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現れた悪魔

「それにしても、村人たちどこに行ったんでしょうね」


「君の探知にもひっかからないかい?」


「影も形もないです」


 私の探知機能では人間の生命反応を探知することもできる。

 だけど私が感じているのはこの魔法使いたちと片桐さんの生命反応ぐらいだ。

 そういえばこの探知機能に悪魔は映るのかな。

 というか、どこまで信頼していいのかはわからない。


「うーん……悪いけど、見張っててくれないかな。俺は他に魔法使いがいないか確認してくる」


「こちらに魔法使いが来たらどうしますか?」


 一応聞いてみる。

 まあ、魔法使いが来た時に私ができる事なんて限られてるんだけど。


「普通の魔法使いなら、君の魔砲で対処できるはず」


「普通じゃなかったら?」


「その時はその時だ。悪いけど、俺が戻るまで持ちこたえてほしい」


 それってどうあがいても勝てないというやつでは?

 とは言っても、安全圏からの攻撃ならともかく、実践は初めてだしこの身体の機能を信じて逃げ回るしかなさそうだ。


「……まあ、いいですけど。早く戻ってきてくださいね」


 縛っているとはいえ、本物の魔法使いを見張らせるなんて。

 片桐さんは何を考えているんだろう。

 もしかしたら考えてないのかもしれないし、このアンドロイドを信頼してのことかもしれない。

 でも、私はこの身体の全ての機能を知ってるわけじゃないのだ。


「ああ、すぐに隠ぺい魔法使ってる奴見つけてくるから」


 そう言って片桐さんは行ってしまった。

 片桐さん、魔法使いの使う魔法について詳しいみたい。

 どうやって知ったのかな。

 ここでまた疑問が出てくる。

 魔砲の種類が魔法と重なってたりするのかな。

 考えてみればありそうな話だった。


「おのれ……魔砲などという馬鹿げた技術を扱う狗め……」


 転がる魔法使いの一人が呻く。

 麻痺の弾の効果が切れたみたいだった。


「悪いけど、大人しくしていてもらえませんか?」


 手持ちの弾は二種類。

 睡眠スリープ麻痺パラライズ

 装填してあるのは麻痺の方だから撃っても、今と変わらないかな。


「脅威は何でも屋だけだと言うたではないか!」


 それは私に向けての言葉じゃなかった。

 でも、探知範囲には誰もいないはずだった。


「脅威は何でも屋だけだとも。私は嘘など言っていないぞ」


 誰もいないはずなのに、私のすぐ後ろで声がする。


「え?」


 振り返りかけた私を衝撃が襲う。

 横殴りに何かがぶつかって私の身体が軽く吹き飛んだ。

 多分生身なら死んでいたと思う。

 だけど私は建物の壁にぶち当たり、その衝撃で探知機能が麻痺しただけで済んだ。


「な……なに……?」


 装着していた魔眼鏡はレンズが割れて、使い物にならなくなった。

 だけど魔力を見る、身体の機能自体は無事みたいだ。

 アンドロイドの身体が丈夫でよかったと、その点私は安堵したんだけど、状況は安心には程遠い。


「ふむ。これで見た目無傷という事は人間ではないのか。嘆かわしい。何故私たちの邪魔をするのか理解できん」


 私の前に立つその存在は見る限り人間ではなかった。

 ひねくれた角を頭から生やして、背中には蝙蝠のような翼がある。

 私が元の世界でイメージする悪魔そのものだった。

 何より、その全身が魔力の塊だった。


 ――悪魔と出会ったらアカリさんは逃げて欲しい。


 逃げるってどころじゃなくピンチだ。

 確かに片桐さんの言うとおり、魔力の塊に見える。

 多分私の装備では歯も立たないんだろう。

 でもどうやって逃げろっていうの?


「まあ、いい。何でも屋が連れていた女なら、奴への抑えにもなるだろう」


 その悪魔は私に近づいて、多分笑ったんだろう。

 声がとても楽しそうだ。


「来ないで……!」


 最後の抵抗に魔砲を構える。

 麻痺パラライズなんて、使っても役には立たないだろうけど。

 あーあ。壊されちゃうのかな。

 せっかくの第二の人生だけど、これはこれでしょうがないね。


「そんな玩具で我らに抵抗するつもりか」


 そういえば何で抵抗しちゃってるんだろ。

 おかしな話だよね。

 アンドロイドにそんな機能があるかは知らないけど、『反射的に』って奴だと思う。


「まあ心配するな。今は殺しはせん。お前には何でも屋への人質になってもらうからな」


 これは後で片桐さんを何とかした後に殺すって事だろう。

 片桐さんの足手まといになっちゃうのか。


「片桐さんをどうするつもり……!」


「我らの目的には邪魔なのでな。排除させてもらう。そのためにこの村を完全に乗っ取り、奴をあの村からおびき出したのだよ」


 自分たちが優位に立ってると思ってるからか、よくしゃべる。

 よくテレビやマンガで見た悪役のような相手だ。

 テレビとマンガと違うのは、これが私にとっての現実であることと、助けに来てくれるヒーローなんていないということだった。


「それにしても魔砲とは、馬鹿な技術を開発したものよな。これを手に、我らの領域を侵すなど……同じ人間でも魔法使いどもの方が分をわきまえておるわ」


 人間は生きるために活動領域を広げている。

 それが悪魔たちの領域を奪ってるということなのか。

 私にはよくわからないことだ。


「それで、なにか迷惑がかかったって言うの?」


 人間は活動領域を広げるために開拓を続けていると聞いた。

 開拓者が敵として対峙してるのは魔獣であって、悪魔ではないはず。

 魔獣を退治することで、悪魔に迷惑がかかってるならこの悪魔の怒りもわかるけれど。


「迷惑か、だと? 強いて言うなら目障りだ。たとえあの方が人間の進出を許したとしても、人間を野放しにしておく必要はない」


 話がどうにもかみ合わない。

『あの方』と悪魔が呼んでるのは多分偉い悪魔なのかな?

 上が許しても、下が許さないなんてどこの世界でも一緒なんだ。


「やれやれ。悪魔が関わってるかな、って思ったら本当に関わってたなんて。本当に厄介だな」


 声がした。

 ちょっと前に二手に分かれた時と同じ、のんびりした声音だった。

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