第324話 マシな世界
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レクセニル王国にほど近い村にて、夫婦は祈っていた。
魔界の門が開いたかのように空は暗くなり、暴風が吹き荒れている。
比喩ではなく、世界の終わりだった。
その側で小さな娘がふと何かに気付いた。
金色に輝く光が目に入る。光はそのまま王都の方へと走っていった。
娘が呆然としていると、その父は子どもの頭を撫でながら尋ねた。
「どうした?」
「今ね。狐がいたの?」
「狐?」
「うん。毛がね。ピカピカしててね」
娘が言うと、夫婦は顔を見合わせる。
「それにね。尻尾が2つあったの?」
「魔物かね、あんた」
「わからん。しかし、もう……それもどうでもいいことかもしれぬ」
夫婦は空を眺める。
再びラムニラ教の意匠を手に挟むと、信奉する神に祈りを捧げた。
◆◇◆◇◆
「旧ラルシェン王国、騎士長ムガリア・フィン・ドアスール様が入城されました」
「ウラナドーロ海王都市同盟の盟主ドン・ガリー様が入城」
「ベッカー公国、『閃光の騎士』アルジン・ディ・ティンガリル様も入城」
「神聖ミセリアス共和国、神官長スワラン様入城されました」
「ボロネー王国騎士団長……」
レクセニル王国に続々と強者たちが集まってくる。
そこに敵味方の区別はない。
意識することはあっても、もう一刻の猶予もなかった。
彼らを集めたのは例の研究員たちだが、さすがに人材が不足していた。
そこでレミニアの提案により、以前ラーナール教団が使っていた転送装置を使うことにした。それによってかなり遠くの人材を集めることができたのである。
各国の強者たちの顔ぶれを見て、肩を竦めたのはルネットだ。
横で監視するイーニャに話しかける。
「皮肉なものよね。ストラバールは魔獣の脅威が始まるまで、ずっとどこかで戦争をしていたわ。それが魔獣の脅威がなくなった途端、国を攻めて、そして今度はまた世界のために団結しようとしている。人ってホント馬鹿なんだから」
「あたしも納得はしねぇよ。でも、こういう時だけ協力してってのは確かに今まで真面目にやってきた奴にとっては、腑に落ちないこともあると思う。けど……」
「……?」
「こういう時に手を取り合えるだけ、人間はマシなんじゃないか?」
「ふーん」
ルネットは自分より頭1つぶん小さな赤狼族の獣人を見下ろした。
「な、なんだよ」
「別に……。イーニャもいうようになったのねって」
「なっ! あたいだって、もうすぐ30だ。子どもじゃないんだよ」
「え? イーニャって30歳なの? はあ……。なんか1年ぐらい記憶がないから、急に年を取った気分になるわ」
「馬鹿なこと言ってないで、そろそろだぞ。今回はルネットが要なんだから。大丈夫かよ、お前」
「大丈夫。【大勇者】のお墨付きももらってるしね」
ルネットとイーニャは会場へと戻っていくのだった。
◆◇◆◇◆
「へぇ……。へぇ……」
白衣を来た研究員が会場の中心に向かって走って行く。
手に持っていたのは、訓練などに使うライン引きである。
本来、白い石灰を入れて使うものだが、研究員が持っていたのは少し違う。
所謂、魔力の粉だ。
研究員たちはストラバール全体に魔力を付与した魔法陣を敷いた。
ストラバールのすべての魔力を一点に集約する陣である。
その中心にいるのは、ヴォルフだ。
補助をレミニアやハシリーを含めた強者たちが担う。
「簡単にいえば、パパを芯柱として、私たちがそれを支え、エミルディアを押し返す」
「うまく行きますかね」
ハシリーはいつになく弱気だ。
いや、彼女はいつでもこうだった。
レミニアに疑問を投げかけ、上司の答えを聞く。
いつも通りの確認であった。
「行く。いや、行かせるわ。向こうは大きな玉なら、こっちはフルスイングで打ち返すだけよ!」
レミニアが力強い言葉を返す。
しかし、それでも【大勇者】の言葉は慎重だ。
「……かなりの魔力負荷がかかるわ。ダメだと思ったら魔法陣から出てくれてもかまわない。でも、わかってると思うけど、これが失敗すればわたしたちの世界は終わる。あんまりこんなこと言いたくないけど、みんなの命を賭けてほしい」
重苦しい空気になる中、ヒナミはカラカラと笑った。
「世界を打ち返すか。面白い。さすがに世界は斬ったことはないからな」
「ちびっこい王様は聞いてたんかいな。斬るんちゃうで。打ち返すんや」
同じ刀士同士、すでにクロエとの息もピッタリだ。
ヒナミとクロエが騒がしい横で、エミリが暗い顔をしていた。
そんな彼女の頭を小突いたのは、アンリだ。
「エミリ、そんな顔をするな」
「アンリ殿……」
「エミリが考えそうなことはわかってる」
「はい?」
「早くヴォルフ殿に甘えたいと思っているのに、なかなか時間がなくて焦っているのだろう?」
「ちちちちちち、違う! 断じて拙者は……!」
エミリは顔を真っ赤にして否定する。
ふとヴォルフと目が合うと、あっちも赤くなっていた。
「はいはい。賑やかでいいわね、こっちは」
「お前ら、もっと真剣にやれよ」
ルネットが肩を竦めれば、イーニャがため息を吐く。
それを見て、ブランが大声で笑い、ルーハスが冷たい目でそれを見ていた。
エミルディアが最初に地表に到達するまで、2時間を切っている。
そんな世界の命運がかかる中で、ヴォルフの周りは騒がしい。
ヴォルフは責任感が強い。本来であれば、こんな危険なことに周りを巻き込みたくない。自分で解決できるならそうしていただろう。
マノルフとの対決の時、騎士団を巻き込んだ。
あの時の無念が心の中にあって、どこか人を巻き込むことに躊躇していた。
ずっとそれが悪いことだと思っていたからだ。
でも、今思えば誰1人として自分の元から離れていったものはいない。
レミニアも、ハシリーも、アンリも、エミリも、イーニャも、クロエも、ルーハス率いる五英傑たちも……。そしてかつて率いた騎士団たちも。
みんな、こうやってヴォルフの周りにいて、力を貸してくれる。
世界を助けることであっても、ヴォルフは素直に嬉しかった。
「ありがとう、みんな」
「何を言ってんだよ、ヴォッさん」
振り返ると、ウィラス率いる騎士団が並んでいる。
背後には傷を負ったツェヘスが馬に乗ったままこちらを見ていた。
「それはこっちの台詞ですよ」
「相変わらずめんどくせぇやつだ」
エルナンスと、マダローがいる。
「やりましょう! ヴォルフさん」
最後にそう言ったのは騎士団の服に着替えたセラネだった。
ヴォルフは頷く。
そして我が娘に向き直った。
「パパ……」
「やろう、レミニア」
「うん」
ヴォルフは魔法陣の中心に立つ。
他の強者たちもそれぞれの配置についた。
「じゃあ、行くわよ」
ルネットが合図すると、魔法陣が起動した。
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