鋼鉄の魔物
「「「……なんじゃ、こりゃ⁉︎」」」
ゲミュートリッヒの正門前。金貨と引き換えに現れた巨大な乗り物を見て、ティカ隊長と野次馬たちは驚愕の声を上げる。
俺もハモッたのを見て、エルミは首を傾げた。
「なんでミーチャまで驚いてるのニャ?」
「いや、こんなん俺も初めて見るわ」
本体はなんていうのか、前がブルドーザーで後ろにショベルカーみたいな乗り物。ひとり乗りで、全長は七、八メートル。高さと幅は三メートル前後か。
「JCBの軍用バックホー・ローダーです。似たようなものは、他国でも普及しているはずですよ?」
まあ、たしかに。メーカーこそ初耳だけど、こういう重機は見覚えがないこともない。
ただ、車体は軍用の濃いグリーンに塗られ、運転席はゴツい金属格子で鳥籠状に守られている。警戒対象が何なのか知らんけど、窓には金網と鉄板が後付けされ、車体によじ登れそうな辺りに有刺鉄線まで張られている。
グルッと回って確認すると、車体には凹みや焦げや得体の知れない付着物があり、弾痕としか思えない穴がいくつも開いている。
そりゃ元いた世界で喪失したのだから修羅場を潜っては来たのだろうが……いったいこいつは、どこで何をしていたものなのだ?
チラッとヘイゼルに目をやるが、芝居がかった仕草で指を組み天を見上げる。
「神よ英国を守り給え」
「お前、ぜったい無神論者だろ」
肯定も否定もせず、にっこり笑って胸元で手を重ねる。ジャスチャーの意味は知らんけど、いわんとしてるところは、なんとなく、わかった。
彼女の口にする神とは、金貨のことだと。
「頼むティカ! わしらに、使わせてくれんか!」
「なんでもする! なんでも望み通りに、どんなものでも仕上げて見せる!」
「……お、おう? いや、そうは言うがな……」
なんだ? 少し離れた場所でティカ隊長が囲まれ揉みくちゃのモテモテ状態になってる。まあ、相手はドワーフのおじちゃんとお爺ちゃんたちだけど。
どうやら軍用バックホーなんちゃらは中高年ドワーフの知的好奇心と趣味嗜好にドスンと刺さってしまったらしく、わしらに乗らせろ運転させろと懇願しているようだ。
「ああ、もうわかった! アンタたちに頼むから、落ち着け!」
「「やったぁーッ!」」
ティカ隊長は呆れ顔で首を振る。なんでもひとりで抱え込みすぎていたから、作業分担できたこと自体は良かったのかも知れない。
「町の防衛予算で買った貴重な機材だからな。外壁改修が済むまでは、絶対に壊すなよ!」
「大丈夫じゃ!」
「たとえ壊したとしても、直してみせるぞ!」
ティカ隊長は俺とヘイゼルを振り返って、ふにゃりと困り顔で笑った。
「それじゃ、あいつの扱い方を教えてくれるか?」




