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【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~  作者: 延野正行
それぞれの戦い篇

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第340話 神降ろし

☆★☆★ もうすぐ発売日 ☆★☆★


『アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』単行本9巻が、5月15日発売です! ついに70万部突破! 100万部も射程距離に入ってきました。

9巻も是非よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

「ぬっ……!」


 仕切り直そうとした時、ガーファリアは突然顔を顰めた。

 耳に手を当て、小さく唇を動かしながら誰かと話している。

 最後に声の主を振り払うかのように、手を振った。


「どうしました?」


クライアント(かみ)がうるさくて。このガーファリア・デル・バロシュトラスに早く決着をつけろとせっついてきおった。人間も、天上族も大概おろかであったが、その創造神も愚か者ばかりだ。この至高の戦いを、簡単に終わらすわけにいかぬだろう。まして相手が生ける伝説であるなら尚更だ」


「……同感です」


「ほう。お前なら、こんな戦いさっさと終わらせたいというと思っておったが」


「確かに俺は戦いそのもの嫌いです。何故なら、俺の人生はずっとこれで終わらせてきたから」


 ヴォルフが並の人間ではないのは、常に戦うことで`築いてきた人生を悔いているからだと言える。


 自分が覚醒に至った【勇者】ルーハスとの戦い。

 ラムニラ教司祭マノルフ。

 【闇森の魔女】ベートキア。その妹サラード。

 【千里眼(サザンド・ジェル)】ハッサル。

 魔獣の王ジフ。

 かつての勇者レイル。

 三賢者ガダルフ。


 そして、今目の前にいるガーファリアですら、その1人となるかもしれない。


「俺は娘と違って頭が悪い。本当は戦わなくても、俺が斬った者たちはどこかでわかり合えたかもしれない。そう思うようになりました」


「カカカ……。それはヴォルフ、強者の理論だ」


「強者の理論……?」


「確かにお前は強くなった。もう娘の強化など必要ないくらいに。だからこそ、見えてくるのだ。戦わずして、勝負に勝つ方法が……」


「陛下にもあったのですか?」


「お前と違って、我は根っからの強者だ。そんな青臭いこと、とっくの昔に卒業している。そんな我から、1つ忠告だ。戦わずして勝つなど、それは強者の甘えだ」


「甘え? 俺の考えが……。血を見ない方法を模索することが悪いというのですか?」


「血を見ないに越したことはない。だが、血を見ないことを恐れてはならぬ。ヴォルフよ。戦いも1つの交渉であり、コミュニケーションなのだ」


「戦場で誰かが血を流すことがコミュニケーション?」


「そうだ。誰かが生き、誰かが死ぬ。それが戦場だ。しかし、死は終わりではない。強烈に生きる者に訴えかける。物言わぬ声で、お前に何かを託していく。お前の戦いは、そういう戦さであったのではないのか?」



 お前が死者から受け取ったものは……。言葉よりも重いものではなかったのか?



「――――!!」


「戦場で生き残ったものは、その重みを伝えることではないのか?」


「だからこそ、俺は…………あなたを――――――」


「そうか。お前がこの戦場が長く続いてほしいと思っているのは、我を倒すことの躊躇いであったのだな」


「そうです。だから、ガーファリア陛下。俺は――――」


「わかった。お前に本気を出させてやろう」


 次の瞬間、ガーファリアの身体が赤く光り始める。

 身体中に血管を浮き出ると、さらに筋肉が膨張していく。

 纏っていた衣が半ば弾け飛び、鋼鉄の肉体が露わになる。

 目尻が鋭く上がり、黒目は血のように濃い赤目に変わっていった。


 口から獣臭が吐き出された時には、今まで纏っていたガーファリアの涼やかな気配がなくなっていた。


「陛下、その姿?」


「お前はあの雷獣との交わりを、【雷獣纏い】と呼んでいたな。原理としては似たようなものだ。といっても、我が纏ったのは『神』そのものだがな」


「神……!?」


「【神降ろし】とでも名付けようか。ぼやぼやするな、ヴォルフ。そら――――」



 もう我がキルゾーンにおるぞ。



「え?」


 気づいた時には、ガーファリアはヴォルフの懐にいた。

 間髪容れず、ヴォルフの鳩尾に掌底を突き入れる。

 幾多の戦いで鍛え上げられたヴォルフの身体が、紙のように吹き飛ぶと、空間の彼方まで吹き飛ばされた。


(なんだ、今の……。全く見えなかった)


 慮外の攻撃であったが、ヴォルフに意識はあった。

 反撃、あるいは防御に転じようと体勢を変える。

 ひとまず着地にこそ成功したが、これが室内ならとっくに壁に叩きつけられただろう。


 ヴォルフは顔を上げる。


「え? 陛下は?」


「聞こえなかったか。ぼやぼやするな、と」


 その声はすぐ近くで聞こえた。

 次の瞬間、鉄槌が落とされる。

 まともに受けたヴォルフは、そのまま地面に叩きつけられた。

 カンッと甲高い音を立てながら、ヴォルフの身体はバウンドする。

 すぐ追撃の回し蹴りを受けると、再び彼方へと吹き飛ばされた。


 嵐のような攻撃だった。


 初めて出会った時に戻ったような……。


「がはっ! がはっがはっ!!」


 吹き飛ばされながらも、ヴォルフは起き上がる。

 神を降ろしたというガーファリアの姿は、もうすぐ傍にあった。


「今の攻撃の意味、わかっているな」


 ヴォルフは少し目を回しつつも、理解していた。

 今の一連の攻撃において、ガーファリアは一切武器を使っていない。

 神を降ろしたから使えないのではない。

 単純に見せつけたのだ。


 いつでも倒せることを……。


「ヴォルフ、忘れていないだろうな。この戦いはストラバール、いや……お前の娘や友が生き残れるか否かの戦いであることを……」


「やはり戦わなければならないのですか?」


「言ったであろう。甘えだと……」


「…………わかりました」


 ヴォルフは立ち上がる。

 見た目に派手に吹き飛ばされたが、そのすべてに受け身を取っていたらしい。

 ダメージらしいダメージも、鼻血ぐらいなものだ。


 ヴォルフはキッと睨む。

 まるで狼が獲物を定めたかのように、静かに……。


 そして低く唱えた。


「【強化解放(アヴリース)】……」


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