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ランドルさんと片桐さん

「何でお前がいるんだ!」


 帰って早々に片桐さんはそう叫んで崩れ落ちた。

 やっぱりこういう面は珍しい。

 いつも余裕を持って優しい人だもの。

 こうして慌ててる姿は新鮮すぎる。

 ランドルさんがいることって、前に洋介さんが来た時より衝撃的なのかも。


「何でって言わせんなよ、出向だよ、出向」


 ランドルさんは片桐さんの問いに、至って気軽に答えた。

 その答えを聞いた片桐さんはいつも首に下げている魔眼鏡をかけて、sらにがっくりと首を落とした。


「偽装してない……何考えてるんだよ……」


 その呟きは力がない。

 衝撃的すぎたのだろう。

 うん、悪魔が何の偽装もせずにこんなところにいたら大変だ。

 魔眼鏡を装着してたら、悪魔だってばれちゃうんだもの。


「ユウさん、大丈夫?」


 片桐さんの後ろからミツがひょっこりと顔を出した。


「大丈夫じゃないかもしれない」


 ため息をついて、片桐さんは立ち上がる。

 衝撃から立ち直ったのかな?

 ランドルさんへ詰め寄るように近寄った。


「一から十まで説明してもらうよ、ランドル」


「まあまあ。前みたいにコンビ組んで辺境での仕事頑張ろうぜ」


 ニヤニヤと楽しそうに笑うランドルさんは、洋介さんを髣髴とさせる。

 何か任務だとか言ってたような気がしたけど、楽しんでない?

 ミツはひょこひょこと近づいてきて、いつもの定位置――ユキの隣に腰掛けた。

 ユキがバラバラにしていた魔砲は既に組み上がっている。


「あ、そうそう。この魔砲ちょっと弄ったから後で試してよ」


「お! お得意の改造か! 使うのが楽しみ」


「今度はねぇ……」


 はしゃいだように改造の内容を伝えるユキとうんうんと頷いて聞いているミツ。

 その近くでランドルさんの説明に頭を抱える片桐さんの姿があった。

 説明はぼそぼそとして断片的にしか聞こえない。

 たぶん後で片桐さんが説明してくれるだろう。


「というわけで、俺の元同僚のランドルだ。今日から何でも屋の一員となる。戦力としては頼りになる。俺からは以上だ」


 ランドルさんを棒読み口調で片桐さんが紹介する。

 彼にしては珍しく、本当に不本意らしい。

 詳しい説明は何もなく、片桐さんが何も言いたくない様子がはっきりとわかる。


「紹介に預かったランドルだ。カタギリとは昔コンビで辺境を回った仲だから――」


「お前、余計な事を」


「万が一の時はカタギリの暴走を抑えるんで、よろしく!」


「だから余計な事を言うな! お前は」


 暴走とかおっかない。

 怒ると手が付けられないらしいけど、本当なんだろうか。

 片桐さんってばそう言う片鱗見せないからわからない。

 でも、今の片桐さんは『怒ってる』状態だ。

 特に変化はない。

 何だか洋介さんに騙された気分。

 からかわれたんだろうか。

 とりあえず、ランドルさんが加わったことでだいぶ片桐さんは動きやすくなるらしい。

 というのも、留守番をランドルさんに任せる事で私もミツも外で動けるのだそう。

 依頼を同時にこなせるので都合がいいと言うか。

 何でも屋としてはいいことだろう。

 遠出ももっとできる。

 それは片桐さんの悪い悪魔を捕まえるという『仕事』にも繋がるはずだった。




「おい、ランドル。ユウキとアカリさんにどこまで俺の話をした?」


 誰もが寝静まった夜中に二人は応接室で話し合っていた。

 私はというとその隣の部屋でスリープ中だったけれど、ランドルさんの魔力で目が覚めてしまってこっそりと話を聞いている。

 片桐さんってばあんまり過去の話をしないなぁと思っていたけれど、知られたくない事だったかな?

 過去の、というか悪魔側の事情についてはあまり説明してくれない。

 ましてや、ユキやミツの前では匂わせもしない。

 といっても、ユキは薄々知ってたみたいで、訳知り顔でランドルさんの話に相槌を打っていた。

 あの時ランドルさんが語ったのは片桐さんが――。


「俺が言ったのはお前が元々魔界の公務員やってて、俺と様々な辺境を回ったって話だけで、お前のややこしい立場については何も言ってない!」


 そう、片桐さんは公務員だったのだ。

 元々悪い悪魔を捕まえる仕事をしていて、凶悪犯が潜んでたりする辺境を転々としていたらしい。

 そして今はというと魔王の近衛騎士に抜擢されたエリートなのだという。

 それを説明した時のランドルさんはめちゃくちゃ笑っていた。

 洋介さんがよっぽど面白い抜擢の仕方をしたのだろう。

 そんな印象を感じた。


「十分余計な事だろう! 外の情報はなるべく入れないようにしていた俺の努力も考えてくれ!」


「いや、だってよ。この先必要になって来るんだって。外の情報が」


 ランドルさんの何気ない一言で、また片桐さんの声の調子が変わる。

 まるで何かの予兆のように。


「まさか外の連中、ここをどこだかわかって勢力争いに?」


「まあ、ほぼ反魔王様――というかここの開拓に反対する連中だけどな。だから俺が来た親魔王様派の駒として、な。ルキ様もこちらにいらっしゃるんだろう? お前と俺とルキ様で敵を炙り出そうってこと」


「だから偽装もせず来たのか、お前が」


「そういうこと。普通の魔法使いなら近寄れもしないだろ? 俺の魔力にビビってさ」


 楽しげにランドルさんは語る。

 自分がただの餌のように。


「これで魔法使いは悪魔を頼るだろ。その悪魔たちがどんな手を使って来るかはわからないけど、そこを辿っていくと大物が釣りあがるかもしれないぜ?」


 何だかよくわからないけれど、外から悪魔がやってくる予感があるよう。

 私たちは大丈夫だろうか。


「と、いうわけで敵の釣り上げ前に準備しような。外で研究した新種の魔砲術式、持ってきてやったぜ。これで普通の人間でも魔法使いに対抗できる」


 何故だかにやりと笑う顔が見えたよう。

 何を持ってきたか知らないけれど何かが起きる前のような胸のざわめきを感じる。

 その後の二人の会話はよく聞こえなかった。

 細かい打ち合わせというところだろうか。

 明日から、とか細切れに気になる単語だけ漏れ聞こえる。


「なあ、ちょうどいいだろ? そろそろこっちも労働力が不足してるんだし」


「何か釈然としないけど、利害が一致してるのは間違いないね。――問題は受け入れてもらえるかどうかで」


「それは実際にお前らが示してやればいいだろ。実際に見れば人間たちだって利益が分かるはずだ」


 確かに労働力の不足は感じている。

 ここに移り住んできた人は多いが、元々が農業に精を出す開拓村だったため、移り住んできた人々の住居の整備などに出す人手が足りないのだ。

 熟練の魔砲使いが足りないため、ちょっとしたことでも片桐さんが駆り出される。

 魔獣の退治、新たな畑の開墾、その他もろもろ。

 だからこそ、片桐さんは魔砲使いの講習とかで人手を増やそうとしている。

 でも、多分それだと時間がかかる。

 ランドルさんが持ち込んだのはそれを解決する方策に違いない。


「お前の言うとおりだ。()()()()()()利益になる。だけど、これはぶっつけ本番だ」


「試すのはお前らが最初だろ? じゃあ何も心配ねぇじゃねぇか」


 至って気軽なランドルさんの気軽な言葉に、片桐さんが大きくため息をつく気配が伝わってくる。


「お前は相変わらず大雑把だな」


「いやいや、魔力の使い方が大雑把なお前とは比較にならんよ」


 笑いを含んだランドルさん声に、片桐さんも小さく笑い声をあげた。


「あははっ……それを言われると痛い。あーあ、明日から忙しくなるなぁ」


 明るい声に私は何だかホッとする。

 何かが明日から変わる。

 もしかしたら、私も何か変われる時が来るかもしれない。

 そんな期待を抱いたのだった。

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