女神さま視点
「・・・拍子抜けするほどあっけなく寝たわね。この先大丈夫か心配になってくるわ」
静かに寝息を立てているリリーの横顔を眺めながら今後の事を考える。
勝負の世界で経験したことが無いからやめてくれ。というのは通じないだろう。
だからと言って、剣で負けそうになったから魔法をいきなり使ってくるのはどうかとも思うが・・・。
もう、決着がついてしまったことをとやかく言っても仕方ないだろう。
それよりもだ、王様は本当にサイラスを呼ぶ気でいるのだろうか?
サイラスの年齢は王と近い上、地竜との戦いで足を負傷していて戦場ではまともに役に立たない。
怪我をしてからというものリリーとの稽古も出来ず、ひたすらアドバイスを与えるだけになっていたくらいだ。
そのことは王も知ってはいるはずだ。
サイラスが怪我をしたときに王に手紙を送っているのを見たことがある。
・・・少し王の所へ情報収集に行ってくることにしよう。
リリーが今回も若くて死んでしまうことは避けなければならない。
私はもう何度もこの子が絶望に打ちひしがれて命を落としていくところを見ている。
例えばそれが一度や二度ならなんとも思わなかった。
だが、この子は今までただの一度も幸福な死を経験していない。九十九回の人生すべて。
絶望に引きずり込まれていくのを見るたびに、手を伸ばそうとしても神の領域からは手が届かず、届いたとしても神がただの人間に手を貸すことは禁じられていた。
だが百回目の転生にしてやっと、この子の傍で手を貸すことを許されたのだ。
―私は何としてもこの子を幸せにして見せる。
そう決意を新たにリスの姿の女神・アリアンはスルリと扉の下の隙間から抜け出ると柱を登って王の寝室へと侵入していったのだった。
王の寝室には王と執事のバーナーが話をしていた。
気づかれないように気配を消し、話が聞こえるところまで近づく。
「・・・ではよろしいのですね。王」
「あぁ、オルフェイ領には手紙を出しておく。今回、勝負を行った結果、リリーを騎士団に入団させるということをな。」
「ですが、そう簡単に可愛い孫を差し出すでしょうか?戦への兵としてなら長くても1年ほど兵役を行えばよいですが、騎士となると10年は見なければなりません。」
「なに、その辺は明日の交渉次第だな。孫自らが騎士になるといえばサイラスも諦めるしかあるまい。それに、あの剣の腕を見たか?全盛期のサイラスにもう少しで追いつきそうな見事なものだった。騎士団で2・3年くらい対魔法の訓練をすればサイラス以上の逸材になるだろう。そんな人材をみすみす逃すのは惜しいだろう?」
と語ったところで王は琥珀色の酒が入ったグラスを傾け、一気に飲み干し机の上に置くと、
果物ナイフを手に持ってそのままの状態でこちらにそのナイフを投げてきた。
ーカンッ
投げたナイフは私のいる柱に突き刺さった。
柱の近くに来てナイフを抜いた王は
「・・・気のせいか。俺もいよいよ焼きが回ったか?」
と言って執事にナイフを渡し、ベッドに潜り込んだ。
執事は蝋燭を消し、王に挨拶をして退室する。
その後を白いリスが誰にも気づかれず一緒について出ていった。
部屋に戻ると
「気配を消していたのに気づくなんて・・・化け物ね。」
と呟き女神さまはクルミ入りのクッキーを引き出しから引っ張り出し、
クッキー片手にリリーが明日上手く交渉を進めることができるように作戦を練り始めるのだった。
今回は女神さまが普段食べているだけではないということを書いてみました。




