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ドラゴンの依頼

「蘇生の際に、記憶が抜け落ちることがある。まれにある現象ね」


 蘇った際に、記憶が一部欠けてしまった。そう言うダクラネルにアイリーンは冷静に告げた。

 魔法で蘇る際、何らかの理由で異常が出ることがある。

 そのひとつが、記憶の欠落だった。肉体が原因か、魂が原因か、はたまた術者に問題があるのか。はっきりとした理由はよく分かっていない。

 ただ、そういう現象がある、とは認知されている。以前の事件で死んで蘇ったダクラネルにも、記憶の障害が出てしまったようだ。


「大した期間ではないのです。殺される数日前の記憶が、部分的にない程度なのですが……なにやら、思い出さなくてはならない予感がしましてな。こうしてお嬢を頼った次第です」


 ばつが悪そうに、ダクラネルはアイリーンに言った。

 魔王城の重鎮・暗黒竜ダラグネルである。復活の儀式は万全を期して行われたはずだ。

 ただそれでも事故というのは起こる。しかし立場ゆえに、公に記憶の欠落を訴えることを恐れたのか――ダクラネルは内密に、この件を処理したいようだった。


「下手をすれば、蘇生を担当した術者の首が物理的に飛びかねませんからな。穏便に済むならそのように、と思いまして」

「さすがダクラネル様。聡明でお優しいその判断、このフィオネル、感服いたしました」


 お世辞でもなんでもなく、アイリーンの執事フィオネルは感嘆の息をついた。

 部下を思う態度や、大抵のことでは驚かない度量を持つダクラネルを、常々フィオネルは尊敬している。度重なるアイリーンのイタズラ被害にめげていたとき、励ましてもらえたというのが大きいのだが。

 世話になった人物が困っているのなら、恩返ししたいと思うものである。張り切るフィオネルとアイリーンを見て、ダクラネルは穏やかに微笑んだ。


「お嬢とフィオネル殿がその後も、何度も事件を解決していると聞きましてな。恥ずかしながらこのダクラネル、頼らせていただければと思ったのです」

「まあ、おじさまのところに届くまで評判になっているの? これは憧れの名探偵に近づいていると思っていいのかしら」

「アイリーン様を危険な目に合わせるのはいけませんが……まあ、今回は大丈夫そうですし、ダクラネル様のお力になれるなら」


 事件を持ち込んだ経緯を告げるダクラネルに、アイリーンとフィオネルがそれぞれの反応を示す。探偵の下に持ち込まれた依頼。いつもは渋る助手だが珍しく、事情が事情だと取り掛かることを正式に承諾した。


「それで」と事件の詳細を確認するため、アイリーンが目を輝かせる。


「何か、記憶を蘇らせる手助けになるものはあるのかしら。手がかりや、ヒントになるものは」

「こちらを」


 彼女に応えて、ダクラネルが懐から一冊の本を取り出す。

 黒の装丁の施された、重厚な造り。ダクラネルはそれを、恭しくアイリーンの前に差し出した。


「我が身の日記にございます」

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