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妖怪ウォーズ~泣き虫番長の一年戦争~  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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15/21

強襲!  白イタチ! (1)

 大門大介は、その日もママチャリを漕いでいた。今や親友となった妖怪の猫耳小僧や送り犬たちに会うためである。

 緑に囲まれた田舎の道路に、ママチャリの音が響き渡る。自転車のカゴには、唐揚げ弁当とハンバーグ弁当が入っていた。もちろん、妖怪たちへのお土産である。


「あいつら、喜んでくれるかな」


 ニコニコしながら、大介はママチャリを漕ぐ。その時、森の中から悲鳴が聞こえてきた。


「きゃあああ!」


「うわあああ! 化け物だあ!」


 左手の方向から聞こえてきたのは、男女の悲鳴である。これは、見て見ぬ振り……というより、聞いているのに聞かぬ振りは出来ない。自転車を止め、すぐさま森の中へと入って行った。

 そこには、戦慄の光景が待っていたのだ──


 地面に倒れ気絶している若い男女。それを見下ろしているのは、真っ白い毛に覆われた巨大なイタチであった。大きさは、二メートルを遥かに超えているだろう。辺りは闇に包まれているはずなのに、イタチの周りだけは白く輝いている。

 ただし、その瞳は紅く光っていた──

 やがて白イタチは、真紅の瞳をこちらに向ける。大介の背筋に、冷たいものが走った……目の前にいるのは、とてつもなく恐ろしい奴だ。


「お前は何者だ!? このふたりに何をした!?」


 強い口調で問う大介に、白イタチはカラカラと笑った。


「人に名前を聞く時は、まず自分が名乗るのが礼儀じゃないかえ、坊や?」


「お、俺の名は大門大介! 番長だ!」


「番長? オホホホホ、ずいぶん古くさいものが出てきたねえ」


 言いながら、白イタチは体をくねらせる。その仕草は妙に女っぽく、大介は思わず後ずさりする。


「アタシの名は、オオカマイタチのドロイよ。それで、番長の坊や、アタシに何の用かしら?」


「なぜだ! なぜ、こんなことをした!」


 言いながら、大介は倒れているふたりを指差す。だが、ドロイは怯まない。


「ああ、そこのバカップルね。イチャイチャしながら森を汚してたから、ちょいと脅かしてやっただけよ。後は裸にひんむいて、道路に放り出してやるわ。明日には、晒しものになるでしょうね」


「何だと! そんなことはさせんぞ!」


 大介は両拳を上げ、構える。すると、ドロイはおかしそうに笑った。


「ホーッホッホッホッホ、お前ごとき人間の坊やが、アタシに勝てるとでも思ってるのかい。まあ、いいわ。さあ坊や、好きなようにかかってらっしゃい」


「くっ……ふざけるな! 行くぞ!」


 吠えると同時に、大介は突進した。と同時に、鋭い正拳を放つ──

 だが、ドロイは長い体をくねらせて避けた。人間には真似の出来ない動きだ。


「な、何だと!」


 大介は、さらなる攻撃を仕掛ける。右の正拳を打ち、続いて右の上段回し蹴りを叩き込んだ。

 しかし、ドロイには当たらない。まるで柳のように体をしならせ、大介の攻撃をことごとく躱す。こんなディフェンスの仕方は、そもそも人間には不可能だろうが。


「クソ! なぜ当たらないんだ!」


 大介は荒い息を吐きながら毒づいた。こんな敵と闘ったのは、生まれて初めてだ。

 一方、ドロイは平然としている。


「おやおや、もうへたばったのかい。若いのに早いねえ。いや、若いから早いのかしら」


 言うと同時に、ドロイの目が紅く光る。直後、前足の一撃が大介を襲う──


「ぐわあぁぁ!」


 両前足での続けざまの強烈な連撃を浴び、大介は吹っ飛ばされた。

 しかし、すぐに起き上がる。


「ふーん、若いだけあって立ちがいいねえ。坊や、素敵よ」


 からかうような口調のドロイに、大介はギリリと奥歯を噛みしめた。


「くっ、ざけんなあ! お前には、死んでも負けんぞ!」


 気合いと共に、大介は横蹴りを放つ。だが、ドロイはまたしても体をくねらせた。細長い胴体は、まるで柳の枝のようにしなり、大介の蹴りを逸らす。

 直後、ドロイのバックハンドブロー(回転しての裏拳)がカウンターで炸裂した──

 大介の意識は吹き飛び、仰向けに倒れた。

 その時、乱入してきた者がいる。


「フシャー! そこまでだニャ!」


 叫びながら、身構えた者は……なんと猫耳小僧である。猫耳小僧は小さな体で、大介を守るように立っていた。

 しかし、ドロイは平然としている。


「おや、誰かと思えば猫耳小僧じゃないか。お前、人間の味方をする気かい?」


 鼻で笑うドロイに、猫耳小僧は怒りを露にした。


「大介は、俺の友だちだニャ! これ以上、傷つけるのは許さないニャ!」


「許さないだって? お前みたいな落ちこぼれ妖怪が、アタシと闘おうっていうのかい?」


 言いながら、ドロイはギロリと睨みつける。その迫力に気圧され、猫耳小僧はたじろいだ。


「ニャ……」


 目を逸らし、悔しそうに唇を噛みしめる。実力差は、闘うまでもなくはっきりしているのだ。

 その姿を見て、ドロイは鼻で笑った。


「妖怪の中では、落ちこぼれで誰からも相手にされない……そんな甘ったれのくせに、アタシと闘おうだなんて百年早いんだよ。お前は、本当にどうしようもないねえ」


「黙れ!」


 叫んだのは、猫耳小僧ではなく大介である。さっきまで意識を失っていたはずなのに、凄まじい形相で立ち上がったのだ。

 すると、ドロイは感心したように口笛を吹く。


「おやおや、まだ立ち上がってくるのかい。若いだけあって立派ねえ」


 からかうような口調のドロイに、大介はよろよろしながら近づいていく。


「取り消せ……猫耳小僧は落ちこぼれじゃねえ! 取り消せ!」


 喚きながら、ドロイに迫っていく大介。しかし、ドロイは意に介さず前足を振るった。

 その一撃で大介はぶっ飛び、仰向けに倒れる。

 だが、それでも立ち上がった。


「ふざけるな……猫耳小僧は、落ちこぼれなんかじゃねえ!」


 叫び、なおも迫っていく。その時、ドロイは不気味な笑みを浮かべた。真紅の瞳を大介に向け、恐れる様子もなく立っている。


「ほう、そんなに大事なのかい。ならば……」


 言うと同時に、ドロイの尻尾が伸びた。猫耳小僧の体に巻きつき、自由を奪う──


「ニャニャ! 何するニャ!」


 猫耳小僧は必死でもがくが、ドロイの尻尾は外れない。それを見た大介は、渾身の力を振り絞り向かって行く。


「貴様あぁ! 猫耳小僧を離せえ!」


 叫ぶと同時に、大介は正拳を放つ。しかしドロイは、いとも簡単に彼の正拳を弾き飛ばした。

 直後、ドロイ式ボディーアッパーが打ち込まれる──

 そのボディーアッパーは、ヘビー級のプロボクサーのパンチを遥かに凌駕する威力があった。抵抗しようのない苦痛を前に、大介は腹を押さえ崩れ落ちる。

 もがき苦しむ大介の耳に、ドロイの嘲るような声が聞こえてきた。


「いいかい、この猫耳小僧はしばらく預かるよ。助けたかったら、アタシに勝つんだね。ただし、今度はアタシも容赦しない。お前を殺すつもりで行くから」


 そこで言葉を止め、ドロイはくすりと笑う。


「そうだねえ、怪我を治すのに一週間の猶予をやるよ。一週間後の晩、この先にある松の木の下に来な。そこで、もう一度アタシと勝負するんだ。勝ったら、猫耳小僧を返してやろう。ただし、次に負けたらアンタは死ぬよ。それと、もし来なかったら、猫耳小僧の貞操は保証しないからね」


「クソ、待ちやがれ……猫耳小僧を離せ……」


 呻きながら、大介は起き上がろうとする。だが、体が動かない。視界も徐々に霞んでいく。

 そんな大介の耳に、猫耳小僧の声が聞こえてきた。


「大介、俺なら大丈夫だニャ! だから、来たらいけないニャ! こいつに殺されるニャ!」


 その声に、大介は必死で起き上がろうとする。だが、体は言うことを聞いてくれない。

 やがて、意識が遠のいていった──




 どのくらいの時間が経過しただろう。

 大介が目を開けると、口元をマスクで覆った女がいる。長い黒髪、宝石のように輝く瞳、そしてボンキュッボンのセクシーボディを包む可愛らしいウサギちゃんのパジャマ姿……大介は顔を赤らめ、慌てて下を向いた。


「あ、あんたは……」


「あたしは口裂け女だよ。まさか、殴られすぎてあたしの顔を忘れたなんて言わないだろうね」


 そう言うと、口裂け女はじろりと睨みつける。大介は、慌てて首を横に振った。


「何を言ってるんですか! 忘れるはずがないですよ!」


「そうかい。で、体はどうなの?」


「大丈夫です。ほら、もうこんなに……」


 言いながらポーズを決めようとした途端、痛みが走った。思わず顔をしかめる。

 すると、口裂け女も一緒に顔をしかめた。


「すまなかったねえ、助けてやれなくて。あたしが通りかかった時には、あんたは既にぶっ倒れてたんだよ。クソ、ドロイの奴め……なめたことしやがって」


 悔しそうに毒づく口裂け女を見て、大介はまたしても首を振る。


「ち、違いますよクチサケさん! 俺が弱かったのがいけないんです!」


 言った時だった。奥の部屋から、送り犬と真太郎も飛んで来る。


「大介さん! 気がついたんだね!」


「心配したワン!」


 ふたり、いやひとりと一匹は、大介のそばにしゃがみ込んだ。

 大介はというと、状況がまだよく呑み込めないまま、半ば本能的に周囲を見回す。どこかの一軒家だろうか。木の床の上に布団が敷かれていた。丸い木のちゃぶ台が置かれており、壁には棚が設置してある。

 ここは、口裂け女の家なのだろうか……大介が思った時、送り犬が彼の顔を覗きこんできた。


「心配したんだワン。僕たちは神社で待ってたんだけど……ところで、猫耳小僧は見なかったワン? 大介が遅いから、探しに行くと言ってたワン」


 その問いに、大介は顔を歪めた。


「猫耳小僧は、ドロイにさらわれた……」


「さらわれた? どうして、そんなことに?」


 唖然となる真太郎に、大介は悔しそうな表情で語り出す。


「奴は、俺を助けようとしてドロイに向かって行ったんだ。挙げ句に、捕われてしまった……ちくしょう! 俺が、もっと強ければ!」


 吠える大介。その途端、全身に痛みが走った。思わず呻き声をあげる。

 その様を見た口裂け女は、しゃがみ込んでかたに触れる。


「何やってんだい。今、あんたの親父さんが来るからさ。親父さんに送ってもらうんだね」


「えっ、親父が来るんですか?」


 その時だった。タイミングを計ったかのように、凄まじい闘気が流れ込んで来る。

 さらに、獣の咆哮のごとき雄叫びも──


(われ)が特命捜査官・大門勇太郎である!」


「うわっ! 何だい、今の声は!」

 すっとんきょうな声を上げる口裂け女。送り犬と真太郎は、怯えた表情で抱き合っている。だが、大介は忌々しそうな顔で舌打ちした。


「親父が来たんですよ」


 その言葉の直後、扉が開く。

 直後、大柄な男が入って来た。肩まで伸びた黒髪は、野獣のごとき面構えに似合っている。筋肉隆々とした体格と、昔の武術家のような鋭い眼光は人間離れした迫力だ。黒いTシャツとズボンというラフな服装のまま、悠然と入って来た。

 この男こそ、大介の父・大門勇太郎(ダイモン ユウタロウ)である。かつては特命捜査官として、アクノミヤ博士率いる犯罪組織チクマ団を、たった一人で叩き潰したのだ。

 以来、大門勇太郎は静弦一郎(シズカ ゲンイチロウ)早川健人(ハヤカワ ケント)と並び、「特命三大チート捜査官」と呼ばれている。この三人が揃えば、小さな国をも潰せると言われていたのだ。

 そんな勇太郎は、じろりと大介を睨む。次いで口裂け女を一瞥した後、再び大介を睨む。

 ややあって、口を開く。


「大介……お前も、色を知る歳か」


「は、はあ!?」


 すっとんきょうな声を出したのは、口裂け女だ。だが、勇太郎は彼女を無視し大介に近づく。


「よくやったぞ大介! さすが、我が息子だ! 伝説の妖怪・口裂け女を口説き落とすとは──」


「ちいがあぁぁう!」


 勇太郎の言葉を遮り、大声で否定したのは口裂け女である。さらに彼女は、きっと勇太郎を睨み付けた。


「ちょっと、勘違いするんじゃないよ! あたしは、大介の彼女でも何でもないんだからね!」


 すると大介は、その一言にガックリうなだれる。だが彼は、すぐさま顔を上げた。


「じゃあクチサケさん、俺のことどう思ってるんですか!?」


「ど、どうって言われても……」


 頬を赤らめ、うつむく口裂け女。すると大介は、そのプエルトリカンのごとき濃い顔を近づけていく。


「クチサケさん! 俺はあなたが好きです! 次のクリスマスイブは、あなたと二人きりで過ごしたい──」


「バ、バカ言うんじゃないよ! 段階ってものがあるだろうが!」


 口裂け女の平手打ちが炸裂し、大介はぶっ飛んだ……その一撃で、彼は我に返る。


「ハッ! こんなことをしてる場合じゃねえ!」


 そう言うと、大介は立ち上がる。全身に痛みが走ったが、そんなことに構ってはいられない。


「親父、すまないが送ってくれ……一週間後に備え、怪我を治さなくては!」


 大介の言葉に、口裂け女は慌てて止めに入る。


「ちょっと待ちなよ! あんた、あのドロイと闘う気かい?」


「ああ。奴に勝ち、猫耳小僧を解放してやる」


 そう言う大介の目は、決意の光に満ちていた。






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― 新着の感想 ―
[一言] 判ります、ガンバに出てくるアレですね。
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