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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
ブリリアントな日々

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コンタクトとコンフリクト

 目の前には五、六百メートルの緩い直線。道の両側は低木と茂み。わずかに視界を遮ってはいるが、人間が隠れながら接近できるほどではない。まして、草木の陰には魔物が隠れているのだから踏み込むのは自殺行為だろう。

 この状況なら、敵は丸腰と同じだ。道幅は五、六メートルしかないのだ。逃げ道もなく、隠れ場所もない。


「停まったな」


 ティカ隊長が前方を見て言った。視界が開ける直前でこちらの伏撃を予見したようだ。

 待っててもしょうがないので直線の半ば近くまで車輌を前進させる。彼我の距離はさらに詰まり、三百メートルほど。


「右手にいくつか煙が出てる。ドラゴノボアが隠れているぞ」


「そっちは無視していい。兵士だけ、それも脅威は魔導師くらいだな」


「……まったく、信じ難いな。まあ、こんなもんを実際に触れてみれば、信じるしかないんだが」


 サラセンの装甲に指で触れ、ティカ隊長が自嘲気味に笑う。ドワーフってくらいだから機械や冶金技術に造詣が深いのだろう。何度か指で音を聞いて驚愕の唸り声を漏らすところは見ていた。


「出てきたな。あれは軍使のつもりか」


 前方、曲がり角の陰からひとり、騎馬の兵士が姿を現す。手槍を小脇に抱え、ゆっくりと馬を進めてくる。


「軍使って……あいつ武装したままだけど」


「槍の穂先を後方に、左手側で構えている。体裁としては、攻撃の意思がないということになる」


 そんなもんか。

 ティカ隊長は攻撃を待つように言うと、運転席前の小窓を開いてサラセンのボンネットに出る。身長ほどある戦鎚は背中から降ろし、槌頭を下にして左手で持っている。こちらも武装解除の体裁か。


「止まれ」


 十メートルほどのところまできた騎兵に、ティカ隊長が命じる。騎兵は馬に乗ったまま、兜も面頬もそのままだ。俺には攻撃の意思を……そしてこちらを下に見ている意識を、丸出しにしてるようにしか見えん。


「アイルヘルン領内に王国兵を入れる許可は出していない。即刻、退去せよ」


「国賊が逃げ込んだ。討伐のため、()()()に入ったまでだ。非難される謂れはない」


「ゲミュートリッヒはアイルヘルン領の一部だ。貴様らがどう思おうとな。戦が望みか?」


 早くも交渉は決裂の予感。ひょいと飛び降りたティカ隊長を見て、騎兵は素早く馬を操り距離を取る。

 騎兵と歩兵の戦闘なんて映画くらいでしか知らんが、騎馬の強みである突進力を作るには加速する必要があるのだろうと、なんとなく理解した。


「蛮族と半獣の寄せ集めに、我ら……がッ」


 ドパン、と音がして騎兵の頭が弾け飛んだ。首無し死体を背に乗せたまま一瞬リアクションに困った馬が、ティカ隊長を見ておずおずと踵を返す。


「良い子だ」


 血飛沫を吹く死体を背に、馬はポクポクと友軍が隠れる場所まで戻って行く。

 目にも留まらぬ一撃を喰らって、傲岸不遜な王国兵はメッセンジャーからメッセージそのものになったわけだ。

 戦鎚を振って血振りした衛兵隊長は、自分が不甲斐ないとばかりに首を振った。


「すまん」


「いや、ぜんぜん問題ない。平和的解決ができるとは、誰も思ってないしな。乗ってくれ」


 ティカ隊長が車内に滑り込むと同時に、敵陣で雄叫びが上がった。交渉役の首無し死体を見て、ようやく全面対決の意思を固めたか。そういう悠長なとこは、いかにも近世以前の戦争って感じがする。


「ヘイゼル、戦闘開始だ」


「了解です」


 騎兵の戦闘集団が姿を現すと同時にヴィッカースの集中砲火を喰らって馬から転げ落ちる。後続が絡まって転倒し、さらに後ろがそれを跳ね上げ踏み潰す。


「ヘイゼルはすごいな。この状況で馬を傷付けないとは」


 ティカ隊長のつぶやきに、ヘイゼルが笑う。


「何の罪もない知的生物なんですから、当然です! 逃げない子がいたら、ゲミュートリッヒに勧誘しましょう!」


 大きな盾を構えた歩兵集団が密集陣形でこちらに向かってくるのが見えた。角を曲がりきったところでゆっくりと陣形を整え、直線に入って足を早める。そのタイミングで、後方から弓兵の掃射があった。


「ヘイゼル!」


「問題ありません」


 こちらに降り注ぐ鏃は四、五十ほど。装甲を抜く力はないので無視しておくが、こちらが生身の兵士ならば浮き足立つところだろう。彼らの想定する戦闘や戦争とは勝手が違い過ぎて対処し切れていないのが哀れだった。

 雄叫びとともに、歩兵集団が加速し急ぎ足から駆け足に変わる。


「「「おおおおぉ……ッ!」」」


 ヴィッカース重機関銃の掃射が叩き込まれると、歩兵の持つ盾から青白い光が弾けた。何度も着弾するうちに呪文のような叫び声が上がり、全体を包むように魔法陣らしき紋様が瞬く。


「あれは……」


「魔導防壁だ。あそこまで重ね掛けしてると、あたしの戦鎚でも弾くぞ」


 数発ごとの点射に変わって、バタバタと倒れ始める。見ているとヘイゼルは防壁の掛かった盾を避けて足元に狙いを変えたようだ。

 足や脛を射抜かれて転げ回る兵士たちは、もう盾を構える余裕もない。数を恃みに鉄壁を誇っていた密集陣形は、あっという間に崩れた。


「……えげつない」


 ティカ隊長のつぶやきに、ヘイゼルは笑う。戦争だからしゃーないじゃん的なフォローでもするべきかと思ったけれども、なんかニュアンスが違う気がした。


「どういうこと?」


「あいつら、死んでない」


 風もないのにガサガサと茂みが揺れ始めた。


「もう戻った方が良さそうだぞ。血の匂いを嗅ぎつけたか、ファングラット(ブッシュビータ)の大群が来る」

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