第326話 化け狐現る!
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
BookLive様にて、『アラフォー冒険者、伝説となる』第45話が更新されました。
ヴォルフvsグラーフ・ツェヘスがついに勃発。
最近何度もいってますが、神回なので最後まで是非読んでください!
そして、その45話まで入った第8巻が11月12日発売です。
あまり他の作品でもこう言わないのですが、生涯最高の第8巻だと思います。
今までコミックスは買ってこなかったという方がいらしたら、是非この8巻だけでも買ってほしいし、友達・同僚に勧めていただきたい。それだけ胸を張って「おもしろい!」といえる8巻なので、是非ご予約お願いします!!
表紙はセラネ。えちちちちち!!
「出力急速に低下!!」
魔力の観測と効率的な配分を担っていた研究員たちが叫ぶ。彼らが監視していた計器の針は軒並みマイナス方向に触れていた。
しかしもっとも声を荒らげていたのは、レミニアだった。
「パパ!!」
ヴォルフの身体に癒着していた【賢者の石】が無理矢理引っぺがされたのである。いくら頑丈で、【大勇者】の強化がついていようと、タダではすまないはず。娘が心配しないはずがなかった。
「だ、大丈夫だ、レミニア」
ヴォルフは起き上がる。
表情こそ険しいものの、意識ははっきりしているようだった。同じく心配していた周囲も、ひとまず安堵の息を吐く。直後、響いたのは魔女の笑い声だった。
「うふふふ……。アハハハハハハ!!」
狂気的と言ってもいいだろう。
笑い声を上げたのは、いきなり魔法陣の中に入ってきた子狐だ。しかし、ただの子狐ではない。その尻尾は2つに別れていた。
「なんだ、あの化け狐は?」
ヒナミが首を傾げる一方、クロエは自然と刀を構える。よく耳を澄ませ、その気配を探った。
「ただの化け狐やないね。うちにはわかる。この鼓動……、なんや覚えがあるなあ。せやバロシュトラス魔法帝国に行った時や」
「ほう。覚えているか、盲目の女」
「あまりその言い方は好きやない。化け狐……、とっとと正体を現し!」
クロエは持っていた仕込み刀を投げる。
子狐は【賢者の石】を口に咥えたまま軽々と避けて、距離を取った。ヴォルフたちの方を向いて対峙した時、可愛らしかった子狐の顔は醜悪に歪んでいく。
「その声……。まさかハッサル……さん……」
バロシュトラス魔法帝国の皇帝ガーファリア。その腹心ハッサル・ムニミアは【千里眼】という力を持つ、ラーム、ガダルフに並ぶ三賢者の1人である。
しかし、その正体は大昔からストラバールに住まう神獣“神狐”であった。
ヴォルフはまだ彼女の本当の正体を知らない。この中でただ1人知るのは、昔から付き合いがあったハシリーぐらいだった。
「生きていたんですか、ハッサル?」
「生きていたというのは、ちょっと違うわ。初めから尾を切って、こうなることに備えていたの。まあ、残念ながら本体は死んでしまったようだけど、これも見立て通り。もちろん、ハシリー……。あなたが裏切ることもね」
「【千里眼】の能力ですか……」
「本体は死んだけど、あの蝙蝠女を無力化できた」
「蝙蝠女? もしかしてカラミティのことか?」
ヴォルフは息を切らしながら、状況の中で1人独演するハッサルを睨む。
「その通り。彼女は真祖。ストラバールで初めて生まれた命であり、始まりの人間」
「カラミティが……!」
「しかし、もういない。ガダルフも、ラームも退場した。そしてヴォルフ・ミッドレス」
スルリと衣擦れのような音が響くと、子狐が小麦色の長い髪に長い耳を立てた女性に変化する。ヴォルフが出会った時は、物静かな辻占い氏だった。だが、今ヴォルフたちの前に立っているのは、妖しい気配を漂わせる人狐に見える。
ハッサルは奪った賢者の石を掲げる。その見事な黄金の輝きを、うっとりと見つめた。
「お前ももう終わる。【賢者の石】がないお前など、ただのアラフォー冒険者に過ぎない」
「ハッサル!」
ハシリーは声を荒らげる。
「状況を考えてください! あと少しで世界が、ストラバールが破壊されるんですよ!! それでもいいというのですか?」
「ハシリー、あなたは何もわかっていないわね」
「え?」
「私はすべてを見て、予言してきた。この世界の成り立ちから、天上族が生まれ、魔獣が生まれ、戦争が起き、勇者という英雄が生まれる時を……」
「この状況になることを望んでいた、と……」
「ちょっと違うわね」
私がこの状況になるように仕組んだのよ。
ハッサルは醜悪に笑う。
「因果というのは実にうまくできているわ。大事をなそうと思えば、それを戻そうとする力が現れる。だから途方もない根っこの部分から歪める必要がある。私がこうなるように仕組んだのは、1000年や2000年ではない。1万年、いやもっと前からなのよ」
「貴様もガダルフと同じくこの世界を無にしようとしているのか?」
ヴォルフは膝を突きながら、尋ねる。
「いいえ。私は違う。私の望みは支配……。でも、人を支配するなんてその辺の暗愚でもできるわ。所詮、人間同士のママゴトでしかない。私は望みは生命の成り立ち、その因果と理を支配すること……」
「世界の法則すら支配しようというの?」
レミニアは呆然としながら呟く。
それを聞いたハッサルはうっとりとしながら、頷いた。
「さすがは【大勇者】……。その通り」
「バカですか、あなたは」
「バカとは失礼ね、ハシリー」
「バカですよ。大馬鹿です。本当にこの状況を理解しているのですか? 因果も理もありません。今、その世界が破壊されようとしているんですよ」
「ふふ……。お馬鹿さんはあなたよ、ハシリー」
「なっ――――」
ハシリーは顔を赤くする。
その横でレミニアは真剣に何かを考えていた。
「そうか。世界に因果と理があるんじゃない。因果と理の中に、世界がある……。あなたはそう考えているのね」
「ハシリー、あなたの上司はあなたよりも数倍賢いようよ。その通り。私は因果と理を書き換え、私好みの世界に作り替える」
「そんなこと……。そもそも世界を壊してしまったら」
「だからこそ根本から直すのよ、ハシリー」
「すべてを書き換えるために、あなたは世界を破壊すると……」
「ガダルフ以上にぶっ飛んでるわね、あなた」
レミニアは褒めたわけではない。その証拠に強く目の前の妖狐を睨んだ。
「なるほど。そのために【賢者の石】と【愚者の石】というわけね」
「え? どういうことですか、レミニア」
「ただ世界を破壊するだけなら、魔法で事足りる。わざわざ【賢者の石】のような高エネルギー体は必要ない。そもそもエミルディアのように無数の【愚者の石】は必要ない」
「まさか因果と理を書き換えるため? この世の法則を変えるために、わざわざガダルフや、ガズに【愚者の石】を作らせたのですか?」
「途方もない計画よね。どれだけの時間がかかるかわかってるの、あんた?」
レミニアの質問に、ハッサルは薄く笑う。
「1億……。いや、もっとか。しかし、私からすれば瞬きほどの時間に過ぎない。待つのは慣れてるし、何より……。もうこの因果は覆せない」
おめでとう。あなたたちの未来は決したわ。









