第322話 エミルディアの秘密
「エミルディアが巨大な愚者の石!?!?!?」
【大勇者】レミニアの発言に、ヴォルフは驚きを禁じ得なかった。愚者の石が織りなす奇跡ですら、すでに人の想像外であるのに、それがついには星となったのである。ガダルフという巨悪を倒したヴォルフですら、冷静でいられなかった。
「パパが驚くのも無理ないわ。わたしだって、この計算結果は信じられないんだもの。……というか、思いついても実行しようと思わない」
レミニアの言葉に、ハシリーも同意する。
「世界そのものを愚者の石にしようなんて、一体どれだけの時間と人材を使ったらできるんでしょうか?」
「待ってくれ、2人とも。あっさり認めているが、そんなことできるのか?」
「できるわ。ただし大量の愚者の石が必要だけど。そうね。ざっと2000、いや5000は必要かも」
「5000!! そんな大量の愚者の石をどうやって生成をしたんだ」
「パパは直接見たんでしょ。エミルディアにいる獣を」
「聖獣のことか?」
ヴォルフがエミルディアに渡った時には、天上族は滅びた後だった。
代わりにエミルディアを支配していたのは、聖獣と呼ばれるSランクあるいはSSランクの魔獣たちだ。
「おそらくその聖獣を使って、愚者の石を生み出したんでしょうね。むしろそのために増やしていたのかも」
レミニアの推測は当たっていた。
ガズは天上族なきエミルディアを聖獣の楽園として、食料として羽なしたちを食わせていた。エミルディアの食物連鎖の頂点は、聖獣だ。大した天敵もいない聖獣は順調に増えていったに違いない。
「ガダルフのいうとおり、ガズという主教の仕業でしょうか?」
「あるいはガダルフがガズにそうしろと命令したんでしょうね。2人が全く関係ないなんてことはあり得ないんだから」
「ラーナール教団にはたくさんの信者がいました。中には優秀な人材もいたはずです。彼らを使って、聖獣を愚者の石にし、エミルディアを長い時間かけて、愚者の石化したんでしょうね」
実行者はガズだが、ガダルフが筋書きを書いたことは間違いない。
ガダルフもガズもこの世にいないが、彼らは気が遠くなるような昔から準備し、多くの人材を投入して、世界の破壊を今実行しようとしている。ガダルフやガズが手を抜いていたわけじゃないが、ヴォルフとの勝負ですら時間稼ぎでしかなかったのかもしれない。
「もう打つ手はないのか、レミニア」
「パパ。わたしはこう見えて天才なのよ」
「何か策はあるんだな。俺がやれることならなんでもするぞ」
ヴォルフは己の胸を叩く。
すると、ハシリーが口を挟んだ。
「ヴォルフさん、難しいことではありません。こちらもガダルフと同じことをすればいいんです」
「ストラバールを賢者の石にすると?」
ヴォルフがいうと、レミニアは忌々しげに鼻を鳴らした。
「相手のやり方を真似るのは、天才レミニアちゃんとしては納得がいかないけどね」
「現時点で、1番現実的な方策です。ただ簡単ではありませんが」
ハシリーの言葉に、研究員たちは同意する。
すでにそのシミュレーションを始めているらしい。
計器を見ながら、水の壁に映った映像と睨めっこしている。
「計算でました」
「方法で言えば、今取り得る現実な方策です」
「が……、問題はやはりパワーです」
「ヴォルフさんの賢者の石、擬似・賢者の石を動かせたとして、ストラバールを巨大な賢者の石にするには、まったく魔力が足りません」
エミルディアを巨大な愚者の石にするだけでも、何千個という量が必要だったのだ。いくらヴォルフの賢者の石が質の上で愚者の石に上回ったとしても、何千個もの魔力を補うには遠く及ばないのは自明の理であった。
レミニアは質で賢者の石を求めたのなら、ガダルフは逆――つまり、数でその力を補ったのだろう。ガダルフの執念ともいうべき実行力に、ヴォルフは感心してしまった。
「レミニア、ボクとあなたを足せば……」
「それでも全然足りないでしょう。今残っているSランク以上の魔力を保有する強者を全部賢者の石したところで足りないはず。そもそもそんな人材、世界の端から集めて、5000人も集まらないわよ」
「結局、現実的ではないということですね」
「いいえ。方法はないわけじゃないわ」
「向こうが5000人なら、こっちは5万人を集めるとか?」
レミニアとハシリーの間に、ヴォルフが加わる。
「パパ、とてもいい線よ。数で勝負する意味ではね」
「ルネットさんの強化魔法がそうだったからな」
聖樹リヴァラスを媒介にして、多くの人間の魔力を集め、ヴォルフに強化魔法を施した戦術は、うまくハマった。つまりヴォルフが言いたいのは、みんなの魔力を束ね対抗できないかという案だ。
「小さな力を合わせれば……」
「でも、聖樹リヴァラスは……」
「ハシリーのいうとおり、もう1度あの時のように媒介にするのは無理でしょうね。でも、今のパパなら」
「そうか。リヴァラスの代わりになるかもしれない」
それまで暗い表情だったハシリーの顔が、ようやく輝いた。
「ただパパだけ人柱にするのは危険だわ。わたしも手伝う」
「なら、ボクも手伝いますよ。レミニアやヴォルフさん任せにはできませんから」
「もちろんハシリーにも手伝ってもらう。あと森に避難民たちを警護している五英傑やお姫様たちも呼び戻して。今は少しでも多く、膨大な魔力に耐えられる人材が欲しいわ」
「上司、我々は?」
研究員が手を挙げる。
「一部はここに残って監視。あとはストラバール全体に魔法陣を描く準備を」
「「「「げげっ!」」」」
研究員たちの顔が青ざめる。
それをムッとレミニアは睨みつけた。
「何よ、その顔。こういう時のためにあんたたちには、わたしの膨大な魔力を分けてあげているんだから、ちゃんと働きなさい。さあ、散った散った!」
「これってパワハラでは……?」
「上司がブラックすぎる」
「オレたち、次いつ寝れるんだろう」
「転職考えようかな」
研究員たちはトボトボ歩きながら、準備を進めるのだった。
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