2602:停戦
――2604年9月12日、横須賀鎮守府はなれ、着物、高田あき
吉田少佐と電波妨害対策を、いろいろ考えてるけど難しいね。信号を複雑にすると耐性はあがるけどコストもあがるし、爆撃が来なくなったのでテストもできない。いろいろ準備しといて相手に合わせて差し替えられるようにしとくしかないかな。
――2604年11月9日、ラジオ
米ルーズベルト大統領は3選をめざし大統領選に出馬しておりましたが、現地時間11月7日に行われた選挙において、共和党デューイ候補に僅差でやぶれました。デューイ候補は度重なる太平洋での敗戦、九州爆撃作戦の失敗、ノルマンディー上陸作戦における莫大な損害を指摘し、支持を集めました。また、ルーズベルト大統領が、真珠湾攻撃を事前に察知していたとの風説も流れており、こちらも影響したものと思われます。
――2605年4月24日、ラジオ
ソ連は日ソ中立条約の廃棄を通告いたしました。これにより本条約は2606年4月25日に失効することとなります。
――2605年5月1日、横須賀鎮守府はなれ、着物、高田あき
吉田少佐来たよ。ひさしぶりだね。
「砲の射撃に使うレーダーは作れませんか」
「あー軍艦が目標ですよね。簡単ですよ。空中線複数用意できれば、距離も方角も、相手の速度もすぐわかると思います」
「いや、陸上用なんです」
「えっとそれ目標は、なんですか」
「歩兵、戦車、砲とかですかね」
「それ、小さくないですか。近距離ならわかると思いますが、見えますよね」
「夜とかでしょうかね」
「送信機、空中線によると思いますが、どこまでいけますかね。さしあたり位置と速度がわかるかどうかやってみるのがいいですかね。ログ取りましょう」
吉田少佐もあまり詳しくない気がする。
――2605年7月12日、横須賀鎮守府はなれ、着物、高田あき
吉田少佐は演習場や中国の戦場でテストしてきたらしい。
「現地では簡単に運べる空中線ですと凹凸に遮られて、そもそも電波が当たらないところが多いです。戦車相手には速度がわかるので便利ですが、向こうもこちらも移動が速いので使いこなすのが難しいということです。飛行機相手には有用だから、そっちに集中してくれっていわれました」
「なるほど、まあログをみせてください。あれ、この高速で移動してるのはなんですか」
「あ、砲弾ですね。大口径のものは測定できるようですが砲弾撃ち落とすのは無理ですね」
「ははぁ。あれ、これ砲弾の軌跡から発射位置計算できませんか」
「え、そんな計算できるんですか」
「ざっくりでも地形がわかれば、なんとかなると思いますよ。砲弾の特性などわかると精度があがると思います。」
――2605年8月5日、ラジオ
ソ連軍が独西部、フランクフルトに突入し、独、ビシー政府はソ連に降伏いたしました。
――同日、内閣府、軍服、高官たち
「陸軍は、来年4月のソ連軍の満州侵攻を予測している。ソ連軍は英米軍と互角に戦った独軍を圧倒しており、きわめて強力である。満州には100万以上の大軍でくる可能性が高い。満州防衛にあたって、防空能力の確保は重要で、要地の高射砲大隊への”端末”支給をお願いしたい。当面50台」
「満州の状況については同意する。しかし50台は過大ではないか。米英海軍の脅威がなくなったわけではない」
「海軍の言うこともわかるが、米英については方策がある。ここは総理の顔をたてて台数を出してもらうということでどうか」
「それでは10台でどうか」
「いやそれでは大連防衛ぐらいしかできない。奉天、新京、ハルビンを考えて30台でどうか」
――2605年8月12日、海軍砲術学校辻堂演習場、国民服、高田あき
演習場につれてこられた。1Kmぐらい先の岡の向こうから撃ってる砲弾を観測して砲の位置を計算するよ。
「1発で確実とはいえませんが、何発か撃ってると収束しますね。ついでに弾がどこに落ちるかも予測してみてますが、収束したあとは誤差10mぐらいですかね」
「良さそうに思えますが、答え合わせしてみてですな」
「吉田少佐、高田さん、よくやってくれた。測定は完璧だ。これがあれば敵の砲兵を殲滅できる。大口径の砲などいろいろ用意して実験したい。うまく行けば中国で試験だ」
――2605年9月12日、陸軍野戦砲兵学校射場、国民服、高田あき
千葉まで車で連れてこられたよ。東京通ったけどおろしてくんない。辻堂で撃ったのより大きいの小さいのいろんな砲があるね。空中線も替えていっぱいテスト。順調だよ。こちらの撃った弾がどこに落ちているかがわかるのも有用みたい。
「あらかじめ砲と砲弾の種類ごとの特性がわかっていると収束が早いです。記録して共有できるようにしましょう」
「画面に表示してもらえば書き写して手入力でいいでしょう」
「ええ」
――2605年10月5日、ラジオ
日米英仏蘭中の停戦が発表されました。講和条件の大枠については帝国の中国撤兵とグアムの委任統治、各国の満洲国承認、インド、インドシナ、インドネシアの民族自決を認めるものとなっています。
――2605年10月8日、内閣府、軍服、高官たち
「停戦がなった以上、喫緊の課題はソ連軍の動向である。陸軍は部隊のシベリア鉄道での移動の増加を確認しており、従前の予測より侵攻時期が早まり、冬季侵攻もあるのではないかと考えている。”端末”を利用した対砲兵射撃の有用性を確認しているので、最低限満州駐在の野戦重砲兵大隊に配給していただきたい」
「海軍としては、ソ連軍の動向の予測に同意する。しかし内陸部の防衛は困難であるので、”端末”を浪費せず、海軍の支援可能な沿岸部での防衛を中心としてはどうか。関東州の重砲陣地であれば供給してもよい」
「ハルビン以北の防衛が困難なのは理解している。しかし、ただ下がったのでは敵の攻撃力を減殺することができない。機動的に使用できる野戦重砲兵が後退しなから敵砲兵戦力を減殺したい、また虎頭、ハイラル、羅津、釜山などの要塞にも配置したい」
「しかし、前線部隊で使用すると”端末”が鹵獲されるおそれがある。これはどうか」
「陸軍は親授されたる軍旗を敵に奪われることないよう、旗手を用意して安全を図っていっる。また万一の場合には軍旗を奉焼。旗手や連隊長は自決する伝統がある。砲兵部隊には軍旗がないが、同様の扱いを約束しよう」
「軍旗というなら連隊であれば配給しよう。ただし海軍より”端末”管理士官を用意し、各連隊に派遣する。むやみに前進し端末を危険にさらすようなら、管理士官の責任で”端末”の無効化、後退、破壊などをする」
――2605年10月15日、陸軍野戦砲兵学校射場、国民服、高田あき
いろんな砲や空中線でテストしてる。東京湾の砲台でもテストしたよ。大体うまくいってるね。端末ごとにちがって日々変化するパスワードを毎日いれないと文鎮化するようにさせられたよ。日々の変化は人間が覚えるんだって。えー。
――2605年11月5日、ラジオ
大本営発表、本日、日ソ中立条約未だ有効なりしも、ソ連軍150万、航空機3000機が満洲国国境より侵入を開始せり。モンゴル、中共もソ連側で参戦。米英仏蘭中は中立を宣言したり。
帝国陸軍は、よく敵の侵攻を退けてあり。帝国海軍はウラジオストクなど沿海州の軍事拠点、シベリア鉄道などに攻撃を加えつつあり。
――2605年12月5日、ラジオ
帝国陸軍は、ソ連軍に痛打を加えつつ満洲国南部に誘引、これを撃滅しつつあり。敵の損害は100万、航空機2000機に達するものとみとむ。我が方の損害は軽微なり。
――2606年1月5日、ラジオ
帝国陸軍は、ソ連軍に痛打を加えつつ満洲国海岸部に誘引、これを撃滅しつつあり。敵の損害は累計200万、航空機4000機に達するものとみとむ。我が方の損害は軽微なり。
――2606年2月5日、ラジオ
帝国陸軍は、ソ連軍に痛打を加えつつ沿海州と鴨緑江の防衛線に誘引。これを撃滅しつつあり。敵の損害は累計300万、航空機6000機に達するものとみとむ。
――2606年3月18日、門司市、国民服、高田あき
九州に空襲があったので見てこいっていわれたよ。墜落した機体が2年前の機体と似てるのが問題なんだって。確かによく似てるけど、機銃周りはだいぶ違う。直接狙って撃つようになってる。あ、それにこれケーブル類メートル法だよ。ソ連製デッドコピーじゃないの。あ、残念そうな顔してる。
あれ、変な板発見。端末っぽい? 何だろこれ。
――2606年5月5日、ラジオ
帝国陸軍は、ソ連軍に痛打を加えつつ沿海州と釜山周辺の防衛線に誘引。これを撃滅しつつあり。敵の損害は累計400万、航空機8000機に達するものとみとむ。
――2606年5月15日、ラジオ
帝国陸海軍は、本日仁川に上陸作戦を決行。ソ連軍補給路に痛打を加えたり。
――2606年5月28日、ラジオ
帝国陸軍は、本日京城を奪還。これにより敵兵300万の包囲に成功せり。
――同日、横須賀鎮守府はなれ、着物、高田あき
あ、おしかえしてるのかな。これで戦争が終わるといいな。終わったら結婚相手探そうかな。吉田さん独身かな。
高田さんが怪しげなフラグ立ててますが、多分なんとかなるでしょう。
これにて完結とさせていただきます。繰り返しになりますが、たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございました。技術的な内容がストーリー回しに重要な役割を果たしているのにもかかわらず、ろくに説明が入っていないので心配でしたが、パズル的に楽しんでいただいている方もいらっしゃるみたいなので、なんとかなったかなと思っています。このあたりも含め、よろしければ感想などお聞かせいただければ幸いです。




