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【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~  作者: 延野正行
それぞれの戦い篇

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第304話 マイナスの魔法

☆★☆★ 初週末 ☆★☆★


『アラフォー冒険者、伝説となる』単行本6巻が発売されて、

初の週末となります。書店にお立ち寄りの際には是非よろしくお願いしますm(_ _)m


挿絵(By みてみん)

「マイナス階梯……」


 耳慣れぬ言葉に、ハシリーは眉を顰めた。


 魔法は通常『第一階梯』『第二階梯』という風に、数が増えるごとに構築難度と実用性、そして威力が上がる。


 しかし、ガダルフが使ったのは『マイナス階梯』……。階梯の数字が〝正〟から〝負〟から変わる――その意味するところを、この時ハシリーは掴み切れていなかった。


 直後、ガダルフの暗い声が続く。



 【影竜・召喚】!



 現れたのは、黒い竜だ。

 ガダルフの周りを回り、守護するようにハシリーとレミニアの前に立ちはだかる。

 黒い竜は2人を威嚇すると、ガダルフの指示通り襲いかかった。


「『マイナス階梯』というから、どんな魔法かと思えば、結局闇属性系の魔法ですか。元3賢者と言われた方にしては、芸がないですね」


 ゆったりとした竜の動きを見て、ハシリーは回避しようと動き出す。


「えっ?」


 走り出そうとした1歩目、ハシリーの身体がガクリと揺れる。

 一瞬身体の力が抜けた。


(なんだ? 一体? 疲れ? 疲労……?)


 確かに連戦続きだ。

 ガダルフを倒し、ヴォルフやレミニアとも戦った。そして今目の前にいるのは、またガダルフ。蓄積した疲れが、極限の緊張感の中で現れてもおかしくはない。


「ハシリー!!」


 ハシリーは飛び込んで来たレミニアに押し倒される。直後、その上を横切ったのは、例の黒い竜だった。黒い牙によって2人を食いちぎらんとするが、レミニアによって回避される。レミニアの咄嗟の判断がなければ、黒い竜に食われていただろう。


「レミニア、すみません。助かりました」


「仕方ないわよ。慣れていないと、きついと思うし。ぐっ……」


 レミニアは膝を突く。その顔は苦悶を浮かべていた。


「レミニア!?」


「大丈夫。それよりハシリーは知らないのね」


「『マイナス階梯』の魔法ですか? 知りませんでした。ガダルフが使えることも。……おそらく信用されていなかったのでしょう」


「……通常、魔法ってのは体内の魔力を使って構築するでしょ?」


「じゃあ、『マイナス階梯』は……!」


「体内ではなく、体外から魔力を吸収して放つ魔法のことよ」


「体外から……!」


「別に驚くことじゃない。誰でもやっていることだからね」


 通常の人間は魔力を体内で構築し、魔力を放つ。消費した魔力は体外――つまり大気中に含まれる魔素(マナ)を摂取することによって回復する。人族はおろか、ほとんどの生物が息を吸うのと同じぐらい、この動作を自然に行っている。


「ガダルフがやっているのは、その生理行動を強化したものよ。まさに裏技――『マイナス階梯』の魔法のことを〝裏魔法〟なんていう人もいるわ」


「そんな魔法まで網羅してるとは……。やっとあなたが天才に見えてきました」


「遅すぎるでしょ。……ともかく気を付けなさい。体外から吸収することができるということは、使える魔力は無尽蔵ということよ」


「その通りだ」


 ガダルフが纏う黒い竜がさらに大きくなっていく。

 リヴァラスの上で、蛇神のように巨大に膨れ上がった黒竜は、レミニアとハシリーに襲いかかった。


「いけ! 影竜!!」


『ジャアアアアアアアアアアアアア!!』


 けたたましい嘶きとともに、黒き竜は再び襲いかかってくる。


「あんまり調子乗るんじゃないわよ。今に見てなさい! 串刺しにしてやるわ!!」



 【天縛・剣の陣(クロノス・ジェイル)】!



 それはかつてレミニアが、グランドドラゴンを磔にした大業だ。

 光の剣が巨大魔獣を地面に磔にする。その威力はかの災害級の魔獣ですら、逃れられないものだった。


 しかし――――。


「嘘でしょ……」


 光の剣は一向に現れない。

 詠唱ミスを疑ったが、天才であるレミニアが誤唱するとは思えない。いや、それどころかうまく魔力を練ることすらかなわなかった。


 瞬間、肥大した影竜がレミニアに襲いかかる。

 寸前のところで、手を引っ張り、救出したのは、勿論ハシリーだ。


「大丈夫ですか、レミニア」


「これで貸し借りなしね」


「そんなことを言ってる場合ですか。それにあなたに貸しならいくらでもありますから、後で覚悟してください」


「怖い部下ね。それにしても」


「ええ。魔法が構築できません」


「特に強く、魔力を練る必要がある魔法はダメだわ。その場で魔力が吸い取られる」


「あの黒い竜がいる限り、大魔法は使えない?」


「使えて、第三階梯といったところでしょ」


 2人は戦慄する。

 ただ魔力を吸収するだけかと思ったが、発動して以降、魔力を吸い上げていく魔法なんて魔法使い殺しもいいところだ。


「おおもとを断つしかないわね。ハシリー……」


「全部言わなくてもわかりますよ。ぼくが黒い竜を受け持ちます」


「さすが相棒! わかってるじゃない」


「相棒になった覚えはありませんが、あなたの部下に任じられた覚えはあります」


「相変わらず、口の減らない部下だわ」


 レミニアとハシリーは目を合わせる。

 言葉以上に、気の通じた2人はそこですべての打ち合わせを終えた。


 それぞれの獲物へと直接走って行く。


 天上族と人族のハーフであるレミニアとハシリーの身体能力は、普通のそれとは違う。魔法や強化魔法の恩恵がなくても、非凡と言わざるを得なかった。


「こっちだ!!」


 ハシリーが影竜を引き出す中、レミニアは聖剣を握り、ガダルフに接敵する。

 剣を薙いだ瞬間、持っていた聖剣が消えた。


「忘れてないか、【大勇者(レジェンド)】。その剣もお前が召喚した聖具であることを」


「――――ッ!!」


「食らえ」



 マイナス階梯魔法【絶喰】



 黒い影がほとばしる。

 それは一直線にレミニアに襲いかかると、小さな身体を食い破る。


 瞬間、レミニア・ミッドレスの身体から赤い鮮血が飛び散るのだった。


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挿絵(By みてみん)


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挿絵(By みてみん)

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