第341話 鬼、降臨
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『アラフォー冒険者、伝説となる冒険者~SSランクの娘に強化されたら、SSSランクになりました~』の第10巻目が、来週5月15日発売です。
ついに70万部突破!! なんと8巻よりも厚いとのこと!
新章に入ってもめちゃくちゃ熱いので、是非読んでくださいね。
(後書き下にリンクあります)
そして本日、BookLive様にてコミカライズが更新されております。
そちらも単話版第51話も是非よろしくお願いします。
「【強化解放】……」
ヴォルフは唱えた。
本来、それはレミニアの強化魔法を全開で使う時の合図だ。
しかし、このガーファリアが神の座と名付ける空間内では、頼みの強化魔法も通じない。本来であれば、唱えたところで沈黙するはずだった。
「ほう……」
しかし、ガーファリアが目を細める通り、ヴォルフの魔力が上がっていく。
包む空気も、先ほどとは違って、鋭利であった。
(狼がようやく本気になったか。だが……)
「今まで本気でなかったのか。イラつかせるではないか、【剣狼】よ。まるで甘噛みで遊ばれていたようなものではないか」
「それでも俺にとっては真剣でしたよ、あの場では」
「もう違う、と。我を倒すか」
「わかりません」
「……?」
「ただあなたを倒すまで考え続けるつもりです」
「甘ちゃんめ」
「よく叱られます。娘にも。……でも――――」
全力であることに変わりはない。
ヴォルフは走る。
同時にガーファリアも地を蹴った。
2人が目指すのは、彼方に置いてきた自分の得物だ。
ほぼ刹那のズレなく受け取り、すかさず斬りにかかる。
ヴォルフは切り上げ、ガーファリアは切り落とす。
両者の獲物がお互いに牙を向き合う狼のように交差した。
ギィン!
甲高い音が響く。
ただ一合――斬り結んだけなのに、衝撃波が放たれた。
当然、それだけに終わらない。
ヴォルフがガーファリアの剣を払うと、今度逆に自分が切り落とす。
寸前で受け止めたガーファリアは、あふれ出る膂力を勿体ぶらずに使うと、ヴォルフを押し込んだ。
神の力にさしものヴォルフも抗えない。
ついに右に捌くが、ガーファリアは体勢を崩さず、追撃の薙ぎを放つ。
それは少々強引だったが、次のヴォルフの動きを止めた。それを見たガーファリアはヴォルフの間合いを侵略する。ヴォルフもただ見ていたわけではない。近づいてきたガーファリアを止めようと、渾身の力を込めて、再び刀を振り下ろした。
実質二合目の一撃もまた、空間を震わせる。
見ている神々が、2人の戦いを見て、恐怖しているようだった。
二合目もまた同じ。
2人の実力は、膂力、速さ、剣術に対する理の深さ、どれをとっても同等であった。
「このまま斬り結んでもあまり面白くないな。神よ。もっと寄越せ」
我に力を寄越せ!!
ガーファリアが願うと、神はすぐにその言葉を聞き届けた。
その身体がさらに膨張していく。筋肉がまたうねり、引っ張られた肌が赤くなっていく。その瞳から正気がなくなり、ガーファリアからの口から漏れ出たのは、獣じみた雄叫びであった。
まさに鬼……。赤鬼だ。
「ガァッ!!」
ガーファリアが力任せに曲刀を振るう。
あまりの速い振りの速度に、ヴォルフは受けを選択する。
万全の体勢であったにも関わらず、ヴォルフは吹き飛ばされた。
無秩序に弾かれたわけではなく、受けの体勢のまま後ろへと飛ぶ。
刀から伝わってくる衝撃だけで、ヴォルフは膝をついた。
一息入れている暇はない。
影が広がると、ガーファリアの赤い身体が隕石のように振ってくる。
そのまま再び力任せに曲刀を振り下ろした。
地面が割れる訳ではなかったが、本来であればそれぐらいの衝撃はあっただろう。
(さっきとは別人だな)
その通り、ガーファリアが別人に変貌していた。
剣の筋も無茶苦茶。しかし、剣術の理を超えた速さと重さに、反応すら怪しくなってくる。さらにいえば、攻撃は無秩序で、それがまた読みにくく、体勢十分に受けさせてくれない要因になっていた。
(だが、俺にも勝利の女神はいるんだぞ)
ヴォルフは一旦後退する。ガーファリアは追跡し、ついに間合いを侵略する。
すでに曲刀は横薙ぎに払われ、ヴォルフの腰を断ち切ろうと蠢いていた。
最中、【剣狼】は吠える。
「雷獣纏い!」
青白い雷がヴォルフの身体を駆け抜けていく。
その瞬間、ヴォルフはまさしく光――いや、雷光となった。
空間を駆け抜けると、自分を斬ろうとしていたガーファリアのさらに後ろを取る。
その腰に雷を纏った掌打を放った。
ガーファリアは面白いように吹っ飛ばされる。
時折、地面を毬のように跳ねながら飛ぶと、自分の手で地面に突き刺す。
さらにそこから20歩ほど吹き飛ばされて、ようやく止まるほどだった。
「うっ!」
もはや神に意識を奪われたといっても過言ではない、ガーファリアは青白い炎のような雷光を纏ったアラフォー冒険を睨む。
「やればできるものだな」
どういう原理かは、ヴォルフもわからない。
でも、身体が覚えていた。
レミニアの強化も、ミケの雷獣纏いも……。
娘も相棒もいなくても、覚えていたのだ。
「う゛ぉう゛ぉう゛ぉう゛ぉう゛ぉう゛ぉう゛ぉう゛ぉ!!」
奇妙な雄叫びを上げたのは、やはりガーファリアの方だった。
ほとんどの正気がなくなっていく。ただ殺気だけが濃く、空気の中に溶け込みむせ返るように漂っていた。
すると、ガーファリアは大地を掻くと、一直線にヴォルフの元へと走る。
その動きは速く、雷獣の力を纏ったヴォルフとさほど変わらない。
しかし、ヴォルフは動じない。
「いいのか。そんな直線的な動きで」
ニヤリと笑う。
いよいよガーファリアの得物が、ヴォルフの心臓を貫こうという時、ついに狼の歯牙が解き放たれた。
【無業】!!
最速にして、最短の抜刀術が唸りを上げる。
瞬間、ガーファリアの肉体は斜に切られていた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
雄叫びが上がる。
致命傷であったが、瞠目したのはヴォルフの方だった。
本来であれば、今ので勝負はついていたはず。
手加減したわけではない。もうすでにその領域にはない。
全力で振るって、まだガーファリアの薄皮を捲っただけだった。
「ガァッ!」
ヴォルフの動きが止まったのを、ガーファリアは見逃さない。
獣になっても、獲物を倒す本能だけは何より強かった。
いや、獣になってさらにより高くなったような気さえする。
ガーファリアの裏拳がついにヴォルフの右頬にヒットする。
またしてもヴォルフは吹き飛ばされてしまった。
そこにガーファリアがついてくる。
さらに重い拳打の一撃を振るう。
もうガーファリアに曲剣を振るう知恵すらなくなっていた。
(くそ……。意識が……。いや、それよりも――――)
自分は確かに全力を出している。
だが、ガーファリアはそんな自分よりも明らかに強い。
そもそも自分の剣が通らなければ、ガーファリアを倒すことはできない。
気力は充実している。
ガーファリアの叱咤のおかげで、気持ちの整理もついた。
それでも勝てない。
(また勝てないのか……)
自分に嘘をつくでない……。
大事なのは、己の信念ではないのか?
大賢者ラームの言葉が、ヴォルフの背中を押す。
(ああ。そうだ。また勝てないと、俺は嘘ばかり吐いていた)
違うのだ……。
「俺ももう……。負けたくないんだ」
ヴォルフは渾身の力を込めて、刀を振るう。
一旦ガーファリアを引き剥がすと、叫んだ。
「来い!!」
聖剣よ!!









