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少女たちの探検

「……どうしてあなたがここにいるのよ」

「それはこっちのセリフですわ!」


 学院の外れにある、大きな洞窟の入り口で。

 アイリーンとミラベルは、お互いに声をあげていた。


 ゾンビの捕獲。教授の話を聞いてから、アイリーンは真っすぐにこの洞窟に向かい――そして、ミラベルと鉢合わせしたのだ。

 部屋を出るタイミングが少しズレていたのと、校舎内を通るルートが違っていたせいで、道中では一緒にならなかった。

 今ほどばったりと出くわし、二人でびっくりしたところである。するとミラベルはふっと鼻を鳴らし、アイリーンに言う。


「さすが私のライバルですわ。ゾンビの習性を見極めてここまでたどり着いたその推理力、まずは褒めて差し上げましょう」


 探偵の名をかけての勝負をしよう、とアイリーンに持ち掛けたのはミラベルだ。

 ペット探しと一緒である。どちらが早くゾンビを捕まえられるか。早くアテをつけられればつけられるほど、勝率は上がる。


「ゾンビがいなくなったのは昨日の夜から今朝にかけて。ならそこまで遠くには行っていないはずですわ」


 ミラベルの推理の続きを、アイリーンは述べる。


「学校の警備には引っかかっていないから、敷地内にいるとして――見つかっていないなら人気(ひとけ)のないところ。かつ、ゾンビの好む暗くて湿ったところ。

 そこまで考えれば、条件的にはここしかないわ。学校の北に広がる森の、洞窟」


 つまりここ――と、二人は洞窟の入り口を見上げた。

 初動が肝心なこの事件、滑り出しはまず互角、といったところか。


 岩肌にぽっかりと開いた大きな穴。森の中で明かりも差し込まず、奥の方は全くもって見通せない。

 アイリーンも話に聞いただけで、中に入ったことはない。ただ、かなり広い洞窟だとは聞いている――冥界に通じているだとか、入ったものは出られないとか、そういう噂が立つ程度には。

 ともあれ今回は洞窟の調査ではない。ここにいるであろうゾンビを探し出して、教授の下に届けるのが目的だ。

 あまり深いところまで潜るつもりはなかった。呪文を小さくつぶやいてアイリーンが魔法の明かりを作り、中に入ろうとすると。

 ミラベルは再びふっと笑い、言う。


「ただならぬ気配がしますわね」

「……ひょっとしてあなた、怖いの?」

「そ、そんなことありませんわ! 洞窟の中は精霊の力が弱そうだからちょっとなあ、と思っただけですわ!」


 ミラベルの頬につたう汗に気づいたアイリーンが指摘すると、精霊姫は慌てたように光の精霊を呼び出した。

 そのままずんずんと進んでいくミラベルに、アイリーンはやれやれと肩をすくめる。


 魔王の娘と精霊王の娘。二人の洞窟調査が始まった。



 ☆★☆



「ううむ、やっぱり暗いですわね……」


 洞窟を歩いていくことしばし。

 周囲を見回しながらミラベルが言った。

 威勢の良かった歩みは、深く潜るにつれておっかなびっくりになっている。今やアイリーンの後ろについていく形だ。


「そんなに怖いなら、ついてこなければよかったのに」

「私にも意地がありますわ! た、多少精霊の力が薄くても、あなたに勝てることを証明してご覧にいれますわよ!」

「ふーん、そう」


 からかい気味にアイリーンが言うと、ミラベルはムキになって反論する。それだけでも二人の関係がうかがえるというものだ。

 出会ってからこれまでの。だが、今日ばかりは少し違う。


「ミラベル。ここが段差になっているから気を付けて」


 アイリーンがそう言うと、ミラベルは鳩が豆鉄砲を食ったようにきょとんとした。

 そんな風に声を掛けられるなんて思ってもみなかった、といった様子だ。首を傾げるアイリーンに、ミラベルは告げる。


「……まさか、貴女がそんな風に気を遣われるなんて。意外ですわ」

「あなた、私のことをどう思ってるのよ」

「冷血で高慢で誰も寄せ付けないいけ好かない女」

「即答するあたり、あなたもだいぶだと思うわよ……?」


 女子同士の掛け合いに、ともすれば険悪な空気が流れそうな場面であったが。

 ミラベルは段差をひょいっと乗り越え、不思議そうにアイリーンに尋ねる。


「しばらく学校に来ないうちに、何かありましたの? 探偵を始めたことと何か関係がありまして?」

「……どうかしらね」


 興味津々、といったように訊いてくるミラベルに、思い当たる節がなく考え込むアイリーン。

 だがミラベルは、はぐらかされたと受け取ったらしい。眉を寄せて追及してくる。


「なんですの。私には教えられないというのですの」

「そうじゃないわ。信じられないかもしれないけれど、心当たりがないの。学校に行かなくなってから今まで、何か変わったことなんて――あ」


 頬に手を当てていたアイリーンは、ふいに何かに思い当たったというように声を上げた。

 次いで、ばつが悪そうに視線を逸らす。そんな魔王の娘に精霊王の娘は追いすがった。


「あら、ピンとくるものがありまして?」

「……まあ、そうね。学校に行かなくなって何かが変わったかといえば――執事を、雇ったわね」


 お父様が。と言い訳のように口にして、アイリーンは歩き出した。

 学校に行かなくなってから何年もの間。アイリーンたち魔族や精霊といった長寿種は時間の感覚が曖昧なため、どのくらいの期間かは改めて数えなければ分からないが――少なくとも、ダークエルフの執事がアイリーンについたのは、彼女が学校に行かなくなってからだった。

 城にこもって本ばかり読んでいた魔王の娘の下に、少しばかり短気で頭の足りない、いずれ助手になる者がやってきた。


「ふぅん。貴女につくのだったら、きっとその執事とやらはとても優秀で忠義の厚い、完璧な者なのでしょうね」

「バカで物騒でポンコツだけど。……忠義に厚い、というのだけは本当かしらね」


 というか、ミラベルも先ほどそのジェノサイド執事には会っているはずなのだが。

 頭に思い描いている像と結びつかな過ぎて、アレがそうだと認識できていないらしい。


 二つの光源が揺れて、彼女たちの影が揺らめく。他愛もない話をしている間に、二人はそれなりに洞窟の中を進んでいた。

 そして――


「あ、あれ……!」

「見つけたわね」


 ぽっかりと開けた空間に出た二人は、目的のものを見つける。

 ミラベルが指差した先には、一体のゾンビがぽつんと佇んでいた。

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