再び大森林へ
本日より、0時と12時の1日2回更新になります。
貴族様御用達の道具屋には、行動食の他に携帯食も販売されていた。
「こちらは水に浸すだけで肉厚な生肉になる干し肉、こちらは湯を溶いて飲むスープ、圧縮パンは封を開いただけで、ふかふかのパンに早変わり。即席麺はお湯を注いだだけで、おいしいスープ麺になりますよ」
まるで勇者様のためにある携帯食の数々である。どれも持ち歩きやすいように圧縮されていた。
これらの携帯食も購入した。
すべて鞄に詰めたものの、そこまで重量感はない。これで、大森林の中でもおいしい食事がありつけるだろう。
「お客様は大森林を目的にいらっしゃったのですね。それならば、こちらはいかがでしょうか?」
店主が見せてくれたのは、大森林内の地図だった。
「こ、これは――!」
「入荷したばかりでして、店頭に並べるたびに即完売している人気商品なんですよ」
なんでも冒険者の中には、ダンジョンや複雑な地形を持つ場所の地図を作成する、マッピングと呼ばれる才能を持つ者がいるらしい。
マッピングの才能を持つ者が地図を作成し、納品するようだ。
「大森林内はちょこちょこ地形が変わるようで、こちらは最新版になっております」
地図には教会や道具屋、宿、転移ポイントなどが書き込まれていた。
これがあれば、大森林内の散策もしやすくなるだろう。
「お値段を聞いてもいいですか?」
「金貨十枚ほどになります」
かなり高額だが、支払うのは勇者様である。手持ちだけでは足りなかったので、ご実家に請求するよう頼んでおいた。
「かしこまりました。それでは勇者様のご実家に請求書を送らせていただきます」
行動食と携帯食、大森林の地図を購入し、道具屋をあとにした。
外に出た途端、白い鳩が飛んでくる。
どうやら勇者様が蘇生したらしい。思いのほか、早い復活だった。
教会へ戻ると、勇者様は腕組みし、堂々と佇んだ姿で私達を迎えた。
「待たせたな!」
「いや、待っていなかったと言いますか、思いのほか早かったと言いますか」
それよりもなぜ、火の番を私に任せなかったのか問い詰める。
「お前が心地よさそうに眠っていたものだから、私が朝まで火の番をしてやろうと思ったのだ」
「そういう優しさなんていりませんので」
勇者様の気遣いが、私に迷惑をかける結果となったのだ。
本当に反省してほしいと思う。
「それよりも、大森林は思っていた以上に寒かったな。冬の装備を着込んで行きたいのだが」
「大森林の中はさまざまな季節が同時に存在しているそうですよ。次、転移した先が、雪降る場所だと決まっているわけではありませんので」
それでも、毛皮の外套が欲しい。そう望んだので、勇者様と共に先ほどの道具屋に戻り、毛皮の装備を揃えてもらう。
私もどうかと聞かれたものの、丁重にお断りした。
こうして雪に備えた状態で、再度大森林に挑む。
転移陣の行列に並び、今回も転移の魔法巻物を購入したあと、入場料を払う。
「よし、ゆくぞ!!」
勇者様の気合いの声と共に下り立ったのは、ジメジメとした熱帯雨林だった。
「暑い!!!!」
勇者様は毛皮の外套を脱ぎ捨てながら、この世の深淵に届くのではないか、と思うくらいの叫びをあげた。
その声はモンスターを引き寄せてしまったようだ。
『シャー!!』
最悪なことに、頭上から襲われる。
「勇者様、頭上から敵一体!!」
「なんだと!?」
木の幹よりも太い体を持つ巨大ヘビ、ポイズン・サーペントである。
「勇者様、毒ヘビです! 毒の牙に気をつけてください!」
「わかった!」
ポイズン・サーペントはまっさきに勇者様へ襲いかかる。
長い尾を鞭のようにうねらせ、打撃を与えようとした。
勇者様は攻撃をひらりと回避させ、金ぴかの剣を引き抜き、ポイズン・サーペントの胴へ斬りかかる。
ガキン! と金属を叩くような音が聞こえた。
「なんだ、こいつは!」
どうやら鱗は、鎧のように硬いらしい。
ポイズン・サーペントは毒を持つだけで、鱗にはそこまで強度はなかったはずなのだが……。
さらに、ポイズン・サーペントは巨体を持っているのに、素早く動く。
危うく、勇者様の体に絡みつき、締められそうになっていた。
剣による物理攻撃は効果がなく素早い。明らかに、知っているポイズン・サーペントの特徴とは異なる。
「これが凶暴化したモンスター、というわけなのですか?」
「かもしれないな」
凶暴化というより、強化された状態である。
なぜ、このようになってしまったのか。
誰かに操られている様子は見られないし、魔法にかかっている様子でもない。
千里眼で調べてみる。瞳に魔力を集中させ、目を眇めた。
名前:フルポイズン・サーペント
才能:〝猛毒の牙〟
「なっ!?」
「魔法使い、どうした?」
「このポイズン・サーペントは、通常の個体よりも強い毒を持っているようです」
「なんだと!?」
お喋りしながらも、勇者様は攻撃を繰りだし続ける。
しかしながら、効果はないように見えた。
「この変化はやはり、枯れかけている世界樹と何か関係があるのでしょうか?」
「その可能性も――うわ!!」
勇者様の眼前に、猛毒をまき散らすフルポイズン・サーペントの牙が迫る。
すぐに回避したようだが、ひと息遅い。
「勇者様!!」
もうダメだ。また、勇者様が死んでしまう。
そう覚悟した瞬間、勇者様の前にぶーちゃんが飛び出してきた。
『ぴい!』
勇ましい鳴き声をあげると、蹄でフルポイズン・サーペントの鼻先を叩く。
『シャア!』
フルポイズン・サーペントは怯み、回れ右をすると逃げて行った。
これが、聖猪グリンブルスティの実力なのか。思わず舌を巻いてしまった。




