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【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~  作者: 延野正行
それぞれの戦い篇

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第341話 鬼、降臨

☆★☆★ 来週発売 ☆★☆★


『アラフォー冒険者、伝説となる冒険者~SSランクの娘に強化されたら、SSSランクになりました~』の第10巻目が、来週5月15日発売です。

ついに70万部突破!! なんと8巻よりも厚いとのこと!

新章に入ってもめちゃくちゃ熱いので、是非読んでくださいね。

(後書き下にリンクあります)


そして本日、BookLive様にてコミカライズが更新されております。

そちらも単話版第51話も是非よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

「【強化解放(アヴリース)】……」


 ヴォルフは唱えた。

 本来、それはレミニアの強化魔法を全開で使う時の合図だ。

 しかし、このガーファリアが神の座と名付ける空間内では、頼みの強化魔法も通じない。本来であれば、唱えたところで沈黙するはずだった。


「ほう……」


 しかし、ガーファリアが目を細める通り、ヴォルフの魔力が上がっていく。

 包む空気も、先ほどとは違って、鋭利であった。


(狼がようやく本気になったか。だが……)


「今まで本気でなかったのか。イラつかせるではないか、【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】よ。まるで甘噛みで遊ばれていたようなものではないか」


「それでも俺にとっては真剣でしたよ、あの場では」


「もう違う、と。我を倒すか」


「わかりません」


「……?」


「ただあなたを倒すまで考え続けるつもりです」


「甘ちゃんめ」


「よく叱られます。娘にも。……でも――――」


 全力であることに変わりはない。


 ヴォルフは走る。

 同時にガーファリアも地を蹴った。


 2人が目指すのは、彼方に置いてきた自分の得物だ。


 ほぼ刹那のズレなく受け取り、すかさず斬りにかかる。

 ヴォルフは切り上げ、ガーファリアは切り落とす。

 両者の獲物がお互いに牙を向き合う狼のように交差した。


 ギィン!


 甲高い音が響く。

 ただ一合――斬り結んだけなのに、衝撃波が放たれた。


 当然、それだけに終わらない。

 ヴォルフがガーファリアの剣を払うと、今度逆に自分が切り落とす。

 寸前で受け止めたガーファリアは、あふれ出る膂力を勿体ぶらずに使うと、ヴォルフを押し込んだ。


 神の力にさしものヴォルフも抗えない。

 ついに右に捌くが、ガーファリアは体勢を崩さず、追撃の薙ぎを放つ。

 それは少々強引だったが、次のヴォルフの動きを止めた。それを見たガーファリアはヴォルフの間合いを侵略する。ヴォルフもただ見ていたわけではない。近づいてきたガーファリアを止めようと、渾身の力を込めて、再び刀を振り下ろした。


 実質二合目の一撃もまた、空間を震わせる。

 見ている神々が、2人の戦いを見て、恐怖しているようだった。


 二合目もまた同じ。

 2人の実力は、膂力、速さ、剣術に対する理の深さ、どれをとっても同等であった。


「このまま斬り結んでもあまり面白くないな。神よ。もっと寄越せ」



 我に力を寄越せ!!



 ガーファリアが願うと、神はすぐにその言葉を聞き届けた。

 その身体がさらに膨張していく。筋肉がまたうねり、引っ張られた肌が赤くなっていく。その瞳から正気がなくなり、ガーファリアからの口から漏れ出たのは、獣じみた雄叫びであった。


 まさに鬼……。赤鬼だ。


「ガァッ!!」


 ガーファリアが力任せに曲刀を振るう。

 あまりの速い振りの速度に、ヴォルフは受けを選択する。

 万全の体勢であったにも関わらず、ヴォルフは吹き飛ばされた。

 無秩序に弾かれたわけではなく、受けの体勢のまま後ろへと飛ぶ。

 刀から伝わってくる衝撃だけで、ヴォルフは膝をついた。


 一息入れている暇はない。

 影が広がると、ガーファリアの赤い身体が隕石のように振ってくる。

 そのまま再び力任せに曲刀を振り下ろした。

 地面が割れる訳ではなかったが、本来であればそれぐらいの衝撃はあっただろう。


(さっきとは別人だな)


 その通り、ガーファリアが別人に変貌していた。

 剣の筋も無茶苦茶。しかし、剣術の理を超えた速さと重さに、反応すら怪しくなってくる。さらにいえば、攻撃は無秩序で、それがまた読みにくく、体勢十分に受けさせてくれない要因になっていた。


(だが、俺にも勝利の女神はいるんだぞ)


 ヴォルフは一旦後退する。ガーファリアは追跡し、ついに間合いを侵略する。

 すでに曲刀は横薙ぎに払われ、ヴォルフの腰を断ち切ろうと蠢いていた。

 最中、【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】は吠える。


「雷獣纏い!」


 青白い雷がヴォルフの身体を駆け抜けていく。

 その瞬間、ヴォルフはまさしく光――いや、雷光となった。

 空間を駆け抜けると、自分を斬ろうとしていたガーファリアのさらに後ろを取る。

 その腰に雷を纏った掌打を放った。


 ガーファリアは面白いように吹っ飛ばされる。

 時折、地面を毬のように跳ねながら飛ぶと、自分の手で地面に突き刺す。

 さらにそこから20歩ほど吹き飛ばされて、ようやく止まるほどだった。


「うっ!」


 もはや神に意識を奪われたといっても過言ではない、ガーファリアは青白い炎のような雷光を纏ったアラフォー冒険を睨む。


「やればできるものだな」


 どういう原理かは、ヴォルフもわからない。

 でも、身体が覚えていた。

 レミニアの強化も、ミケの雷獣纏いも……。

 娘も相棒もいなくても、覚えていたのだ。


「う゛ぉう゛ぉう゛ぉう゛ぉう゛ぉう゛ぉう゛ぉう゛ぉ!!」


 奇妙な雄叫びを上げたのは、やはりガーファリアの方だった。

 ほとんどの正気がなくなっていく。ただ殺気だけが濃く、空気の中に溶け込みむせ返るように漂っていた。


 すると、ガーファリアは大地を掻くと、一直線にヴォルフの元へと走る。

 その動きは速く、雷獣の力を纏ったヴォルフとさほど変わらない。

 しかし、ヴォルフは動じない。


「いいのか。そんな直線的(みえみえ)な動きで」


 ニヤリと笑う。

 いよいよガーファリアの得物(キバ)が、ヴォルフの心臓を貫こうという時、ついに狼の歯牙が解き放たれた。



 【無業】!!



 最速にして、最短の抜刀術が唸りを上げる。

 瞬間、ガーファリアの肉体は斜に切られていた。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 雄叫びが上がる。

 致命傷であったが、瞠目したのはヴォルフの方だった。

 本来であれば、今ので勝負はついていたはず。

 手加減したわけではない。もうすでにその領域にはない。

 全力で振るって、まだガーファリアの薄皮を捲っただけだった。


「ガァッ!」


 ヴォルフの動きが止まったのを、ガーファリアは見逃さない。

 獣になっても、獲物を倒す本能だけは何より強かった。

 いや、獣になってさらにより高くなったような気さえする。


 ガーファリアの裏拳がついにヴォルフの右頬にヒットする。

 またしてもヴォルフは吹き飛ばされてしまった。

 そこにガーファリアがついてくる。

 さらに重い拳打の一撃を振るう。

 もうガーファリアに曲剣を振るう知恵すらなくなっていた。


(くそ……。意識が……。いや、それよりも――――)


 自分は確かに全力を出している。

 だが、ガーファリアはそんな自分よりも明らかに強い。

 そもそも自分の剣が通らなければ、ガーファリアを倒すことはできない。


 気力は充実している。

 ガーファリアの叱咤のおかげで、気持ちの整理もついた。


 それでも勝てない。


(また勝てないのか……)



 自分に嘘をつくでない……。



 大事なのは、己の信念ではないのか?



 大賢者ラームの言葉が、ヴォルフの背中を押す。


(ああ。そうだ。また勝てないと、俺は嘘ばかり吐いていた)


 違うのだ……。


「俺ももう……。負けたくないんだ」


 ヴォルフは渾身の力を込めて、刀を振るう。


 一旦ガーファリアを引き剥がすと、叫んだ。


「来い!!」



 聖剣よ!!


☆★☆★ 発売まであと2日 ☆★☆★


5月9日単行本10巻発売!

『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』

(後書き下にリンクあります)


挿絵(By みてみん)


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