表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/60

犯人の主張

「……!」


 あなたとわたしは同類よ、という言葉を聞いて。

 アイリーンは、ユリアを突き飛ばしていた。


 棚にぶつかって派手な音をたてるユリアの前で、アイリーンは解毒剤の瓶を引っ掴む。

 そのまま魔王の娘は、ユリアの研究室(アジト)から逃げ出した。目指すは魔王城――毒に倒れた助手執事の下へと。


「あは、あははははは! そういうトゲトゲしたところも素敵だわアイリーン! やっぱり探偵と犯人は反発し合うものよねえ!」

「なんとでも言ってなさい……!」


 背後から聞こえるユリアの哄笑に、歯噛みしつつアイリーンは進む。

 探偵と犯人は方向性の違う似た者同士。だから永遠に仲良く事件の中で敵対し合お(あそぼ)う、なんてそんな提案受け入れられるはずがない。

 お互いに事件を望みつつ、役割だけが違う者。

 解決するか引き起こすか。それしか違わないのなら内面に対して差はない――そう言い切ったユリアの声を、アイリーンは首を振って否定する。


「つれないことを言わないで。わたしたちは鏡映しの存在のようなものでしょう?」

「断じて違うわ! 直感だけを信じて好き勝手な推論を並べないで頂戴!」

「まあ、直感から始まった思いなことは確かだけれど」

「この恋愛脳(スイーツ)女!」


 追いかけてくるユリアの声を、強引に振り切って地上へと走る。

 決して振り返ってはいけない。

 少しでもそちらを向いたら呑まれてしまう。そんな予感がしたからだ。

 だってユリアの推論は、ある意味では正しいのだから。握りしめた解毒剤の瓶の感触だけを頼りに、アイリーンは必死になって前へ進んだ。


「直感、という面ではあなたも理解しているはずよアイリーン。だからそんなに焦っているのでしょう?」


 けれど。

 そんな魔王の娘に真っ黒な触手を伸ばすかのように、冥王の娘の声は暗闇から聞こえる。


「『ライバル』という言葉だけで、あなたはわたしが犯人だと当たりをつけた。調べれば他にも怪しい者はいたかもしれないのに。ねえ、どうしてかしら? どうしてすぐ、わたしを疑ったのかしら」

「それは……」


 状況証拠はたくさんあった。

 けれどもアイリーンのライバルというなら、確かに他にも何人か候補はいたのだ。

 精霊姫。もしくは他の名家の令嬢。

 なのにすぐユリアだと確信したのは、ドラゴンの記憶事件の手口の他にも、アイリーン自身のひらめきがあったからに他ならない。


 あいつが怪しい、と。


 推理をする前から、馬鹿みたいな直感があった。


「意識してくれて嬉しいわアイリーン。そう、わたしもあなたのことを意識していたのよ。だからかしら――運命のような偶然が、わたしの身に起こった。

 あなたが『探偵』というものに憧れて活動を始めた魔王城での事件。そのとき同時に、わたしは『犯人』というものに憧れたのだから」

「なん……ですって?」


 アイリーンが探偵を目指すと言い出した最初の事件。

 魔王城での連続殺害事件――その同時期に、ユリアは思うようになったのだという。

 事件を起こすのは、楽しい、と。


「興味深く拝見させてもらったわ。魔王城での出来事は。けれども、同時にこうも思った――『わたしなら、もっと上手くやるのに』って。鮮やかに陥れ、混乱させ、煙に巻く。だからやってみることにしたわ。手始めにあのドラゴンさんの魂に傷をつけた」

「あなたって子は……!」

「退屈しのぎにはなったはずよ?」


 お茶のお供くらいにはなったはずだわ、とくすくすと、暗黒竜事件の解決の様子を思い出したのだろう。

 愉快そうにユリアは笑った。


「とてもとても、充足したわ。わたし、あなたの(つい)になれてるって。事件を起こせば起こすほど役に立ててる。あなたを喜ばせてるって」

「喜んでなんか……!」

「あら、そう? 楽しそうに謎に挑んでいたような気がするけれど」


 探偵として、用意された謎には意気揚々と臨んでいった。

 暗号を解き、記憶を取り戻し。パズルの解けた感覚は、アイリーンの中に高揚と爽快さを呼び起こす。

 だからこそ。

 次はもっと、凄惨な事件を。

 さらにもっと、刺激的な謎を。ユリアの犯行がエスカレートしていった要因は、まさに()()にあった。


 最高の悪役(なぞ)を用意しよう。


 探偵でなく犯人に憧れた少女は、ただひたすらに深みを目指していた。


「次は何をしようかしら。入れ替わりトリック? 誘拐事件? ああ、趣向を変えてお城を爆破しても面白いかもしれないわね」

「そこまでしたら、お父様たちが黙っていないんじゃなく、て⁉」


 ガラリ、と崩れかけた足元を蹴ってアイリーンは進む。

 舌鋒(ぜっぽう)にいつもの勢いがないのは、ユリアの理屈を否定しきれないからだ。

 探偵なのに、推理を展開できるだけの材料がない。

 強引なこじつけでも、相手を納得させられるだけの論理がない。犯人を指摘したところで、主張を覆せずおしまい。

 バッドエンド真っ逆さまだ。地震のように揺れてきた洞窟はともすれば転びそうで、唇を噛みしめて魔王の娘はひた走る。


「どこまで逃げても、逃げ切れない。だって自分からは逃れられないもの。だから一緒にいましょうアイリーン。ずっとずっと、そばにいてあげる……」


 囁くような言葉の直後、アイリーンの足元が大きく崩れた。

 水が流れているのか、ごうごうと滝のような音が聞こえる。

 下は暗闇で底も見通せない。浮けばいい、魔法で――ととっさに思うも、力が入らなかった。

 これ以上あがいて、なんになるという考えが頭をかすめる。

 推理のできない探偵などただの役立たずだ。この状況でもうできることはない。


 だけど。

 手の中にあるこの瓶だけは、届けなくては――ただその一念で、アイリーンが無意識に手を伸ばしたとき。


「ご無事ですか、アイリーン様‼」


 聞こえるはずのない声がして。

 毒で倒れたはずのダークエルフ執事が、魔王の娘の腕を掴んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=189428228&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ