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クズ勇者が優秀な回復師を追放したので、私達のパーティはもう終わりです  作者: 江本マシメサ
第一章「お願い! 死なないで勇者!」

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出戻りパーティー

 メラメラ燃える業火ごうかに抱かれる。

 皮膚が焦げ、嫌な臭いが鼻につく。

 早く楽になりたいのに、この世界のことわりが許さない。

 安楽の地はまだ遠い――。


「神よ、迷える者を救い給え!!」


 お決まりの台詞であろう言葉で、意識が覚醒する。

 見覚えのある聖司祭と目が合う。ギルドがある街の聖司祭であった。

 どうやらリーフ村に教会はないらしい。三時間も歩いて行ったのに、腐死者との戦いで命を落としてしまったので、スタート地点に戻ってきてしまったというわけだ。 

 黙っていたら、聖司祭から「大丈夫ですか?」と声がかけられた。


「私は平気です。もうひとり、金ぴか鎧の男は運び込まれましたか?」

「ええ。まだ目覚めていないようですが、きちんと蘇生しておきましたよ」

「ありがとうございます」


 勇者様は少し離れた場所に横たわっていた。その近くには、イッヌの健気な姿がある。ひたすら勇者様の顔を舐めていたようで、デロデロの状態だった。


「あのワンちゃん、とても賢いですね。戦闘不能になったおふたりを、口に銜えてここまで引っ張ってきたのですよ」

「ああ、そうだったのですね」


 私達をここまで連れてきたのは、略奪者だと思っていた。

 まさか、イッヌが片道六時間もかかる距離を行き来してくれたなんて。

 イッヌのもとに行き、ありがとうとお礼を言う。

 私が目覚めたことに気付いたイッヌは、嬉しそうに尻尾を振ってくれた。


「しかし勇者様、なかなか目覚めませんね」

「こちらのお方はお身体の損傷が激しく、その、首はもげかけていたもので」


 腐死者に体を食べられていたようだ。死因は出血によるものだったようだが、とてつもない苦痛を味わったに違いない。

 壮絶な死を遂げれば遂げるほど、死者蘇生を施しても目覚めるのに時間がかかると言う。

 こういうときは、少し手荒な方法で起こさなければならないのだ。


「勇者様、起きてください! 勇者様!」


 長い杖スタッフで鎧をガンガン叩く。そんな私の行動に、聖司祭はギョッとしながら注意を促した。


「あ、あの、そのようにされては、せっかく蘇生した体にダメージがいくかと」

「心配ありません。なんでも異世界人は、壊れかけた〝家電カデン〟はこうやって強く叩いて治すそうですよ」

「カ、カデンとはいったいなんなのですか?」

「よくわかりません」


 コツは思いっきり叩くことだ、と異世界の文化について書かれた本にあった。

 私の行動を見たイッヌも、肉球で勇者様の鎧を叩き始めた。ゴンゴンゴン、ペンペンペン、と勇者様を殴打する音が鳴り響く。

 しばらく続けていると、勇者様の眉間がピクリと動いた。


「勇者様、朝ですよ! 起きてください!」

『きゅううううん!』

「う、うるさいな」


 勇者様は小さく呟き、そっと瞼を開く。

 その様子を見た聖司祭は「本当に目覚めた!」と叫んでいた。

 イッヌは興奮した様子で、勇者様の顔に飛びつく。

 しばらく勇者様の顔面でシャカシャカ動いて喜びを示すのを許していたようだが、毛を飲み込んだと抗議の声をあげ、イッヌを下ろす。


 起き上がった勇者様は周囲をキョロキョロ見回し、小首を傾げた。


「うっ……ここはいったい?」

「勇者様、残念ながら私達は腐死者に殺されまして、この街に戻ってきたそうです」

「な、なんだと!?」


 勇者様は懐にしまっていた財布を取り出し、驚愕の声をあげた。


「クソ、略奪者め! 私の所持金を三分の一も奪っていった! がめつい奴!」


 ここまで勇者様を連れてきたのは略奪者ではなく、イッヌである。

 そのため、財布からお金を引き抜いたがめつい奴とは、聖司祭しか思い当たらなかった。

 黙って聖司祭のほうを見ると、明後日の方向を向いている。略奪者が奪ったことにしたいようだ。


「イッヌ! お前もよく戻ってきたな。恐ろしかっただろう?」

『きゅん!』

「お前は生きているだけでも偉いぞ!」

『きゅううん!』


 イッヌの大活躍を話すつもりだったが、ひとまず止めておく。これ以上イッヌの序列が上がったら、大変なことになりそうだから。


「イッヌよ、腐死者に殺されて、怖い思いをさせてしまったな」

「あ、勇者様。イッヌは腐死者に殺されていなかったようです」

「なぜだ?」

「おそらく、聖水で全身を濡らしていたので、腐死者に対して忌避効果があったのでしょう」

「ああ、なるほど。あのときの私の対策が、イッヌを助けていたのだな。では、私達も聖水で全身を濡らした状態で腐死者討伐に行ったら、あのように囲まれることもなくなるだろう」

「それはちょっと……」


 夜、全身びしょぬれで外出するなどごめんだ。寒くて凍え死んでしまうだろう。

 あの作戦は体温が高く、水に濡れるのが平気なイッヌだからこそできたのだ。


「ならば、どうすればいいのか――」


 ここで聖司祭が口を挟む。


「あの、〝聖石〟はいかがですか?」


 目の前にそっと差しだされたのは、白い石だった。

 これは聖石と呼ばれる、聖水を結晶化させたアイテムらしい。


「聖石は魔物避けと浄化作用がございまして、お話にでていた腐死者への忌避効果もあると思われます」

「でも、お高いんでしょう?」


 思わず聞いてしまう。すると、聖司祭は懐からもうひとつの聖石を取りだし、満面の笑みを浮かべながら言った。


「今ならふたつセットで、金貨三十枚の寄付金でお譲りしております」

「安くなーい!」


 思わず、正直な気持ちを口にしてしまった。

 勇者様は「買った!」と言ったものの、聖司祭から「販売はしておりません! 寄付です!」と聖なるつっこみを受けていた。

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