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緊急依頼

 私たちは森の中を駆ける。

 飛ぶように景色が後ろに過ぎ去っていくのを無視して、先を急ぐ。

 初めて村の外に出たというのに、それを堪能する時間は私にはなかった。



「緊急の依頼だ。隣の村と連絡が取れなくなった」


 慌てて家に転がり込んできた男の人から、片桐さんが私たちに説明する。


「隣の村は魔幻鉱石の産地でね。開拓村ではよく使うから、毎日行き来があるんだけど今日は商人が来なかった、のだそうだ」


「隣の『村』ってことは何十人も何百人も暮らしているんですよね?」


 商人一人だけ、連絡が取れないってことはないのだろうか。

 でもこの慌てようだとそういうことじゃなさそうだ。


「アカリさんの言いたいことはわかる。商人一人だけならよかったんだけど、あちらの魔砲使いとも連絡が取れないんだ。この間魔法使いの襲撃があったばかりだし、緊急に村の様子を見に行く必要がある」


 魔法使いの襲撃の可能性か。

 ここに来てからがまだ短いから考えてなかった。

 魔砲の弾薬の材料だし、途切れたら戦うのも大変になる。


「俺一人ではちょっとカバーできないかもしれないから、アカリさんも来てくれないかな。ユウキにミツルは大人しく留守番しているように。念のため結界張るから」



 そんなわけで今回は私がついてきているのだ。

 アンドロイドの身体の便利なところは、こうした記憶がすぐに完璧に思い出せることだ。

 多分、それはいいことだけではないんだろうけども。

 私の装備は三級免許相当の装備だ。

 これなら、後に開拓公社が復活した後でいくらでも言い訳ができるのだそうだ。

 そして、ダミーの魔眼鏡マギ・サイト

 魔眼鏡とは魔力の見えない人間を補助する装置だそうで、片桐さんやミツのゴーグルがそうらしい。

 その代わりの機能が組み込まれている私は、何をしなくても魔力を見ることが出来る。

 私の身体は限りなく人間に近づけて造られている。

 だから外見では、私をアンドロイドだと気づく人間はいないと思う。

 魔砲と魔眼鏡で、普通の魔砲使いに偽装して私は走る。

 こうしてみると前世と違って息切れがしないことに感動する。


「どう? 何かいそう?」


 片桐さんは低く飛びながら、私に聞いた。

 魔砲で何やらやって、飛んでるのはわかるんだけど、どうやったのか私にはわからない。


「この近辺には何も。トラップがあれば別だと思います」


 アンドロイドの機能として何故か色々とセンサーがついている。

 生体反応や魔力の感知も機能の一つだ。

 おかげで魔獣も見つけられるのだけど、今は魔獣の相手をしている暇はない。

 そんな事に弾薬を使う余裕もないと思う。

 なるべく回避するようにしていた。

 だけど、たまに回避できないところで遭遇する。

 私たちの移動速度より早く動くタイプの魔獣がそうだ。

 そういう時は片桐さんが魔砲で片付けてくれる。

 片桐さんは一級免許のため、魔砲はカートリッジ式。

 魔幻鉱石を加工した物がカートリッジに封入されていて、引き金を引くときに好きな威力で撃てるらしい。

 一方私の三級免許相当の装備だと、弾薬は本当の弾だ。

 中に魔幻鉱石の加工物が入っていて、使える魔砲の種類も決まってる。

 私は片桐さんの一発が魔獣を倒すので不思議に思った。

 見た感じ、魔力も相当籠った一発なのに、バンバン撃っちゃっていいんだろうか。

 いくらカートリッジをいくらか私が持ってるとはいえ、向こうで魔法使いと出会った時に足りるのだろうか。


「この調子だと順調だな」


 片桐さんは少しほっとしたように私に言った。


「ところで、片桐さん。あんなに魔力使って大丈夫なんですか?」


 私が心配すると、片桐さんは困ったように頬を掻く。


「それが俺、魔力を抑えるの苦手で、撃つ時はあれが限界なんだ」


 加減してあれなんだ。

 私は驚いた。

 抑えて魔獣を一発で倒すような人が本気で使ったら、魔砲の本体が壊れちゃうんじゃないかな。


「弾切れになっても知りませんよ」


「使いたくないけど、一応奥の手って奴はあるからさ」


 奥の手?

 目的地は魔幻鉱石の産地だっていうから、原材料はたくさんあるのよね。

 まさかそこで弾薬補給ってことは……。

 加工する人もいないのにそんなことするわけない。

 でも、奥の手と言うからには確実で、隠しとく物なんだろうなぁ。

 私はそう判断して片桐さんには、深く何も聞かなかった。


「さて、村まであと少し。急ぐよ」


「はい」


 一度立ち止まった私たちは、片桐さんの言葉で再び走り始めた。




 目的地の村が近づいてくると私たちは一旦走るのを止めた。

 ここから先はいつ魔法使いが襲ってくるかわからないから、私たちは警戒しながら進むことになった。

 でも、意外と魔力の気配がない。


「片桐さん、魔法使いって少ないんですよね? どうして隣の村を襲撃できたんでしょうか?」


 その村には魔砲使いがいたんだし、撃退できないこともないと思うのだけど。

 私がこっちに『生まれ変わった』日は片桐さん不在で、私たちの家が襲われたわけだし。


「それはね、時々魔法使いは魔獣を使役することもあるからだよ。もしくはもっと高位の悪魔と契約しているか」


 悪魔? 契約?

 高校生ぐらいの時にそんなファンタジー小説を読んだことがあった。

 悪魔と魔法使い……ねぇ。

 何だか私が本当に異世界にいるって実感する話だ。

 家に居る時はインターネットが使えないぐらいで、ほとんど生活家電とか使えるから実感できてなかった。

 それは全部ユキとミツが何かやってああいう便利な家になったんだろう。


「私たちは魔法使いに気を付けなければいけないけど、一番警戒すべきなのは悪魔だ。魔力の塊みたいに映るから、きっと魔眼鏡で見間違えはないと思う。悪魔と出会ったらアカリさんは逃げて欲しい。三級装備じゃ歯が立たない」


 片桐さんが言うならきっとそうなんだろう。

 でも、片桐さんの方は?


「片桐さんの装備だといけるんですか?」


「一回で魔力切れかも」


 それは駄目だ。

 私も片桐さんも悪魔との遭遇には気をつけないといけないのかも。

 片桐さんとはぐれたら一発でアウトな気がする。

 本当に、気をつけよう。

 私は密かに決意して、新たな一歩を踏み出した。

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