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妖怪ウォーズ~泣き虫番長の一年戦争~  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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決戦! 逆襲のシローラモ! (4)

 天に向かい、絶叫する大介。すると、誰かが彼の頭を叩いた。ぱちんと間の抜けた音がする。

 振り向くと、そこには口裂け女がいる。あちこち傷ついてはいるが、動くのに支障はないらしい。


「ひとりで何を言ってるんだよ。ついに頭おかしくなったのかい?」


「あ、クチサケさん! お怪我の方は大丈夫……」


 そう言ったきり、大介は絶句する。近くで見ると、口裂け女の服はあちこち破れ、妙なエロさを醸し出しているのだ。思わず鼻の下を伸ばし豊満な胸元を見つめるが、口裂け女に思いきりシバかれた。


「ちょっと! こんな時にどこ見てんだい!」


「す、すいません」


 状況も忘れ、大介はペコペコ頭を下げる。と、そこに新たな乱入者が現れた。


「みんな! 連れて来たシカ!」


 鹿のような角を生やし、腰からは馬の尻尾が伸びた女の子……これまた、かつて大介と激闘を繰り広げた馬鹿娘だ。バカムスメではなく、ウマシカムスメである。

 そんな彼女の背中におぶさっている気の弱そうな少年は、なんと浦井真太郎であった。学校の制服を着たまま、唖然とした様子で亡者と妖怪たちとの戦いを見ている。


「マタロウ! じゃなくて真太郎! お前、何しに来た! 危ないから近づくな!」


 怒鳴った大介に、真太郎も困った顔で答える。


「いや、僕も馬鹿さんにいきなり来いと言われたので……」


 すると、そこに送り犬が割り込んで来た。


「僕が連れて来てもらったんだワン! 真太郎がいないと、亡者の群れは止められないんだワン!」


 言うなり、またしても戦いの中へと飛び込んでいく。だが、大介にはまったく理解不能だ。


「何だと!? なぜ真太郎が!?」


「必要なのよ、この子が」


 当然の疑問に答えたのは、息を吹き返し立ち上がったドロイであった。


「いいかい、奴らは倒しても倒しても、無限に湧いて出るの。亡者を封じるには、門を閉ざすしかないんだよ」


 そこで、ドロイは前足で真太郎を指す。


「それが出来るのは、あの子しかいない」


「し、真太郎がか!?」


 驚愕の表情を浮かべる大介。聞いている真太郎も、唖然となっている。授業の最中にいきなり呼び出された挙げ句、とんでもないところに来てしまったのだから。


「そうよ。あんたと違い、彼にはとても強い霊力がある。冥界の門を閉ざすには、その霊力が必要なのよ。ただし、そのためには奴らを何とかしないといけないけどね」


 言いながら、ドロイは忌ま忌ましげに亡者の群れを睨みつける。今も、送り犬と首なしライダーと投げ捨て魔人とハイロウが奮戦してはいるが、亡者の数の多さに押されている状況だ。


「こりゃあ、まいったね。さすがに、ここを突破するのは厳しいよ」


 ドロイが呟いた直後、口裂け女が異様な音を聞き付け空を見る。途端に叫んだ。


「ちょっと! 何だいあれは!?」


 その声に、大介たちはそちらを向く。

 空の彼方から、こちらに向かい走ってくるものが見える。牛車のような形で、前には巨大な男の顔があり、その横には車輪が付いていた。そう、妖怪・朧車(オボログルマ)なのだ。

 朧車は着地すると地を走り、大介らの前で止まる。中から降りてきたのは──


「大介くん、助けに来たわよ」


 そこに現れたのは、なんと水木繁子であった。百歳を超えているとは思えぬ態度だ。着物姿で静々と歩き、大介に微笑む。


「ちょ、ちょっと! なんであなたが!?」


「あの子に聞いたのよ。あの子ったら、あなたを助けてくれって頼みにきたのよ。本当に、いじらしい子で……だから、私も久しぶりに動く気になったの」


 言いながら、水木は朧車を指差す。車には、もうひとり乗っていたのだ。幼い子供のようだが、頭には猫の耳が付いている。恥ずかしそうに、車から出て来る。

 先ほど別れた、猫耳小僧ではないか──


「ね、猫耳小僧!?」


 びっくりして叫ぶ大介に、水木は頷いた。


「そう。あの子ったら、いきなり家まで走って来たかと思ったら、大介を助けて欲しいのニャ! なんて頼みに来たのよ。いい子じゃないの。そこまで言われちゃ、私も動かないわけにはいかないからね」


 水木は、嬉しそうに微笑む。すぐ近くでは、妖怪たちと亡者たちの戦いが繰り広げられているのだが、それでも己のペースを変えようとしない。たいした人だ……などと大介が感心していると、車から一匹の黒猫が降りてきた。美しい黒の毛並みと緑色の瞳、そして二本の尻尾が特徴的である。


「全く、何なんだニャ。こんな小者のために、二百年も生きてる化け猫のあたしが動かなきゃいけないのかニャ」


 黒猫は、面倒くさそうに言った。だが、水木はお構いなしだ。


「この子は、化け猫のミーコよ。二百年前から生きてるから、とっても頼りになるわ。さあミーコ、ふたりと一緒に行ってあげて」


「お、おう。ミーコ、頼んだぜ」


 大介が言った途端、ミーコはびしゃりと尻尾を打ち鳴らした。


「その態度はなんだニャ! あたしは、三百年も生きてる化け猫だニャ! 人間ごときが、失礼な態度を取るニャ!」


「えっ、えええ……」


 さすがの大介も困ってしまった。どうやら、このミーコという化け猫は上位の妖怪のようだが、かなり面倒な性格らしい。

 すると、水木が呆れた様子で口を挟む。


「ちょっとミーコ、意地悪いわないの。ここまで来たんだから、力を貸してあげなさい」


 その言葉に、ミーコはフンと鼻を鳴らす。直後、とことこと歩いていく。

 妖怪と亡者たちが死闘を繰り広げている中に突入すると、いきなり二本足で立ち上がる。

 直後、奇怪な声で吠えた──

 その時、驚くべきことが起きた。亡者たちの群れの動きが、一斉に停止したのだ。まるで電池切れを起こした玩具のように、全員がそのままの姿勢で動きを止めている。戦っていた妖怪たちも、唖然となっていた。

 一方、ミーコは涼しい表情だ。あまりのことに固まっている妖怪たちを見回し、ふうと溜息を吐く。


「お前ら、よく戦ったニャ。少し休んでろニャ。この亡者どもは、しばらくしたらまた動き出すからニャ。その時は、きっちり仕留めるニャよ」


「す、すげえ! お前、すげえな……」


 叫んだ大介だったが、ミーコにじろりと睨まれ、慌てて口を閉じる。また怒られそうな気配を感じたのだ。

 しかしミーコは、ふうと溜息を吐いただけだった。


「全く、これだから人間のガキは嫌いだニャ。いつもなら、お前の体にきっちり礼儀を叩き込んでやるところだけどニャ、今はそれどころじゃないニャよ。今日だけは見逃してやるニャ」


 その直後、水木が真太郎の肩に触れた。


「さあ、行きなさい。行って、門を閉ざすのよ。これは、あなたにしか出来ない仕事だから」


「ぼ、僕ですか?」


「そう。あなたには力がある。私なんかよりも、ずっと強い霊力がね。大介くんのためにも、それを使ってあげなさい」


 水木のこちらを見る目には、優しさがあった。真太郎は、こくんと頷く。

 そして、大介のそばに歩いていった。


「大介さん、行きましょう。門を閉ざしてやりましょう」




 大介と真太郎は、廃墟と化した旅館に入っていく。二人を先導するのは、化け猫のミーコだ。

 旅館内には、数十人の亡者たちがうごめいている。皆、大介たちの存在は見えており威嚇するかのような動きをする。だが、直接の攻撃はして来ない。この黒猫がいる限り、亡者たちも手出しできないらしい。大したものだ……と感心する大介だった。

 その時、不意にミーコが彼の顔を見上げる。


「いいかニャ、あたしがこいつらを押さえていられる時間には限りがあるニャ。だから、早いうちに降りて門を閉ざさなくてはいけないニャよ。でないと、お前たちはこいつらに殺されるニャ」


「お、おう、わかった」


 答える大介。やがてふたりと一匹は、地下への階段を降りていく。

 地下もまた、大勢の亡者たちに占拠されていた。彼らは、降りて来た大介たちを確認するや一斉に敵意ある視線を向けてくる。しかしミーコが近づくと、途端に怯えた顔で飛びのいた。

 亡者たちが道を空ける中、ふたりと一匹は進んでいく。さすがの大介も、大勢の敵に囲まれ緊張した面持ちだ。真太郎に至っては、泣きそうな顔で大介の腕を掴み、震えながら付いてきている。

 やがて、ミーコが歩みを止めた。


「見てみろニャ。あれが、冥界と現世とを繋ぐ門だニャ。あれは、あたしでも閉められないニャ。だから、お前の持てる霊力を使って門を閉めるニャよ。今なら、亡者たちも出てこないニャ」


 黒猫の言葉に、大介と真太郎は前方を見る。

 本来なら、そこは行き止まりになっているはずの場所なのだろう。だが、そこの壁には木製の巨大な扉があった。扉は大きく開かれ、その中には暗闇が見える。まるで生き物のように、闇がうごめいているのだ。大介と真太郎は、思わず顔を歪めた。

 すると、ミーコはフンと鼻を鳴らす。


「このガキ、ビビってないでさっさと終わらせるニャ。あたしの力でも、こいつら全員を押さえ付けておけるのは、あと数分だニャ。だから、早く門を閉めるニャ」


 ミーコの苛立ったような声に、真太郎はハッとなった。

 両手を前にかざし、裡に秘めた霊力を放出させる。すると、開かれた扉は徐々に動き始めたのだ。触れてもいないのに、ひとりでに動き閉じようとしている──


「おおお! すげえぞ真太郎! 頑張れ!」


 大介の声に、真太郎は大きく頷いた。両手に、さらなる霊力を込める。

 その時だった。真太郎の頭に、直接語りかける声がある。


「その門を、閉ざすつもりかい?」


 真太郎は、思わず顔を歪めた。その声は、魔王アマクサ・シローラモのものである。声は、彼の心に速やかに浸透していった。さらに、心の奥底に眠る闇の獣を引きずり出そうとして来る──

 声は、なおも語りかけて来た。


「君は今まで、大勢の人間に(しいた)げられてきた。この人間の世界を、強く憎んでいたはずだ。そんな君が、人間のために力を使うのかい?」


 嘲笑うかのような声だ。真太郎は、思わず俯いた。声の主が何者かは知らないが、言っていることは間違いではない。

 昔の、苦い記憶が呼び覚まされる。同級生たちから投げ掛けられた暴言の数々。体に受けた暴力。ズタズタにされた自分のプライド。

 確かに、自分はこの世界を憎んでいたのだ。

 真太郎の心で眠っていた闇の獣が、外の世界に這い出ようとしている──


「こんな世界、目茶苦茶にしてやりたいと思っていたんじゃなかったのかい? 君には、それだけの力があるんだよ。それとも君は、己の力を隠して、あの下らない俗物たちの中で生きていくのかい?」


 その時、真太郎は顔を上げる。彼の顔には、鋭い表情が浮かんでいた。


「あんたの言う通りさ。僕は今も、この世を憎んでるよ。こんな世の中、どうなろうと知ったことじゃない。人類なんか、滅亡したって構わないと思ってる。でもね、僕は門を閉めるよ。人間のためにやるんじゃない。大介さんのためにやるのさ」


「大介のため?」


「そう。大介さんは、この門を閉ざしたいと願ってる。人間たちを守ろうとしてる。僕は、その大介さんの願いを叶えるだけさ。人間のためなんかじゃない。大介さんのためだ」


 語りかけてきた声に不敵な表情で答えると、真太郎は再び自身の両腕に霊力を込める。すると、開かれていた両扉は、また動き始めた。じりじりと動き、閉ざされていく。

 やがて、門は完全に閉ざされた。直後、扉は跡形もなく消え去る──


「ど、どういうことだ? 扉が消えちまった……」


 呆然となる大介に、ミーコが前足でちょんちょんとつつく。


「大丈夫だニャ。これで、門は閉ざされたニャ。亡者は、もう出てこないニャ」


 その途端、大介は真太郎に飛びついていく。


「やったぞ真太郎! お前がやったんだ! すげえぞ! お前が、彩佳市の平和を守ったんだ!」


 叫びながら、大介は真太郎を抱きしめる。その土管でも砕いてしまいそうなベアハッグをくらい、真太郎は必死でもがいた。


「だいずげざん、ぐるじいでず……」


「おお! すまんすまん!」


 ぐはははは! と豪快に笑う大介。そんなふたりを見て、ミーコがボソッと呟く。


「こいつらは、アホだニャ」


 呟いた後、面倒くさそうに後ろ足で耳の裏を掻いた。

 その時、上の階から声が聞こえてくる。


「大介! 大丈夫かワン!」


 叫びながら、降りて来たのは送り犬だ。次いで猫耳小僧、馬鹿娘、ハイロウらが降りて来る。彼らは、フロアに残る亡者たちを次々と片付けていった。

 奮戦する妖怪たちの横で、大介たちはしゃがみ込む。後は、彼らに任せても大丈夫だろう。

 自分たちが勝ったのだ──




 それから、一週間が経った。

 彩佳市は、平和そのものである。風俗街にエプシロンと平佑清と獅子虎浄之進という謎のトリオが出没するようになったことを除けば、普段とまったく変わらない日常を取り戻していた。 

 そんな中、夜の神社にて、大介と口裂け女はベンチに座り弁当を食べていた。


「クチサケさん! この煮物、美味いです!」


 言いながら、弁当に舌鼓を打つ大介。そう、この弁当は口裂け女の手作りなのである。

 大介の横で、口裂け女は頬を赤らめ、もじもじしている。妖怪らしからぬ姿だ。


「そ、そうかい?」


「いやあ、クチサケさんは美人で料理も上手くて、最強ですね!」


「や、やだよう。照れるじゃないか」


 言いながら、口裂け女は大介をつつく。大介はだらしない表情を浮かべていたが……。

 次の瞬間、表情を引き締める。


「クチサケさん、俺はあなたが好きです!」


「そ、そんな……」


 照れまくる口裂け女。だが、直後の言葉に表情が一変する。


「俺は、俺は……あなたと合体したい!」


「なんじゃそりゃ!」


 直後、大介は張り倒された。口裂け女はプンプン怒りながら、大股で去って行く。

 その時、隠れて見ていた者たちが物陰から出て来た。猫耳小僧、送り犬、そして浦井真太郎の仲良しトリオだ。


「大介、大丈夫かワン?」


 送り犬が、心配そうに近づいていく。


「あいててて……なぜ、俺の気持ちは通じないんだろうか」


 しかめ面をして起き上がる大介に、猫耳小僧は呆れた顔で首を振った。


「大介はアホだニャ。あんなこと言ったら、ぶん殴られるに決まってるニャ」


 猫耳小僧に言われ、大介は頷いた。


「そうだな。でも、俺は諦めんぞ。いつか必ず、あの人を……」


 ・・・


 その頃、水木繁子の家に奇妙な客人が来ていた。

 年齢は二十代だろうか。若く、美しい顔をしている。だが、とてもおかしな格好をしていた。頭には美しい装飾の施された黄金の冠を被り、背中には紺色のマントを羽織っている。しかしマントの下は、白いパンツを履いているだけだ。ちなみに、そのパンツはブリーフである。

 傍から見れば、罰ゲームにしか思えないような服装だが……彼はほんの一週間前、この彩佳市の一部に恐怖と混乱を巻き起こした魔王アマクサ・シローラモである。にこやかな表情で、水木宅の居間に座っていた。

 ちゃぶ台を挟む形で、水木は座っている。奇怪な格好の魔王シローラモに対し、怯む気配はない。

 居間の隅には、黒猫のミーコがいた。緑色の瞳で、じっとシローラモを見つめている。


「まさか、あなた方のような大物が直々に動くとは思いませんでしたよ。これもまた、大門大介の人徳といったところでしょうか」


 そう言って、シローラモは水木とミーコを交互に見る。だが、ミーコはぷいと横を向く。一方、水木は子供を諭すような表情で口を開く。


「まったく、あなたって子は……今回は、いたずらが過ぎたわよ」


「フフフ、今回は面白かったですよ。大門大介、まだまだ楽しめそうです」


「あなた、まだ何かしでかす気なの?」


 顔をしかめる水木に、シローラモは笑顔で頷いた。


「もちろんですよ。あんな愉快な遊び相手は、そうそう見つかりませんからね。彼には、しばらく僕と遊んでもらいます」


 そう言うと、シローラモは軽やかな動きで立ち上がる。


「では、またお会いしましょう。ご機嫌よう」


 恭しい態度で、頭を下げた。直後、フッと消える。


「あいつは、アホだニャ」


 冷めた口調で、ボソッと粒いたミーコ。水木もまた、呆れた表情で溜息を吐いた。


「本当に、困った子ねえ。あの様子だと、また何かやらかすわよ」







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