理解したくないか。


「何がだ?」


「貴様はそれなり強いはずだぜ。なのに、どうして威張らない? 他者を見下さない? 強い奴は、それだけで偉いはずだ」


「そんなことして何になる? 強さとは、自分さえ分かっていれば良い。別に偉くもなく、それは他者の評価で左右されないものだ」


「な、何を言ってやがる?」


「いや、わからないなら良い」


 たまに勘違いしている奴がいるが、本当に強い者は威張らないし虚勢を張らない。

 そんなことをしなくても、確固たる信念が自分の中にあるからだ。

 やはり、こいつは……強いかもしれないが、本当の強さはない。

 おそらく、以前言った俺の予想は当たっていた。

 ならば、殺すまでもない……その鼻っ面をへし折ってやる。


「……くそがぁぁ!!」


「こい」


 大剣に刀を添えるようにして、力の方向を変える。

 そして、隙ができたところを胴体に叩きつける。


「ぐっ……効かねえよ!」


「そうみたいだな」


 その後も、ひたすらにそれを繰り返す。

 受け流して斬り付け、相手に確実にダメージを与えていく。

 こいつの頑丈さは異常だが、無敵ではないはず。

 俺の予想が正しければ……。


「ガァァァ!? なんで当たらねえ!」


「いくらステータスが高かろうが、お前には技術が足りない。それでは、おもちゃをぶん回しているようなものだ。基礎から鍛錬をやり直すが良い。というより……その強さを手に入れる過程で、何も学ばなかったのか?」


「な、なんだと?」


「……お前の強さは不自然だな。確かに強さを得たものは溺れることはあると思う。だが、その強さを手に入れる過程で苦労したはずだ。その時の気持ちを忘れてしまったのか?」


「う、ウルセェェェ!」


 そう言い、大剣を思い切り振りかぶってくる!

 まるで隙だらけで、斬ってくれと言っているようなものだ。


「そんな大振り受け流すまでもない!」


「ガハッ!?」


「セァ!」


「ご、ゴフッ……この程度でぇぇ」


「どうした? ダメージはないんじゃなかったのか? 明らかに精彩を欠いているが」


「だ、黙れ……これくらいなんとも……あん? なんだ、身体が動かない?」


 ……どうやら、ようやく効いてきたか。

 さすがA級だけあって、その体は頑丈だった。

 俺がしたことは至極単純なこと。

 相手の胴体部分……正確には脇腹部分だけを攻め立てただけだ。

 一箇所にダメージを与え続ければ、どんなに頑丈でも蓄積されていく。


「当然と話だ。いくら鍛えようと人の身体である以上、ダメージの蓄積はされるはずだ。そもそも、そんなこともわからないということは……本当の真剣勝負をしたことがないな?」


「な、なっ……」


「どうやら、図星のようだな。戦いが好きと言いながら、自分より弱い者としか戦ってこなかったのだろう。勝てる戦いに勝ち、それで愉悦に浸りたかっただけとみた」


「が、き、き、貴様ぁぁ……ァァァァ!」


 奴が立ち上がり、めちゃくちゃに剣を振りましてくる!


「なっ!?」


「ガァァァァァァァア!」


 その目は血走っており、とても正気とは思えない。

 ……まずいな、こうなると止めるのは難しい。

 俺に人を殺せるのか? ……いや、だとしてもここではない気がする。


「ソーマ殿! そいつは正気を失っている! 何か大きなショックを与えないと! 殺さなくても良いから!」


「……わかりました」


 俺は距離を取って、刀を鞘に収める。

 そして、身体を脱力させて……奴が迫ってくるのを待つ。


「ヒヒヒ! シネェエェ!」


「憐れな男よ——紫電の太刀」


 相手の大剣をギリギリで左側に避けてから……抜刀する!

 そして少しの嫌な感覚と共に、奴の右手が大剣ごと地面に落ちる。


「へぁ? ……ぁぁ!? おれの手が、がァァァ!」


「これでもう、お前は剣を握れまい」


「く、くそぉぉ……ど、どうして俺が……」


「自業自得だ。命があるだけマシと思え」


 ……俺にその度胸がないだけともいうが。

 すると、逆方向から誰かがやってくる。

 それはギルドマスターと、他数名の冒険者だった。


「そこまでだっ! ……なんと、もう決着がついたのか」


「ええ、おそらく。後のことは任せても良いですか?」


「あ、ああ、任せておけ」


 ふぅ……なんとか終わったか。


 禍根を残さぬため……殺した方が良かっただろうか?


しかし……いや、今はソラが無事だったから良い。


……だが、いずれは覚悟をしなくてはいけないだろう。




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