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【コミカライズ配信中】アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~  作者: 延野正行
~~ 第2章 伝説始動 ~~

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プロローグ Ⅱ

新章序幕!

まずは伝説のお話をお聞き下さい。

「――あんたは伝説を信じるかい?」


 仄暗い海底から年老いた水妖が誘っているかのような声だった。

 あちこちに呪いの護身具を身に着けた老婆は、目深に被ったフードの奥から瞳を光らせる。


 伝説とは、ストラバールに昔から伝わる事実(ヽヽ)だ。


 魔獣が初めて確認された200年前。

 その最初の大出現期となる魔獣戦線で、もっとも活躍した【勇者】レイル・ブルーホルドという男がいた。

 30年以上の冒険者稼業でレイルが倒した魔獣の数は、100万体以上。

 その中には、(当時は設定されていなかったが)超高難度級(Aクラス)が142231体、災害級(Sクラス)が11622体含まれている。

 200年経った今でも、その記録は抜かれていない。


 だが、レイルが伝説として扱われているのには、訳がある。


 彼が冒険者になったのは、45歳だった。

 つまり、おっさん(ヽヽヽヽ)になってからである。

 先ほどの成績は、レイルが亡くなる79歳までに挙げた功績で、人間の晩節に叩き出した数字としては、言うまでもなく驚異的なものだった。


 ちなみに、レイルの死因は老衰だったという……。


 あまりに荒唐無稽な話であることから、レイルの話は“都市”伝説と化していた。


 曰く、魔獣戦線に疲弊する人類の士気を上げるためのプロパガンダ。

 曰く、記載上のミス。

 曰く、別人説。

 不死であったという者もいる。


 長いことを論議を呼ぶ問題だが、いまだ解決には至っていない。


 海の方へと向かう乗り合い馬車にも、伝説を信じるものと信じないものとで二分していた。

 ライトアーマーに、長物の武器を持った2人組の冒険者は、鼻で笑う。


「そんなの嘘に決まってんだろ。レイルには虚言癖があって、わざと高く年齢を盛ったって聞いたぜ」

「それにしたって、盛りすぎじゃね? おっさんじゃねぇか」


 ゲラゲラと笑った。

 対して反論したのは、小さな男の子だ。

 傍らには母親が、居ずまい悪そうに座っている。

 この先にある街で単身赴任をしている父親と一緒に暮らすのだと、先ほど話をしていた。


「レイルは嘘をついたりなんかするもんか! きっと凄い修行をして、強くなったんだよ」


 子供は瞳を輝かせる。


 この流れから、冒頭の老婆の質問になったのだが、答える前に冒険者2人組は、にやついた笑みを浮かべた。


「あんた、結構な歳だよな? 40前? いや、もっといってるか。だったら、そろそろ廃業だな。……あんたならわかるんじゃね?」


 冒険者の引退適齢期は37歳だと言われている。

 年々衰えてくる筋肉。

 反応も悪くなり、病気やその治りも鈍い。

 経験こそ蓄積されるが、的確な判断が難しく感じる年齢だ。


「そうかもな……」


「だろ? 45で冒険者なんてお伽話の類さ」


「でも、俺は伝説を信じるがな」


「ああん?」


「いや……。信じるじゃないな。たぶん、信じたいんだ。俺がまだやれるってな」


 ……沈黙が落ちる。

 すぐに冒険者たちの爆笑へと変わった。


「なんだ、それ? まだ引退したくないのかよ、おっさん。やめろやめろ。足手まといだ」

「夢を見るのは結構だが、俺たちのいないところで追いかけてくれよな」


 ぎゃははははははは、と大口を開けて笑った。

 横で子供の母親が愛想笑いをし、子供は頬を膨らませ拗ねている。

 やがて、老婆の顔が上がる。

 占い師らしく、あちこちを旅しているといっていた。


「あんた、良い眼をしてるね。どことなくレイルに似てる」


 肩を竦めた。


「やめてくれよ、ばーさん。エルフならまだしも。ばーさんは、人族だろ?」


「ほっほっほっ……。後半は嘘でも、良い眼をしているのは本当さ。あたしがもう少し若かったらねぇ……」


「からかわないでくれ。残念ながら、ばーさんは俺の好みから大きく外れてる」


「それは残念――」


「――――ッ!」


 不意に微震を感じた。

 わずかな揺れの震動。

 他の乗客は気付いていないらしい。

 それぞれ談笑を続けている。


「御者! 馬車を止めろ!!」


 叫んだ。

 客のいわれるまま御者は、手綱を引く。

 馬が立ち上がった。

 揺れはさらに激しさを増す

 ようやく他の乗客も気付き始めた。

 母子は身体を寄せ合い、冒険者たちも狼狽え、周囲を警戒する


 次の瞬間、前方の地面が盛り上がった。

 激しい音とともに土柱が立ち、石や砂が幌に落ちてきた。

 馬は動揺し、泣き叫ぶかのように嘶く。


「デスウォームだ!!」


 それは巨大な百足だった。


 小さな屋敷ならひと呑み出来そうなほど大きく、また長尺な体躯。

 幾重にも連なった体節からは歩肢が伸び、頭部に1対の触覚が突き出ていた。

 硬い鎧のような体節からは、常時骨を鳴らすような奇音が空気を震わせる。


 デスウォーム……。

 Bクラスに分類される虫型魔獣だ。

 その大型な体躯と硬い皮膚ゆえ、適性レベルを越えたAクラスとて、苦戦する魔獣だった。


「おい! 御者! 反転だ! 逃げろ!!」


 冒険者の叫びには、泣き声が混じっていた。

 御者はすぐさま鞭をくれる。

 だが、馬は動かない。

 デスウォームの迫力に完全に棒立ちになっていた。


「ちくしょう!」


「おい! まだ出るな!」


「うるせい!」


 制止を振り切り、冒険者は女子供を押しのけて、我先と幌から脱出する。

 それを見て、御者も手綱を放り出し、後方へと逃げる。

 その判断は誤りだった。


 もう1つの土柱が立つ。

 逃げ出したものの行く手を遮るようにデスウォームのおかわりがやって来た。


 この魔獣の習性は、2体がつがいとなって行動すること。

 1体いれば、必ず2体目がどこかに存在する。

 それが、馬車の後方だった。

 挟まれた格好となったのは、すでに魔獣の術中にはまった証拠だ。


「うわああああああ!!」

「た、助けてくれぇえええ!!」

「あ、ああ……。あああああああ!!」


 断末魔の叫びが響く。

 デスウォームは大きな口を開けると、3人の人間を一気に丸飲みした。

 その溶解液は岩をも溶かす。

 飲み込まれれば、一瞬にして骨までしゃぶり尽くされるのだ。


 あとに残ったのは、顔をしかめたくなるような腐臭だけだった。


「威勢がいいのは口だけかい……」


 老婆は舌打ちする。


「あんたも逃げるなら逃げな。婆さんを残しても、何の役にもたたん。だが、あんたは冒険者だ。きっと、私たちの無念を晴らしてくれる。そうだろ?」


 老婆がそういえば、今度は母親が進み出てくる。

 肩を震わせ、目には涙が溢れかえっていた。


「お願いです。この子だけでも……。この子だけでも一緒に……。どうか!」


 神に供物でも捧げるかのように、抱き上げた子供を差し出す。

 一方、子供の方が母親の首に抱きつき、離れようとはしない。

 先ほどの冒険者とは違い、勇敢にも母親を守ると訴えていた。


 頬を掻く。

 ちょっと困ったように男は(ヽヽ)首を傾げる。


「あの……。逃げるのはいいんだが……」



 別に倒しても(ヽヽヽヽヽヽ)いいんだろ(ヽヽヽヽヽ)



「え――?」


 母親は絶句する。

 老婆も大きく見開き、唾を呑んだ。

 子供だけが目を輝かせている。

 その頭をそっと撫でた。


「ママを頼んだぞ」


 幌を出る。

 腰に差した剣の柄に手を掛けた。


 現れた中年の男を見て、後方に出現したデスウォームは激しく威嚇する。


 骨を叩くような音を立て、滑らかにその体躯を動かした。

 波が迫ってくるようだ。

 奇声を上げ、2本の牙を左右に開く。

 口内から溶解液が溢れていた。

 魔獣の頭が、鼻先まで迫る。


 瞬間、鋼の剣を抜き放つ。



 一ッッッッッッッ刀――――――――ッ!



 その剣閃はあまりに速かった。

 気が付けば、デスウォームの巨大な体が、縦に切り裂かれていた。

 2つに割れた巨躯は、無花果を剥くように体液を迸らせ、ゆっくりと横たわる。

 その間にいた男は、残心のまま固まっていた。


「きぃぃぃぃぃいいいいいい!!」


 耳をつんざくような声が背後から聞こえた。

 パートナーを失い、怒りを覚えたのか。

 残ったデスウォームは男を指向し、襲いかかってくる。

 その後背を突き、2本の牙を動かした。


 同時に男は腰を切る。

 横薙ぎに剣を払った。

 デスウォームの頭部が、球のように飛んでいく。

 頭がなくなっても動く巨躯に対し、さらに斬撃を加えた。


 一瞬の4連撃!


 竹を斬るかの如く、デスウォームはバラバラになった。

 落下し、体液を地面に染みこませていく。

 きつい腐臭が立ちこめる中、やってきたのは耳が痛くなるほどの静寂だった。


 キィン、と剣を鞘に収める音だけが響く。


「怪我はないか、ばーさん」


「あ、ああ……」


 生返事で返す。

 後ろの子供は「すげぇ!」を連発するが、母親の顔が青ざめていた。今にも卒倒しそうだ。


「ごめんな。お前たちのご主人様を救ってやれなくて」


 男はポンポンと馬の首を撫でて落ち着かせる。

 馬もまだ興奮気味で、ぶるるると荒く息を吐き出した。

 特に馬車にダメージがないか確認すると、自ら御者台に座る。

 鞭をくれると、馬はゆっくりと歩き始めた。


「あ、あんた、何者(なにもん)だい?」


 老婆は恐る恐る尋ねる。

 もはや、男の強さは老婆の占いの範疇を越えていた。


 男は前を向いたまま答える。


「ヴォルフだ。……ニカラスのヴォルフ」


 と――――。


明日より『冒険者始動篇』をお送りいたします。


いつもより遅くなるかもしれないですが、明日中には更新いたしますので、

よろしくお願いします。

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