真実はいつも
「考えてみれば、おかしな部分はまだあったのよ」
自らの執事の背中を追いかけながら、アイリーンは言った。
「休みの日にでかけたのは、確かに妹さんに会いに行くためでもあったかもしれない。けれど、それじゃあ挙動不審だったことへの説明がつかないの。
まだ事件は解決していない。答えは、これからフィオネルが向かう先にある」
ただ家族に会うためならば、ただ普通にそうだと言えばよかったのだ。
なのに口にしなかったということは、アイリーンに知られたくない何かがあるということである。
尾行対象であるアイリーンの執事・フィオネルの手には、道中で買った花束がある。
妹に会ってもまだ持ったままということは、あの花束はまた別の誰かへの贈り物ということだ。
一体、誰のために花束を買ったのか。
最近様子がおかしかったのは、どうしてなのか――。
今度こそ謎を解くため、アイリーンと臣下のムラゾウとスズエの三名は尾行を続けていた。
一行が歩くのは人通りのある、城下町のストリート。
果物屋に肉屋。アクセサリー屋に武器防具屋。実に多種多様な店が軒を連ねている。
そこを通り過ぎていく執事フィオネル――颯爽とした身のこなしを、一行は見つめていた。
「もしかしたら、本当に女のとこかもしれんなあ」
「スズエー! お嬢様の前でめったなこと言うもんじゃないよ⁉」
「いや、だって状況からして、なあ」
男の様子がおかしくて、花束持って街を歩いてたらそりゃ、なあ――と、うなるようにスズエは言う。
これまでの状況からして、確かにスズエのように考えられなくもない。むしろ、そう考えるのが自然ですらある。
自分の執事が誰と付き合おうが、別に知ったことではない。
そう言いきれれば事態はこんなにも、混迷してはいなかったのだが――むしろアイリーンは難しい顔で、ムラゾウとスズエに言う。
「……もしかしたら、フィオネルは私の執事の任を解かれてしまうのかもしれないわ」
「えっ」
「なんでや?」
「今度、フィオネルが私付きの執事になった記念の日があるの。ずいぶん経つから、何年目なのかはもう忘れてしまったけれど……その日付けで、ちょうどよく退任することも、ないではないから」
結局は、お父様の命で私付きになったのだもの――と、父親である魔王のことを口にして、アイリーンはうつむいた。
仕事なのだから、何かの事情や都合で異動になることだってあるはずなのだ。
あまりに在任期間が長すぎたために配置換え、という可能性だってある。
執事という職ではなかなかないことだろうが、そのくらいしかフィオネルが挙動不審になる理由が思いつかない。
ずっと抱えてきた不安を口にするアイリーンに、ムラゾウとスズエは顔を見合わせた。
「うーん、それはちょっと、考え過ぎかもしれませんけど……」
「もしかしたら寿退社かもしれんなあ!」
「スズエはちょっと黙っててよ⁉」
能天気にボケてくるスズエに、ムラゾウは鋭く突っ込む。
通りを行くフィオネルは、往来に紛れてふとした瞬間に見えなくなりそうになる。
見失わないように急ぎ足で歩きつつ、ムラゾウはアイリーンに必死になって言った。
「さっきも言いましたけど、アイリーン様はやっぱり、フィオネル様と直接話し合うべきです。いろんなことが分からないままに考えてたら、すごく不安になっちゃいますよ。そうなる前に、真実を訊いてみた方が良いんじゃないですか」
「真実……」
「そう。アイリーン様が大好きな、真実です」
正確に言えばアイリーンが好きなのは『自分の推理が当たっていること』であって真実そのものではないのだが、それはムラゾウのあずかり知らぬことである。
ただ、真実という言葉自体は、探偵を目指すアイリーンに突き刺さるものだ。
曇っていたアイリーンの目に、光が戻ってくる。
「……そうね」という言葉と共に、お嬢様はふっと口の端に笑みを浮かべた。
「……私としたことが、やるべきことを忘れていたわ。そうよ。今までの証拠を全部集めて、これでもかというくらいの推理を組み立てて、フィオネルに突きつければいいのよね……!」
「なんかちょっと怖いですが、その意気ですアイリーン様!」
「おっ、やっこさんに動きがあったで!」
盛り上がる尾行一行をよそに、被疑者の方は目的の場所にたどり着いたようだ。
スズエの声にアイリーンとムラゾウがそちらを向けば、フィオネルはちょうどある建物に入っていくところだった。
通り沿いにある店。
色とりどりの垂れ幕の隙間から、微かに焚かれた香の匂いが漂ってくる。
中の様子は伺えず、少しばかり怪しげな雰囲気ではある――が。
「『占いの館・お悩み相談承ります』……?」
そこは、そんな怪しげな空気がごく当たり前にある店で。
アイリーンたちは、掲げられたのぼりを見て首を傾げていた。




