食事の時間にしよう!
この世界はマナの塊である月から降り注ぐ月光を世界樹が浴び、魔力へ変換させて各地へ供給して成り立つ。
人の命の源も魔力と言われており、月と世界樹と人は切っても切れない関係にあった。
そんな中で、マナを悪用する魔王が現れた。
マナが枯渇すると世界樹は枯れてしまうという。
いにしえの時代から魔王はたびたび表舞台に現れ、勇者に討伐されてきた。
時は流れ、二百年ぶりに魔王がこの世界に下り立ったのである。
神は世界を守るため勇者となる資格を持つ者、勇敢なる者の唯一の才能を人間の子どもに与えた。
ただ、勇者は万能ではなく、魔王を討伐する前に倒れる者もいたのだ。
世界は滅びかけたものの、新たに立てた勇者が倒してくれた。
このような事態を受けた神は、先手を打っておく。
ふたりの子どもに、勇敢なる者の唯一の才能を与えたのだ。
より適性があるほうが、真なる勇者。
真なる勇者が死んだときに代わる予備が、補欠勇者なのだ。
私と旅する勇者様は誰がどう見ても、完全無欠の補欠勇者である。
彼は生まれたときに、聖司祭から才能の託宣を受けたさい、勇者の適性を示す勇敢なる者の唯一の才能があると教えられたのだ。
親族の誰もが、彼が真なる勇者だと信じて疑わなかった。
さすがの神官も、補欠の文字までは見えなかったのだろう。
補欠勇者について知っているのは、神話時代について研究をした学者のみだろう。
私は偶然、その情報を知っていたに過ぎない。
勇者様の自尊心を折ってはいけないので、今後も勇者様が補欠だと言うつもりはない。
もしかしたら勇者様(本物)が志半ばで倒れた場合は、勇者様が本物になる可能性だってある。
まあ、勇者様(本物)のパーティーには優秀な回復師がいるし、ハイエルフの賢者だっている。勇者様(本物)本人も、不死者に勝てるほどの実力者なのだ。
彼女らのパーティーならば、魔王を討伐できるだろう。
しかしながら万が一のこともあるので、世界を救うために、私達は旅を続けなければならないのだ。
◇◇◇
今日も今日とて、モンスターに急襲される。
現れたのは鋭い牙を生やした猪系モンスター、フォレスト・ボアだった。
かなり巨大な個体で馬より一回りほど大きい。
フォレスト・ボアは牙を槍のように突き出し、私達に襲いかかってくる。
勇者様が金ぴか剣を引き抜くよりも先に、私は魔法を発動させる。
「――噴きでよ、大噴火!」
大地が裂け、そこから高温の岩漿が噴射される。
巨大なフォレスト・ボアの毛皮は燃え上がった。
『グルルルルル!!』
全身に火を纏ったまま突進してきたものの、勇者様の金ぴか剣による一撃を食らって倒れた。
無事倒せたので、ホッと胸をなで下ろす。
イッヌも勝利を跳び上がって喜んでくれた。
勇者様はすぐに回れ右をし、ツカツカ歩いて接近してくる。
干したエイのような表情を浮かべているので、勝利の喜びを分かち合いに来ているわけではないのだろう。
「おい、魔法使い! お前はバカのひとつ覚えみたいに、大噴火しか使わないな! さっきも魔法に巻き込まれそうになって、岩漿を全身に浴びるところだったぞ!!」
「それはそれは、申し訳ありません。一応、気をつけていたのですが。ちなみに私、大噴火以外の魔法は使えません」
「なんだと!?」
勇者様の額に浮かんだ血管が切れそうなくらいの叫びだった。
「勇者様、私もパーティーから追放しますか?」
「それくらいでするか!」
私よりも確実に優秀な回復師はすぐに追い出したのに、私に関しては妙に寛大なところがある。
おそらく私は彼にとって、〝気の毒な存在〟なのだろう。
なんせ、もともとは道ばたに捨てられた死体で、自分の名前どころか親の顔も覚えていない。
大した知能もなく、ある意味では世間知らずだった。
勇者様に捨てられてしまったら、あっという間に道ばたに転がる死体に戻ってしまうだろう。
「それよりも空腹だ! 食事にするぞ!」
「はいはい」
今日は酷く冷える気候だったが、全身が火まみれだったフォレスト・ボアの近くは暖かかった。
フォレスト・ボアの亡骸で暖を取りつつ、食事の時間にしよう。
まずは敷物を広げ、腰を下ろす。
その辺で摘んだ薬草をお皿代わりにして、メインとなる干し肉を置いた。
「さあ、勇者様。食事の準備が終わりました。どうぞ、お腹いっぱい召し上がってください」
「おい、どこに食事があるんだ?」
「こちらにあります、干し肉ですが?」
「は? これは犬畜生の餌だろうが」
「失礼ですね。干し肉は立派な冒険の保存食ですよ」
お坊ちゃま育ちの勇者様は、干し肉なんて食べたことがないのだろう。
回復師を追放する前は、彼女が食事を担当していた。
ホカホカのシチューに、肉汁滴る串焼き肉、ふかふかのパンケーキ――回復師が作る料理はどれもおいしかった。
彼女を追放したら、食生活が貧相になるのを勇者様は想像できていなかったようだ。
「勇者様、しっかり食べないと、次の街まで体力が続きませんよ」
「……」
革袋の水筒に入れた水も出してあげた。
それを一口飲んだ瞬間、勇者様は叫ぶ。
「なんだこれは!! 獣臭い!!」
「水筒の水はそんなもんです」
私なんて泥水を啜ったこともあるので、水筒の水なんて贅沢品だと思ってしまう。
続けて、勇者様は干し肉を食べた。
「これは、犬畜生の餌だ! 間違いないぞ!」
「勇者様、犬畜生の餌を食べたことがあるのですか?」
「いや、ないが、ここまで味がなく、硬くて生臭い食べ物は犬畜生しか食わんだろうが!」
干し肉に対する悪口の羅列を聞きつつ、黙っていただく。
おいしいとは言えないものの、冒険に必要な糧となるだろう。
「他に食料はないのか?」
「ないですね」
勇者様の眦に涙が浮かんだが、すぐに顔を背ける。
その先に何か発見したようで、嬉しそうな顔で振り向いた。
「おい、いい食材があるではないか!」
勇者様が指差したのは、先ほど倒したフォレスト・ボアだった。




