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ライバルはお嬢様

 アイリーンとミラベルが学校に戻ると、そこでは教授と執事が茶飲み話に花を咲かせていた。


「それでですな、アイリーン様にミラベル様はおっしゃられたのです。『次こそは、次こそは貴女に勝ってみせますわよ!』と。今にして思えば、それがお二人のライバル関係の始まりだったのですな」

「ほうほう。他にアイリーン様では学校でどのような行動を?」

「……私がいないうちに、何を聞いてるのよフィオネル」


 かつての学校の話に、昔の記憶がよぎってアイリーンは半眼になる。

 自分の過去を知られるというのは、存外むず痒いものだ。

 ましてやそれが、今現在仕えている従者にだというのなら。そんなアイリーンの胸中などいざ知らず、空気を読まないフィオネルはきりりとした表情で言う。


「アイリーン様の学校での過ごし方を教授殿に伺っておりました。城にいらっしゃるときとはまた違う行動をなされていて、非常に興味深いと」

「……お願いだからそういう恥ずかしいことしないで頂戴。先生も、訊かれたからといってなんでもお話なされないで」

「はっはっは。熱心に聞かれますものでな、つい」


 年を取ると話し相手が欲しくなって仕方ありませんな――と快活に笑って、魔導生物学の教授は首を傾げる。


「して、その様子ですとゾンビは捕まえられたようですな」

「もちろんですわ!」


 と、ずいと前に出たのはミラベル。えへんと胸を張って、精霊王の娘は戦果を報告する。


「洞窟に潜んでいたゾンビを、私とアイリーンの二人で捕まえました! 他にも有象無象が出て参りましたが、敵ではありませんでしたわよ!」

「途中まで怖くて何もできなかったくせに……」

「け、結果的に全部倒せたのですから、万事解決でしょう!」


 アイリーンのジト目のツッコミに、動揺するミラベル。

 二人の様子に再び笑って、教授は言う。


「仲良く目的を達成されたようでなによりでございます。しかしはて、洞窟に他にもゾンビが?」

「冥界に通じているという噂は伊達ではなかったようです、先生。今はミラベルの精霊魔法で封じていますが、いずれ調査と、本格的な封印が必要になるでしょう」


 当初は想定していなかった大量のゾンビとの遭遇など、アイリーンは今回の事件の詳細を説明した。

 洞窟から無限に湧いてきたゾンビたち。ミラベルの精霊魔法で地面を物理的に押さえているという話。

 不自然なほどに強化されていた目当ての実験ゾンビの件――全てを話し終えると、教授は「ふむ」とあごにに手を当てる。


「それはちと、妙な話ですな。分かりました、調査隊を結成して洞窟に向かわせましょう」

「ありがとうございます、先生」


 学校の敷地内にしては、今回の事件は奇妙なほどに大きすぎた。

 多少腕に覚えがある者がいる魔法学院とはいえ、アイリーンとミラベルほどの力がなければ切り抜けられなかった可能性はある。

 想定はしていたが、なかなかに危険な事件だった。するとアイリーンの髪から、守護のリボンがなくなっていることに気づいたのだろう。フィオネルが顔をこわばらせて言う。


「アイリーン様。もしや不届き者が今回も……」

「ええ。手を出してきたわ。しかも尻尾を見せる形で」


 最近の事件にちらついていた黒幕、その正体が明らかになった。

 黒百合の(きみ)

 冥界の姫――洞窟にゾンビがあふれかえったとき、聞こえてきた少女の声を思い出し、アイリーンは言う。


「……ユリア」


 魔王の娘・アイリーンと同等、ある意味では近しいといえる存在。

 旧知である彼女の姿を思い出し、アイリーンはきゅっと拳を握る。元々そうではないかと当たりを付けて学校にやってきたものの、「なぜ(ホワイダニット)」の部分は未だに解けていない。

 近いうちに真意を問いただすことになりそうだ――と、アイリーンがリボンを結んでいたあたりの髪に無意識に触れていると。

 フィオネルが大きく息をつき、苦笑して言う。


「しかし、ご無事で何よりでございました。ミラベル様との友情も深まったようですし」

「……冗談よしてよ。誰があんなお馬鹿さん」


 教授に身振り手振りを交えて自分たちの戦果を語るミラベルを、アイリーンは横目で見る。

「ずーん、ごーん、ぶしゃー! ですわ!」などと擬音交じりに話すミラベルは、確かにちょっとアレな感じがある。

 だがしかし、ピンチに奮起した姿やあきらめない姿勢は、見習うべきものだった。今回の事件のそれらを思い出し、アイリーンは口元を緩める。


「……まあ、そうね。ちょっとは仲良くしてもいいのかもね」

「学校にお友達ができて、私としても喜ばしい限りです」

「だから、そういうのはよしてって――」

「きゃっ……⁉︎」


 アイリーンが言いかけたとき、大きく手をあげたミラベルが足をもつれさせた。

 先ほどの大魔法の影響や、極度の緊張から来る疲れもあったのかもしれない。そのまま精霊姫の身体は、ぐらりと傾き――


「おっと、危ない」


 床に倒れる直前に、魔王の娘の執事に助けられた。

 体格の似たアイリーンと、扱い的には同じようなものである。ミラベルの背中を支えたフィオネルは、そのままふわりと彼女を抱き起こす。


「大丈夫でしたか、ミラベル様」

「え、あ、その」


 きょとんとしたミラベルは、執事に話しかけてしどろもどろになる。

 姿勢的にフィオネルに覗き込まれるような格好になった精霊姫は、真っ赤な顔でつぶやいた。


「……素敵」

「あ゛?」


 そのつぶやきを聞きつけたアイリーンの口から、ドスの利いた声がもれる。

 本人としては「は?」と言ったつもりが、周りにはどう考えてもお嬢様らしくない発音にしか聞こえなかった。

 しかし乙女モードに入っているミラベルには関係ない。魔王の娘そっちのけで、精霊姫は執事を口説き始める。


「貴方、アイリーンの従者でして? よく見ればダークエルフ……精霊界にいてもおかしくはありませんのよ。あんな高慢女のことなんて差し置いて、私のところに来ればよろしいですわ」

「あの、魔王様には拾っていただいた恩もありますし、今のところ移住は考えていませんが――」

「魔王様には私の父から言っておきますわ。ちょうど私も執事がほしいと思っていたところですの」

「はいはい、そこまでそこまで」


 距離の近いフィオネルとミラベルに、ずいとアイリーンは割って入った。

 不満そうな顔をする精霊姫の前で執事を抱き寄せ、アイリーンはいーっと犬歯を見せる。


「この執事は私のものよ。誰にも渡す気はないわ」

「もの、ですって? 貴女のそういうところが尊大だというのよ」

「他人のものを横取りしようとしておいて、よく言うわね」

「なんですって」

「なんでも何も」

「あのう……何がいったいどうなっているのでしょうか……」

あなた(フィオネル)は黙ってなさい!』


 二人のお嬢様の一喝に、「はい……」とフィオネルは大人しく沈黙した。

 そんな執事の隣で、アイリーンはぷぅっと頬を膨らませる。

 今回の件でミラベルとは仲良くなったようにも感じられたが、やはり――。


「……やっぱり、あなたとはお友達(ライバル)だわ」

お嬢様VSお嬢様〜完

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