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妖怪ウォーズ~泣き虫番長の一年戦争~  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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20/21

決戦! 逆襲のシローラモ! (3)

 大門大介は、ゆっくりと階段を上がって行く。

 この先に、魔王アマクサ・シローラモが待っているはずだ。あの怪人は、怪しげな妖術を使い人類を粛正しようとしているらしい……。

 ふと、彼の言葉が蘇った。


(人類は自分たちのことばかり考え、自然を破壊し生き物たちを絶滅させている。今こそ、意識の変革が必要なのだと僕は思う)


 その言葉は、間違いとは言いきれないのが悲しいところだ。

 だからといって、奴の計画を見過ごすことも出来ない。番長として、何が何でも止めなくては……大介は神妙な面持ちで、階段を上がって行った。




「大介くん、よくぞここまで来たね。どうしても、僕の邪魔をするつもりかい?」


 アマクサ・シローラモは、先日会った時と変わらない格好だ。黄金の冠を被り紺色のマントを羽織り、その下は白ブリーフだけだ。いかにも楽しそうな表情で大介を見つめる。ゴミにまみれた廃墟の中にあって、天使のように美しいシローラモの顔……ここは他の階と違い、幻想的な雰囲気すら感じさせる。


「当たり前だ! 俺は、ひとりの人間も殺させない!」


「大介くん……今の人間は、自然を蝕む病原菌のごとき存在だ。君の友だちの妖怪とて、人間に見つかれば捕らえられ、実験動物と成り果てるのだよ」


「そんなことは、俺がさせない!」


 怒鳴る大介を、シローラモは憐れむような目で見つめて首を振る。


「無理だよ。人間は、妖怪を奇妙な動物としか見ないだろう。人間はしょせん、そんな生き物だ。だからこそ、罰を与えねばならないのさ」


「ふざけるな!」


 大介は、憤怒の形相でシローラモに迫っていく。


「あんたは世直しのつもりなんだろうがな、やっていることが無茶苦茶なんだよ! これじゃ世直しどころか、ただのテロじゃねえか!」


 言いながら、大介は彼を指差した。


「あんただって、世直しの顛末がどんなものか知ってるだろうが! インテリが夢みたいな目標をもってやるから、いつも過激なことしかやらない! しかも革命の後では、気高いはずの心だって官僚主義と大衆に飲み込まれていくんだ!」


「僕は人間ではない。魔王なのだよ。世直しなど、する気はない。その才能と力を、愚かな人間どもに利用されている者に言われたくないね」


 言い返すシローラモの声もまた、熱い感情を帯びてきた。


「そうかい、話し合いは平行線てわけか……ならば、力ずくで止めてやる!」


 叫ぶと同時に、大介は突進する──


 シローラモの動きは速く、かつ変則的だ。しかも、ひらりと動くマントが大介の視界を遮る。そのせいで、攻撃を当てることが出来ない。


「クソ、チョロチョロ動きやがって! 卑怯だぞシローラモ!」


 怒鳴り、渾身の右ストレートを放った。その瞬間、シローラモはすっと身を沈めてパンチを躱す。

 直後に、シローラモは大介の腕を掴んだ。綺麗な一本背負いを極める──


「うぐっ!」


 硬い床に背中を思い切り打ち付け、大介は思わず悲鳴にも似た声を洩らす。

 そんな彼を、シローラモは涼しい顔で見下ろした。


「どうしたんだい? この程度で、もう終わりか? 僕を止めるのではなかったのか?」


 からかうような口調のシローラモに、大介はギリリと奥歯を噛みしめる。


「あんたはそうやって、人間を上から見下していたんだろうが。あんたは永遠に、人間を見下すことしかしないんだ!」


 怒鳴りながら、大介は立ち上がった。だがシローラモは笑みを浮かべつつ、軽やかに舞う。


「そんなつもりは、ないのだがね。それより、君はここにいていいのかな?」


「な、なんだと?」


 困惑の表情を浮かべる大介に、シローラモは嘲笑うような表情を向ける。


「君は、本当に単細胞だな。おかしいとは思わなかったのかね? なぜ、僕がここにいるのかというと……君の目を、門のある場所から逸らすためだよ。本当の門は、地下にあるのさ。旅館の地下一階に、僕は門を出現させた。僕や下の階にいた三人は、ただの時間稼ぎだよ」


 その言葉に、大介の表情が歪む。確かに、異様な気を感じるのだ。気は膨れ上がり、今にもこの地を包み込もうとしている──

 大介の表情の変化を見て、シローラモはニヤリと笑った。


「今なら、君にもわかるだろう。冥界の亡者たちが今、地下より出現しているのさ。亡者たちは、人間を無差別に襲い殺していく。もう、誰にも止められないだろうね」


「ふざけるな! たかが亡者ごとき、俺が冥界へと押し戻してやる!」


 大介は吠え、階段へと向かう。すると、シローラモの声が聞こえてきた。


「バカなことはやめるんだ。奴らは、後から次々と現れる。いくら君でも、勝ち目はないよ。ここでおとなしくしているんだ。奴らも、ここには入って来られない。無駄死にする気かい」


「やってみなければ分からないだろ!」


 叫ぶ同時に、凄まじい勢いで階段を下りていく。その時、耳元に、シローラモの声が聞こえてきた。


「正気かい? それとも、君は死ぬ気なのかい。死に急いでどうする?」


 これはテレパシーなのだろうか? そんなことを思いつつ、大介は怒鳴り付ける。


「あんたみたいに生き急いでいるわけでも、人類に絶望してるわけでもない!」


「一階は既に、亡者たちが溢れているはずだよ」


 またしても、耳元にきこえる声。大介は、階段を下りつつ吠えた。


「大門の名は、伊達じゃない!」




 シローラモの言葉通りであった。一階にたどり着いた大介が見たものは、一階に溢れんばかりの亡者の群れだった。佑清や獅子虎らと違い、その目は虚ろで光が無い。まるでゾンビのようだ。

 大介は顔を歪めながら、亡者たちの前に立つ。まずは、群れを突破し門を閉ざさなくてはならない──


「てめえら、よく聞け! この拳は大門の……いや、俺の魂だあぁ! てめえらごときに、食い尽くせるかあぁぁ!」


 叫びながら、突進していった。

 すると、亡者たちは四方から襲いかかってくる。だが大介の突きと蹴りを食らい、あっという間に倒されていった。倒れると同時に、スッと消えていく──

 大介は襲い来る亡者たちを強引に薙ぎ倒していき、地下に向かおうとする。しかし、敵の数が多すぎた。圧倒的な数の差に押され、出口まで後退する。


「ちくしょう!」


 吠える大介だったが、亡者たちには止まる気配がない。逆に亡者たちの攻撃が、四方から襲う。さすがの大介も躱しきれず、何発もの重い打撃を受ける。知能は失われているが、その動きは生前のままだ……大介は後退し、思わず膝を着く。


「く、くそ……」


 これまでに大介は三人と闘い、どうにか討ち果たしてきている。が、その体は無傷ではない。さらに今、押し寄せて来る幾多の亡者たちと闘い……もはや、大介は満身創痍であった。

 だが、大介はなおも立ち上がる。


「負けられねえ……俺は負けられねえんだ!」


 言いながら、必死の形相で向かっていこうとする。その時、彼の肩を叩く者がいた。


「アンタは、しばらく休んでな」


 聞き覚えのある声だ。振り向くと、そこには白い巨獣が立っていた。イタチのような姿、赤い瞳、二メートルを超える巨体、そして透き通るような白い毛並み──


「ド、ドロイ! お前、何しに来た!?」


 そう、かつて戦った白イタチのドロイがいたのだ。

 ドロイは、からかうように巨体をくねらせる。


「あら、何しに来たって随分な言い方じゃないのよう。アタシは忘れてないわよ、アンタとの甘く激しい一夜を──」


「でたらめ言うんじゃないよドロイ!」


 叫びながら現れたのは口裂け女だ。今回は、最初からマスクを取っている。


「く、クチサケさんまで……」


「大介、この騒ぎが無事に終わったら……クリスマスイブをふたりで過ごす件、考えてあげてもいいよ」


 言うと同時に、口裂け女とドロイは亡者たちへと立ち向かっていく──


「やめてくれ! これは人間の問題だ! 妖怪には関係ない!」


 絶叫する大介だったが、無情にも闘いは始まってしまった。

 口裂け女の変幻自在の蹴り技が、亡者を次々とKOしていく。さらに、ドロイが群がる敵を薙ぎ倒していった。その様は、荒れ狂う怪獣のようである。亡者たちも、次々と蹴散らされていった。

 人間の集団が相手なら、ドロイの巨体と勢いに怯えて逃げ去っていっただろう。だが、相手は意思も知能もない亡者である。彼らに感情はなく、ただただ前進し生あるものを攻撃する本能のみで動いているのだ。

 しかも、亡者たちは新手が次々と出現して来るのた。さすがに、多勢に無勢の状況は圧倒的に不利だ。強者妖怪であるふたりも、数の力の前には徐々に押されていった。


「もう……もうやめてくれえぇぇ!」


 天を仰ぎ、大介は叫ぶ。すると、またしても声が聞こえてきた。


「結局……遅かれ早かれ、こんな悲しみだけが広がって地球を押し潰すのさ。ならば人類は、自分の手で自分を裁いて……自然に対し、地球に対して贖罪しなければならない。大介くん、君はそれがわからないのかい」


 嘲るかのようなシローラモの声が聞こえる。しかし、大介はそれを無視し立ち上がった。目の前で口裂け女が倒され、ドロイがその巨体を用いて必死で庇っているのだ。

 すると、亡者たちがドロイに一斉に襲いかかっていく──


「くそう! 動け! 動いてくれえ! ドロイ、今助けるぞ!」


 大介は、必死の形相でドロイに近づく。だが、既にドロイは亡者たちに囲まれてしまった。

 肉を打つような音が響き、白い毛が舞い散る──


「やめろ! やめてくれえぇぇ! そいつらは妖怪だ! やるなら、俺をやれえぇぇ!」


 叫ぶ大介。その時、彼の耳に奇妙な音が聞こえてきた。周囲に轟く恐ろしい爆音だ──


 あれは、バイクのエンジン音か!?


 振り返ると、爆発音のごときエンジン音とともにこちらに近づく者がいる。一台の大型バイクと、それに跨がった革のツナギ姿の男だ。顔には、フルフェイスのヘルメットで覆われている……妖怪・首なしライダーだ。


「おい大介、情けねえなあ。こんな奴らにやられてんじゃねえよ」


 そんなセリフを吐いた直後、首なしライダーは亡者の群れにバイクごと突っ込んでいく──


「オラオラ! 首なしライダーさまのお通りだ! 邪魔する奴らは跳ね飛ばすぞ!」


 喚きながら、バイクは暴走していく。亡者たちは、次々と跳ね飛ばされていった。その間に、大介はどうにか立ち上がる。ドロイと口裂け女を助けるべく、必死の形相で近づいていった。


「クチサケさん! ドロイ! 今助けるぞ!」


 叫びながら、両者をまとめて連れ出そうとする。しかし、さすがの大介でも口裂け女とドロイを運ぶのは至難の業だ。特にドロイは、二百キロを超える巨体である。手こずっている間にも、亡者たちが三人に迫っていく。

 その時だった。ひとりの亡者が、空中高く飛んでいく。

 続いて聞こえてきた、奇妙な声──


「だ、大介を……いじめるなあぁ!」


 かけ声と共に、またひとり亡者が吹っ飛んでいく。大介は、思わずそちらを向いた。

 そこには、バンダナを巻いた濃い顔の大男がいる。筋肉に覆われた体に、革のベストを直接着たとんでもないスタイルである。恐ろしい勢いで、群がる亡者たちを片っ端からブン投げている。

 こんなことが出来るのは、ひとりしかいない。


「お、お前は……投げ捨て魔人!」


 そう、かつて大介と激闘を繰り広げた妖怪・投げ捨て魔人である。その投げ捨て魔人が、大介に近寄ろうとする亡者たちを蹴散らしているのだ。

 大介は、胸に熱いものがこみあげてくるのを感じていた。だが、すぐに気持ちを切り替える。今はまず、口裂け女とドロイを助けなくてはならない。


「投げ捨て魔人! すまないが、ドロイを運んでくれ! 俺は、クチサケさんを運ぶから!」


 その言葉に、投げ捨て魔人は無言で頷く。直後、ドロイの巨体を軽々と担ぎ上げた。そのまま、一気に走っていく。


「大介! 早く口裂け女を連れ出せ! こいつらは、俺が引き付ける!」


 怒鳴ったのは首なしライダーだ。バイクで、亡者の群れの中を突っ切っていく。


「感謝するぞ! 首なしライダー!」


 叫ぶと同時に、大介は口裂け女を抱き抱える。そのまま、投げ捨て魔人の後を追い走って行った。

 森の中に、ふたりの体を横たえる。気を失ってはいるが、命に別状はなさそうだ。


「投げ捨て魔人! あの亡者どもを止めるぞ! 手伝ってくれるか!?」


 その言葉に、投げ捨て魔人は力強く頷いた。


「もちろんだ。人間も、動物の仲間。動物をいじめる奴は許さん」


「ありがとう! では、行くぞ!」


 ふたりは、亡者の群れの中に飛び込んでいった──




 投げ捨て魔人や首なしライダーと共に、亡者たちを倒していく大介。だが、亡者たちの勢いは止まらない。次々と出現してきて、大介たちに襲いかかる。さすがの強者たちも、多勢に無勢で徐々に押されていく。

 その時、どこからともなく声が聞こえてきた。


「大介! 助けに来たワン!」


 聞き慣れた声に、大介はぱっと振り向く。

 そこには、彼の心の友である送り犬がいた。牙を剥きだし、亡者たちに飛びかかる。

 さらに、もうひとり現れた。これまた、かつて激闘を繰り広げた自爆霊・ハイロウだ。ハイロウは俊敏な動きで、亡者たちを次々と倒していく。


「ハイロウ! お前も、俺を助けてくれるのか!」


 ここが戦いの場であることも忘れ、大介は叫んでいた。すると、ハイロウは彼を睨む。


「勘違いするな。お前を助けに来たわけではない。お前を倒すのは俺、それだけだ」


 言った直後、素早い動きで亡者に襲いかかっていく──

 大介は、感激のあまり天を仰いだ。かつて拳を交えた妖怪たちが、自分を助けるために体を張って戦ってくれているのだ。


「シローラモ! 見ているか!」


 天に向かい、大介は吠えた。天を睨み、さらに言葉を続ける。


「拳での語り合いで紡がれた、俺たちの絆を見ろ! 人間と妖怪はな、わかりあえるんだ! この絆をも否定するのなら、貴様こそがこの地球にとっての害悪だ!」









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