表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/60

ドラゴンの再会

「いやしかし、ダクラネル様がペットを飼っていたとは。意外ですな」


 城の窓から中庭を見下ろし、フィオネルはつぶやいた。


「ドラゴンがウサギを飼う――などと。しかもなかなかの熱の入れようで」

「か弱い存在を世話することで、癒しを得る。話に聞いていた方法を試してみた、というところかしらね」


 同じく中庭を見下ろしながら、アイリーンは応じた。そこでは、ダクラネルがウサギを抱えて頬ずりしている。

 アイリーンが推理を披露した直後、彼は記憶を蘇らせたのだ。

 種別認識は相変わらずできていないものの、ウサギ、という単語がキーになって一気に記憶が噴出してきたらしい。「おお、メリイ、メリイ……!」と、そのウサギの名前だろう。目を見開いて叫ぶダクラネルの様子は、なかなか見ものであった。

 まるで、生き別れの娘の存在を知ったような。

 飼い始めてからほんの数日でそこまで入れ込んだ暗黒竜に、アイリーンもフィオネルも笑いをこらえるのが必死だったくらいだ。


「まあ、今回は私が、先に正解を見てしまったというのが大きいかしらね。中庭でたくましく生きるウサギが、首輪などつけているものだから――きっと誰かが飼っているものだと思っていたのよ」


 ダクラネルが部屋を訪れる直前、アイリーンが目にしたのは――中庭を跳ねる、赤い首輪をしたウサギだったのだ。

 日記の記述にもあった、ルビーをあしらった首輪。アイリーンの述べた推論はあくまで状況証拠を固めたものだが、もし庭のウサギがその首輪をしていれば、それが動かぬ証拠になる。

 宝石をあしらった首輪をつけたウサギなど、魔界中を探してもその一匹だけだろうから――そう言えば、ダクラネルは挨拶もそこそこに、大急ぎで中庭に向かっていった。


「答えを最初から知っていての論理の組み立てだもの。今回の事件は探偵の仕事とは言えないわ」

「そのようなことはございません。少なくとも、ダクラネル様とあのウサギは喜んでいることでございましょう」


 苦笑するアイリーンに、フィオネルは穏やかに首を振る。

 月の光の中でウサギを抱えるダクラネルは、この部屋に来たときよりもだいぶ満ち足りているように見えた。

 普段から落ち着いている暗黒竜だが、今はそれに安心と安らぎが加わっているように感じられる。

 それだけでも、アイリーンが筋道を立ててダクラネルに推理を披露した甲斐はあるだろう。分かりやすい説明は、彼が記憶を取り戻す助けになった――そうフィオネルが言うと、お嬢様は「……そうね」とふっと笑った。


「今回は探偵の仕事ではなかったのかもしれないけど……まあ、よかったわ。おじさまにも評判は伝わっていることだし。こういう事件も、たまにはあるということでしょう」

「そうですよ。むしろ私としては、こういうなんともない事件ばかりであってほしいです」


 平和なら平和で、それに越したことはない。

 滅多なことを言うものではない――と、暗黒竜が訪ねてくる前に言ったことを、フィオネルはもう一度やんわりと口にした。

 しかしアイリーンは、そんな執事の言葉に顔を曇らせる。


「……どうかしましたか、アイリーン様」

「ねえフィオネル。私、少し気になっていることがあるの」


 彼女らしからぬ顔色に、フィオネルが首を傾げれば――アイリーンは、視線を一冊の本へと向ける。

 すなわち、ダクラネルの日記に。


「どうして、おじさまは大切なものの記憶を失ってしまったのか。本当に単なる偶然なのか。それに――」


 ホワイダニット。犯人はどうして犯行に及んだのか。

 考えすぎかもしれないけれど、と前置きしつつ、アイリーンは今回の事件の手がかりとなった記述を、ゆっくりとなぞっていく。


「この四つの文章の、最初の文字」


 ラインの黄金。

 い草。

 薔薇。

 ルビーの首輪。


 全部をつなげると、どうなるか。


「『ラ』『イ』『バ』『ル』」


 と。

 彼女が告げた途端、日記から青白い炎が巻き上がる。

 とっさにフィオネルはアイリーンをかばい、前に出た。すると執事の行動をあざ笑うかのように、蒼い炎は燃え上がり――すぐに、消えてしまった。


「……今の、は」


 呪いのような、悪意のある光。

 呆然とするフィオネルだったが、そんな彼にも分かることがある。

 どうやら平穏無事な日々は、もうしばらく送れなさそうだ――と。

ドラゴンの記憶〜完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=189428228&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ