第340話 神降ろし
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「ぬっ……!」
仕切り直そうとした時、ガーファリアは突然顔を顰めた。
耳に手を当て、小さく唇を動かしながら誰かと話している。
最後に声の主を振り払うかのように、手を振った。
「どうしました?」
「クライアントがうるさくて。このガーファリア・デル・バロシュトラスに早く決着をつけろとせっついてきおった。人間も、天上族も大概おろかであったが、その創造神も愚か者ばかりだ。この至高の戦いを、簡単に終わらすわけにいかぬだろう。まして相手が生ける伝説であるなら尚更だ」
「……同感です」
「ほう。お前なら、こんな戦いさっさと終わらせたいというと思っておったが」
「確かに俺は戦いそのもの嫌いです。何故なら、俺の人生はずっとこれで終わらせてきたから」
ヴォルフが並の人間ではないのは、常に戦うことで`築いてきた人生を悔いているからだと言える。
自分が覚醒に至った【勇者】ルーハスとの戦い。
ラムニラ教司祭マノルフ。
【闇森の魔女】ベートキア。その妹サラード。
【千里眼】ハッサル。
魔獣の王ジフ。
かつての勇者レイル。
三賢者ガダルフ。
そして、今目の前にいるガーファリアですら、その1人となるかもしれない。
「俺は娘と違って頭が悪い。本当は戦わなくても、俺が斬った者たちはどこかでわかり合えたかもしれない。そう思うようになりました」
「カカカ……。それはヴォルフ、強者の理論だ」
「強者の理論……?」
「確かにお前は強くなった。もう娘の強化など必要ないくらいに。だからこそ、見えてくるのだ。戦わずして、勝負に勝つ方法が……」
「陛下にもあったのですか?」
「お前と違って、我は根っからの強者だ。そんな青臭いこと、とっくの昔に卒業している。そんな我から、1つ忠告だ。戦わずして勝つなど、それは強者の甘えだ」
「甘え? 俺の考えが……。血を見ない方法を模索することが悪いというのですか?」
「血を見ないに越したことはない。だが、血を見ないことを恐れてはならぬ。ヴォルフよ。戦いも1つの交渉であり、コミュニケーションなのだ」
「戦場で誰かが血を流すことがコミュニケーション?」
「そうだ。誰かが生き、誰かが死ぬ。それが戦場だ。しかし、死は終わりではない。強烈に生きる者に訴えかける。物言わぬ声で、お前に何かを託していく。お前の戦いは、そういう戦さであったのではないのか?」
お前が死者から受け取ったものは……。言葉よりも重いものではなかったのか?
「――――!!」
「戦場で生き残ったものは、その重みを伝えることではないのか?」
「だからこそ、俺は…………あなたを――――――」
「そうか。お前がこの戦場が長く続いてほしいと思っているのは、我を倒すことの躊躇いであったのだな」
「そうです。だから、ガーファリア陛下。俺は――――」
「わかった。お前に本気を出させてやろう」
次の瞬間、ガーファリアの身体が赤く光り始める。
身体中に血管を浮き出ると、さらに筋肉が膨張していく。
纏っていた衣が半ば弾け飛び、鋼鉄の肉体が露わになる。
目尻が鋭く上がり、黒目は血のように濃い赤目に変わっていった。
口から獣臭が吐き出された時には、今まで纏っていたガーファリアの涼やかな気配がなくなっていた。
「陛下、その姿?」
「お前はあの雷獣との交わりを、【雷獣纏い】と呼んでいたな。原理としては似たようなものだ。といっても、我が纏ったのは『神』そのものだがな」
「神……!?」
「【神降ろし】とでも名付けようか。ぼやぼやするな、ヴォルフ。そら――――」
もう我がキルゾーンにおるぞ。
「え?」
気づいた時には、ガーファリアはヴォルフの懐にいた。
間髪容れず、ヴォルフの鳩尾に掌底を突き入れる。
幾多の戦いで鍛え上げられたヴォルフの身体が、紙のように吹き飛ぶと、空間の彼方まで吹き飛ばされた。
(なんだ、今の……。全く見えなかった)
慮外の攻撃であったが、ヴォルフに意識はあった。
反撃、あるいは防御に転じようと体勢を変える。
ひとまず着地にこそ成功したが、これが室内ならとっくに壁に叩きつけられただろう。
ヴォルフは顔を上げる。
「え? 陛下は?」
「聞こえなかったか。ぼやぼやするな、と」
その声はすぐ近くで聞こえた。
次の瞬間、鉄槌が落とされる。
まともに受けたヴォルフは、そのまま地面に叩きつけられた。
カンッと甲高い音を立てながら、ヴォルフの身体はバウンドする。
すぐ追撃の回し蹴りを受けると、再び彼方へと吹き飛ばされた。
嵐のような攻撃だった。
初めて出会った時に戻ったような……。
「がはっ! がはっがはっ!!」
吹き飛ばされながらも、ヴォルフは起き上がる。
神を降ろしたというガーファリアの姿は、もうすぐ傍にあった。
「今の攻撃の意味、わかっているな」
ヴォルフは少し目を回しつつも、理解していた。
今の一連の攻撃において、ガーファリアは一切武器を使っていない。
神を降ろしたから使えないのではない。
単純に見せつけたのだ。
いつでも倒せることを……。
「ヴォルフ、忘れていないだろうな。この戦いはストラバール、いや……お前の娘や友が生き残れるか否かの戦いであることを……」
「やはり戦わなければならないのですか?」
「言ったであろう。甘えだと……」
「…………わかりました」
ヴォルフは立ち上がる。
見た目に派手に吹き飛ばされたが、そのすべてに受け身を取っていたらしい。
ダメージらしいダメージも、鼻血ぐらいなものだ。
ヴォルフはキッと睨む。
まるで狼が獲物を定めたかのように、静かに……。
そして低く唱えた。
「【強化解放】……」









