おっさん、合格するが……
青の魔法陣に入り、光に包まれると……。
気がつくと、俺達は迷宮の洞窟付近にいた。
「……不思議ですね。 一体、どういう現象なのだろう」
「それは、研究者達の永遠のテーマだな」
「んなこと気にしても仕方ねえし。それより、ささっと行こうぜ」
「ああ、そうだな。他の冒険者が来る前に」
何でも朝早く来た理由として、他の冒険者達の邪魔にならないようにということらしい。
確かに1階の奥に行くのに、新人冒険者がいたら迷惑だろう。
すると、何やらよくない気配がするので振り向くと……例のあの男がいた。
「……あん? あの時の野郎に、クレアにダインかよ」
「ブ、ブライさん、お疲れ様です」
「ブライ殿……」
俺を庇うように、クレアさんが俺の前に出る。
「ちっ、わかってるよ。あのクソジジイに言われたしな。それにしても情けない男だな? 女の後ろに隠れるとか」
「これは私が勝手にやってることだ。それに、ソーマ殿は勇敢な男だ」
「別に貴方にどう思われようと構いませんが……別に女性が男性を守ってはいけない決まりなどないかと」
「……あぁん?」
「無論、それに甘えるつもりはありませんが」
クレアさんの肩に手を置き、今度は俺が前に出る。
個人的に、《《こういう考えの輩は好きじゃない》》。
「やんのか?」
「別にそんなつもりはないですが……」
「ちっ、腰抜けが……」
「も、もういいだろ!」
「……けっ」
俺をひと睨みした後、そいつは迷宮に入っていった。
それから少しの間、三人の間に静寂が漂う。
「お、おまっ! あいつを誰だと思ってんだよ! 狂犬と呼ばれるブライだぞ!」
「すみません、ご迷惑をおかけしました。個人的に、ああいうのは好きではないので」
「気持ちはわかるが、あいつには関わらない方がいい」
「……わかりました」
「うむ……さて、気を取り直して報告に向かうとしよう」
クレアさんの言葉に従い、俺達はギルドに向かうのだった。
ギルドに入ると、すぐにアリスさんに手招きをされる。
「さて、お二人とも……ソーマさんはどうでしたか?」
「文句なしの合格かと」
「まあ、良いんじゃねえっすかね」
「ふふ、それなら良かったです。ソーマさん、これにて試験は終了となります」
「えっと、こんなもので良いのですか? いえ、簡単だったという意味ではなくて、もっと内容を聞いたり……」
「ええ、このお二人は信頼に値する方なので。何より、この1ヶ月のソーマさんを見てますからねー。都市の人達からも評判が良いですし、指名依頼が来るくらいですから」
この一ヶ月はがむしゃらに頑張ってきたが……その頑張りが認められたということか。
異世界に慣れるため、ソラのため、そして俺を信頼してくれたクレア達のために。
これで、少しはこの世界で生きていく下地ができただろうか?
「ありがとうございます……」
「いえいえ、それはこちらのセリフですよー。引き続き、よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いいたします」
こうして、俺はD級冒険者になった。
依頼料や魔物討伐ランクも上がるので、家を借りることに一歩近づいただろう。
そろそろ、物件なんかも探しても良いかもしれない。
◇
迷宮に入った後、居酒屋で酒を飲んでいるが苛立ちがやまない。
その原因はわかっている。
あの、ソーマとかいう冒険者のせいだ。
「けっ、気に食わねえ」
なんか強そうな奴がいると思ってからんでみれば……ただの腰抜けだったか。
「兄貴、どうしたんで?」
「あん? なんだ、ザザか」
俺に引っ付いてくるコバンザメのような男だ。
だが情報通ではあるので、便利なやつではある。
「なんか、機嫌悪いっすね? 依頼先で何かあったんで?」
「ふんっ、そんなところだ」
魔物退治の依頼をこなしたのは良いが、苦情が来やがった。
周りにいた魔獣を巻き込んだり、それによって魔獣が森から出たとか。
それが農作物や村人に被害を出したとか……俺の知ったことか。
「なるほど」
「あとは気に入らない奴がいてよ。なんか、新人の癖にでかい顔をしてやがる。確か、ソーマとか言ったか?」
ギルドマスターにも気に入られてるし、良い女であるクレアにも気に入られてる。
穏やかな性格から、冒険者や都市にいる連中からも人気らしい。
……ますます気に食わねえ。
「ああ、噂のおっさんルーキーですかい。なにやら、評判良いっすね。しかも、獣人の娘もいるとか」
「……あん? 獣人の娘? 嫁さんが獣人なのか?」
「いや、それはわかんないっす。ただ奥さんは見当たらないですが、娘がいることは確かです」
「ほほう? ……その話を詳しく聞かせてもらおうか」
「へへっ、何か注文しても?」
「おう、好きなのを頼め」
獣人の娘か……こりゃ、良い話を聞けそうだ。
獣人になら、何をしても許されるからな。




