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37 ヴォジャノーイのつみれ汁、唐揚げ、煮こごり 前編


 買い物を終えて宿に戻ってきたディナードたちは、早速メシを作ることにした。


「それじゃあ、出汁を取るとするか。時間がかかるから、遊んでいてもいいぞ?」


 ディナードが告げるのだが、ティルシアとゴブシはうずうずしている。この二人にとっては、料理がなによりの楽しみなのかもしれない。


 厨房を借りたディナードは、昆布と鰹で出汁を取るのとは別に、湯を沸かしておく。


「ディナードさん、こっちは任せてください!」

「今回は量が多いからな。頼めるか?」

「はい!」


 レスティナが出汁を取ってくれるということなので、その間に、すでに解凍しているヴォジャノーイの肉を持ってきて、部位ごとに使い分けることに。


 普通のカエルではしなくていい処理として、髭の処理がある。

 ヴォジャノーイはそこに魔力を蓄えているため、食べるわけにはいかない。ディナードは包丁ですっぱりと切り落としておく。


 そうしているうちに、湯が沸騰してきた。


「さて、まずは湯通しだ。表面がぬるぬるしているから、それを綺麗にしてやらないと臭くてな」


 ヴォジャノーイのカエル部分――頭部全体および脚部の皮をお湯に数回くぐらせると、表面をこするだけでぬめりと皮膜がめくれるようになる。この作業を丁寧に行うことで、泥臭さは除去できるようだ。


 ディナードがやっていると、ティルシアとゴブシも一緒に手伝ってくれる。


「それにしても……図体がでかいから、この作業も手間だな」


 そこらのカエルなら、簡単に終わるのだろうが、大きいために作業がはかどらない。

 けれど、ティルシアもゴブシも楽しげだから、時間が惜しいこともなかった。四人で力を合わせれば、できないことなんてないのである。


 そうしてぬめりを取り終えると、早速、レスティナのところに赴く。


「お、上手に取れたな。偉い偉い」

「もう、ティルシアじゃないんですからね?」


 言いつつも、レスティナも悪い気分ではないようだ。


「どうするの?」


 ティルシアが小首を傾げてきたので、ディナードは大げさにヴォジャノーイの頭を担いでみせた。


「こいつを入れるんだ。ぐつぐつと煮込むと、いい出汁が出る。透明で綺麗だから、案外高級感もあるぞ?」

「すごい!」


 ティルシアはわくわくしている。


 その期待に応えられるように、ディナードはヴォジャノーイの頭を煮始めた。

 それからしばらくはあくを取りながら、カエル頭を眺めることになる。そうなると、特にやることもなくなるので、ティルシアとゴブシはじゃれ始めた。


 しばらくはそんな状況が続いていたが、


「もうそろそろいいか」


 と、ディナードが口にすると、二人揃ってパタパタと駆けてきた。仲がいいことである。


 ディナードはヴォジャノーイの足の皮を細かく切っていく。すると、ゴブシが酒、みりん、醤油を準備して待っていた。


「気が利くじゃないか」

「ゴブッ!」


 普段は情けないゴブリンであるが、レシピについては詳しいのである。


 出汁を少量すくって別の鍋に入れて、それらの調味料で味を調えて、皮を入れて火にかける。あまり出汁の量を多くすると固まらなくなってしまうのだが、ヴォジャノーイの皮はよくゼラチンがあるらしく、わざわざ加えなくても固まってくれそうだ。


 沸騰したらバットに入れて冷ましておき、冷却の魔法を用いて固まるまで温度を下げていく。


「よし、これであとは待つだけだな」

「やった! できた!」


 ティルシアは嬉しそうにバンザイする。


 この作業に時間がかかるため、少し早めに作り始めたのだが、ティルシアとゴブシはもうお腹をすかせてしまったようだ。食いしん坊である。


 もう少しあとでもいいかと思っていたが、さっさと料理を作ってしまうことにした。


「唐揚げに下味をつけておこう」


 ディナードがヴォジャノーイのモモ肉を骨から外し、切っていく。サイズが大きいため、そのまま揚げると、中が生になってしまうのだ。


 そしてレスティナがゴブシ、ティルシアと一緒に味付けを担当する。


「ゴブシ、ショウガを擦ってくださいね?」


 レスティナが任せると、ゴブシは張り切ってゴシゴシとショウガを擦っていく。が、その途中で「ゴブッ!」と悲鳴が聞こえてきた。自分の指まで擦ってしまったのだろう。


「なにやってるんだ……」


 ディナードはそちらに視線を向けて苦笑い。

 一方でティルシアは醤油、塩、酒を量って準備し終えていた。


 ディナードが持ってくると、肉をティルシアとゴブシが用意したもので下味をつけておく。それから、ショウガを搾ってショウガ汁を取っておいた。


「染み込むまでに、つみれを作っちまうか」


 ヴォジャノーイのメインである魚の部分を洗って水気を拭き取り、骨を取ってから包丁で細かく叩き切る。それをすり鉢に入れてすりこぎ棒でゴリゴリとすり潰していく。


 ゴブシは名誉挽回とばかりに手伝ってくれるので、


「それじゃ任せたぞ」


 とディナードは丸投げする。

 ゴブシは一人だと不安なのか、おろおろしていたが、ティルシアがやってきて声をかける。


「ごぶし、がんばれ!」


 ティルシアが両手をグッと握って応援すると、ゴブシはいいところを見せようと奮起し始めた。


 一方でディナードはレスティナと一緒に、食材を切っていく。

 大根、人参を短冊切りにして、かいわれ大根を食べやすい大きさに。


 あとは出汁につみれをすくい入れて、それらの食材を入れ、味噌を入れて最後にかいわれ大根をいれて完成だ。


 ちょうどゴブシが「ゴブッフー……」とやり遂げた顔になっていたので、そちらの作業をレスティナたちに任せ、ディナードは先のモモ肉で唐揚げを作ることにした。


 油は跳ねるので、ティルシアに手伝わせるわけにもいかないのだ。


 衣を着けてから油に入れると、ジュウジュウといい音がしてくる。とてもおいしそうな匂いも漂ってきた。


 ティルシアはつみれ汁も唐揚げも気になるのか、間を行ったり来たりしている。

 レスティナはそんな彼女を見てくすくすと笑った。


「ご飯は逃げませんよ?」

「でも、ごぶしがたべたら、なくなっちゃう」


 食いしん坊子狐に言われるほど、ゴブシは食いしん坊なようだ。


(いかにゴブシといえども、この量を食うはずが……いや、こいつならやりかねないな)


 ディナードは、嬉しげにつみれ汁を眺めているゴブシを見て、そんなことを思うのだった。


 やがて、唐揚げとつみれ汁ができあがる。そしてバットを取り出してみると、しっかり固まった煮こごりがあった。


「よし、これで揃ったな。メシにするか」

「やった! たべる!」


 食卓に料理が並び始める。そして、皆でいただきますと声を揃えた。


いつもお読みいただきありがとうございます。

カエルを買えるのは、だいたい輸入で足ばかりですが、ゼラチン質が豊富なカエル頭で作るスープも地域によってはよく食べられているそうです。日本ですと、多くは居酒屋でぽんと出される唐揚げがほとんどでしょうか。

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