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【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~  作者: 延野正行
聖森の守護者

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第71話 パパがピンチ!

「コノリのことは気にするな。存分に振るえ、【剣狼(おおかみ)】よ」


 リヴァラスにコノリを任せ、ヴォルフは飛び出した。


 水面を飛び石のように跳ねる。

 ちゃぷ、という音を置き去りに、ヴォルフは巨木を目指した。


 呪われた聖樹は反応する。

 再び根が槍のように突き出た。


 ヴォルフはカッと目を見開く。

 耳を澄まし、肌の感覚を研ぎ、臭いからもたらされる情報を貪った。

 すべての感覚を総動員し、そして感じる。

 聖樹の胎動……。


 詳しく語るならば、その魔力の動きを――。


 根の槍が襲いかかってくる。

 ヴォルフは速度を緩めない。

 突っ込むかと思われたが、直前で回避した。


 リヴァラスへと向かう最短距離をひた走る。


 聖樹とて生き物だ。

 例え、それが脳を介しない反射行動であろうと、初動が存在する。

 何よりこの万年樹は魔力を通す。

 だから、樹木として出鱈目な行動を起こすことが出来ている。

 逆に考えれば、それは魔獣たちも同じだ。

 彼らも挙動の際、一瞬魔力を使っている。


 初動、そして魔力の流れ。

 それさえ把握できれば、聖樹に捉えられることはない。


 それに……。



 狼の瞳にはすでに伝説(おうごん)が映っていた。



「覚悟!!」


 ヴォルフは聖樹リヴァラスの前に躍り出る。

 眼前には示された核の姿があった。


 根が動く。


 無数の槍がヴォルフに殺到した。

 回避の場所はない。

 360度、根に囲まれていた。


 狼は剣を抜く。


 剣線が閃いた。

 一瞬にして根が切り裂かれる。


「(いける!!)」


 ヴォルフは確信を得た。


 抜いたのは【カムイ】ではない。

 鍛冶屋でもらった剣だ。

 それでも十分リヴァラスを切り裂く事が出来る。

 さすがに、本気で斬る訳にはいかないが、呪樹に対応する分には十分だった。


 ヴォルフは踏み込む。


 だが――。


 斬ったはずの根が次の瞬間には再生していた。


「な、にぃ!」


 ヴォルフは軽く舌打ちする。

 が、百戦錬磨の冒険者だ。

 すぐに気持ちを建て直した。


「再生するなら、それ以上の速度で斬ればいい!!」


 気合いとともに叫んだ。

 ヴォルフの斬技が1、2、3と加速する。

 あっという間に、再生された根がバラバラになった。


 そのまま核へと突っ込む。


「すごい……。もはや人間から外れておるな、あやつ」


 コノリの身体を乗っ取った聖樹の残滓は、思わず呟いた。


 驚異的な再生スピードを誇るリヴァラス。

 それをさらに上回る速度で斬りつけるヴォルフ。

 戦車のように根を蹂躙し、確実に核との距離を縮めていった。


 聖樹の核は目前――。

 ヴォルフの勝利と思われたその時、事は起こった



 ◇◇◇◇◇



 聖樹リヴァラスの森を取り囲むように兵たちが並んでいた。

 側には油が入った桶があり、兵士たちの手には火矢が着火されないまま握られている。


 彼らの武具にはブラッセン家の私兵である証を示す家紋が刻まれていた。


 レクセニル王国では爵位に応じて、私兵を持つことが許されている。

 主に魔獣から民を守るためだ。

 むろん、そうした衛兵は王から借り受けることも出来る。

 だが、用途は限定的で、特に領地で起こった諸問題については、領主が私費私兵を投じ解決することが法律で定められていた。


 メンフィス川の呪いは大問題であるが、国からすればまだ小さい問題だ。

 すでに流通に障害を来してはいるが、慌てるような状況にはなく、国もいまだ甘く見ている。

 勿論、優しいムラド王に進言すれば、すぐにでも兵を貸してくれただろう。


 が、領地の問題を領主が解決できないのは、その能力を疑われることになる。

 王は責めなくとも、やはり世間の通りが悪い。


 ブラッセン侯爵は仕方なく腰を上げたのである。


「どうされました?」


 森を見ながら、深い息を吐く侯爵を慮ったのは、隣にいるちょび髭の男だった。

 ブラッセンが馬に乗っているのに、男は輿に乗っている。

 大きく腹を付きだし、はげ上がった頭にわずかに残った一房の髪をくるくるといじっていた。

 見方によっては、ブラッセン侯爵はお付きの騎士、輿に乗った男が領主のようにも映る。


 彼の名前はレベート・グーゼン。


 メンフィス商工会の会長で、この辺りの有力者だ。

 今回の聖樹の森の襲撃も、彼がブラッセンに奏上したものだった。


「いえ。少しもったいないと思いましてな。この綺麗な森を焼くのは」


「閣下、気持ちはわかります。私とてこれほど香り豊かな空気を生んでくれる森を焼きたくはない。しかし、これは民の総意。聖樹が呪われ、川が汚染されたことによって、多くの薬工房が経営危機にあえいでおります。きっとラムニラ神は我らの行いを許してくれるでしょう」


 ラムニラ神の名前をあげ、大げさに誇張するが、他はあっていた。


 川の水が使えなくなったことによって、メンフィスの薬産業は大打撃を受けている。工房の稼働率は、30パーセントを下回り、金蔓である冒険者の足もめっきり遠のいていた。


 だが、これは方便だ。


 レベートたち商人は、西と東を分断する聖樹の森を忌々しく思っていた。

 森があるために、迂回するルートを取らなければならず、それだけで半日をようしてしまう。そのため目の前に川があるにも関わらず、生鮮食品の売り込みに苦心してきた。特に最大の取引先である王都のルートは壊滅的だ。


 森を横断できる街道の建設は、商人たちの昔からの願いだったが、聖域として認定されている土地を、国の許可なく開発することは出来ない。


 しかし、森が灰燼と帰せば別だ。


 傲慢が服を着ているようなレゲートは、街道が出来た暁には、自分の名前を付けようと企んでいた。


「森が焼かれれば、それこそメンフィスの産業が終わる」


「その点は大丈夫ですよ、閣下。そうですよね、先生」


 レベートに振り返った先に、馬に乗った人物がいた。

 高価な天鵞絨の服ですっぽりと全身を包み、目深に被った帽子で顔を隠している。

 男か女か判然としなかったが、聞こえてきた声は男のものだった。


「私が開発した人工魔石ならば、メンフィスの川は今よりも清浄になるだろう」


「閣下も見たはずですよね。先生がお持ちの石の効果を」


「む……。ううむ」


 ブラッセンは確かに確認した。

 レゲートの言うとおり、凄まじいエネルギーを放出する魔石だ。

 その力は聖樹に匹敵するかもしれない。


 それでもブラッセンの表情は晴れない。

 領主として、領地の安寧が第一だ。

 だが、美しい森を焼くのは心が痛む。


「閣下、配置完了しました」


 部下が報告に来る。

 レベートは蛙のように口を裂いて笑った。


 もはやこれまでだ。


 ブラッセンは手をあげる。

 兵たちは矢の先に油を含ませると、火を付けた。


「放て!!」


 一斉に矢は放たれた。



 ◇◇◇◇◇



 最初に気付いたのは、コノリの身体を乗っ取ったリヴァラスだった。


 ふと顔を上げる。

 梢に阻まれた視界の奥に、空が赤黒く光っていた。


「まさか……。火か……」


 間違いない。

 川を上ってくる空気に微かに煙の臭いが混じっていた。


「ぎゃあああああああああああ!!」


 軋み――いや、はっきりと悲鳴を上げたのは、呪われた方の聖樹だった。

 人の身体のように幹を捻り、悶えている。


 唐突な変貌にヴォルフも戸惑う。

 核は目前であったが、悶え苦しみ暴れ始めた聖樹から一旦距離を取った。


「これは……」


 ヴォルフの鼻が微かな煙の臭いを捉えた。

 コノリと同じく空を見る。

 南の方の空が赤くなっていた。


 自然に発生したものではないことは、すぐにわかった。

 おそらくブラッセン侯爵が火を放ったのだ。


「まずい!」


 このままでは鼠牙族たちが火に巻かれる。

 1度、退いてでも彼らを助けなければならないだろう。


 ヴォルフはコノリと合流しようと駆ける。


 すでに次の変化が起こっていた。


「おおおおおおおお!!」


 咆哮を上げる聖樹。

 すると、ヴォルフの耳にさらなる声が聞こえた。



「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」



 激しい憎悪。

 怨嗟の声だった。


 とても聖樹とは思えない――地の底からあえいでいるようだった。


 聖樹の魔力が上がる。

 周辺の木に染みついた力が、すべてリヴァラスへと注がれていった。

 それは遠くの樹木――さらには木を燃やす火にまで及ぶ。


「森にあるすべての力を食っているのか」


 コノリの口を強張らせ、聖樹は呟いた。


 火がすべて飲み込まれる


 一方、ヴォルフは大きく目を見開き、絶句した。


 聖樹が先ほどよりも数倍大きくなっていた。


 それだけに留まらない。

 地面が盛り上がると、大きな水しぶきとともに根がせり上がってくる。

 聖樹の方へと集まると、それは2つに別れた。


 聖樹がゆっくりと起(ヽヽヽヽヽヽ)き上がる(ヽヽヽヽ)


 気付けば、聖樹は人の形となり巨大なゴーレムになっていた。


「核が……!」


 コノリが叫ぶ。

 剥き出しになっていた核が、硬い木の皮の中へと取り込まれた。

 すっかりその姿は隠れてしまう。


「コノ――聖樹、どうなっているんだ?」


「我にもわからん。だが、呪いとは強い負の感情だ。それを軸に、本来我には存在しないはずの心が生まれたのかもしれぬ」


「心って、あんたは――」


「私はコノリの身体を介し、お主と喋っているだけだ。……それよりも」


「ああ。事態は最悪ってことだな」


 それでも狼にやれることは1つしかない。

 火が消えた今、ゴーレムと化した聖樹から核を奪取する。


 ヴォルフは地を蹴った。

 聖樹の巨躯を走り抜け、核が埋もれた部分に接近する。

 リヴァラスもボケッと見ていなかった。

 根や幹を伸ばす。

 無数の槍が、【剣狼】に迫った。


「うおおおおおおおお!!」


 空中で腰を切り、ヴォルフは一瞬にして木っ端にする。


 が、リヴァラスの再生は健在だ。

 すぐに再生し、飛び込んできた冒険者を迎撃する。

 ヴォルフは再生の速度よりも速く斬ろうと、必死に剣を振るった。


「ぐっ!」


 先ほどよりも再生スピードが明らかに速い。

 それどころか根や枝の数が増えていく。

 気が付けば、リヴァラスが作った檻に閉じこめられていた。


 斬る――。


 すぐに再生される。

 無限の牢獄だ。

 まさに鉄壁だった。


「これはやばい……」


 さしもの【剣狼】も白旗を上げるしかなかった。

 残された手段は【強化解放(アヴリース)】によるフルブースト攻撃。

 だが、今持っている剣がもたない。

 【カムイ】を使うことになるが、欠けた状態で果たして満足に振るうことが出来るかどうか判断がつかなかった。


 そもそもフルブーストだとしても、この再生能力を上回ることが出来るかわからない。


(せめて……。もう1人、手練れがいれば)


 とにかく手数がほしい。

 いくら速くても、ヴォルフの腕は2本しかないのだ。


 その時だった。


 ヴォルフの体内から突如として、警告音が鳴り響いた。


なんかピンチの時の警告音の後に、

スーパーロボットの出動シーンが流れるのは作者だけなんだろうか……(遠い目)

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[一言] オリジナルが倒されたあとに逆転して中途半端にダメージ与えるあれですね!
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