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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
甘やかな孤立

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違和感の正体

 吊り橋を渡り切ったところで、ティカ隊長とナルエルに合流する。

 近くでも半鐘が鳴り始めた。あれは非常事態を知らせるもので、鳴り始めたら戦闘職以外の住人は近くの建物に避難するように周知されているらしい。その辺りはゲミュートリッヒと、ほぼ同じだ。


「ティカさん、こちらの衛兵に協力されますか?」

「ああ。あたしに出来ることならな」

「街に戻る?」


 ……うそん。オッサン死ぬ気で渡って来たのに。ヘイゼルとナルエルの提案に、少し考える隊長。

 戻る必要があるならしょうがないけど、ちょっと時間掛かるよ……とヘタレ中年は目で訴えてみた。それどこじゃないガールズからは軽くスルーされたが。


「いや、この先に小門がある。そこの門衛なら魔導通信器(マギコミュニカ)を持っているはずだ」


 隊長はそう言うと、道の先に向かって走り始めた。ようやく地べたに辿り着いたので、俺もがんばって走る。ガールズに置いてかれ気味なのは、しゃーない。足まだプルップルだし。


 途中で、街中に逃げ込む商人や職人とすれ違うようになった。やっぱり、街の外で何かあったんだ。

 二、三十メートル行ったところで、隘路を塞ぐ頑丈な外壁に行き当たる。出入りを制限する門扉(もんぴ)は半ば閉じられていて、衛兵らしき男性ドワーフが逃げ込む住人を誘導しているところだった。


「よし、これで全部だ、閉じてくれ!」


 その指示で門が閉鎖され、鉄の(かんぬき)が掛けられる。どうやら機械式みたいだ。すげえ。

 門の横にある詰所を小さくしたような建物から、もうひとりドワーフ男性が出てくる。こちらが門を操作してたひとか。


「ゲミュートリッヒ衛兵隊のティカだ。状況を教えてくれ」

「おお、ティカ。デカくなったな」


 どうやら知り合いだったようで、ティカ隊長は苦笑しながら首を振る。


「イルダか。アンタは変わんないな。それで?」

「盗賊団らしい。北の正門前で確認された数は二十から三十、だが編成と装備がおかしい。兵隊じゃないかと、警戒を命じられた」

「兵隊? どこの……」


 俺の疑問に、ティカ隊長はチラッとこちらを見る。訊いてはみたけど、俺も見当はついてる。


「いまの聖国では、兵を出す余裕はないな。大陸東端にあるという新興の共和国もアイルヘルンと大差ない寄り合い所帯で、いま跳ねる利点はない。もし動いたとして、そいつらがわざわざ南西(マカ)に回り込む意味はない」

「……王国、か」


 まだ戦力が残ってたのか、というのが正直な感想だ。

 小村ゲミュートリッヒを相手に散々な敗北を喫した連中が、それより遥かに大きく人員も装備も体制も整ったマカに攻め入って何が得られると思ったのやら。


「イルダ、いままでに王国軍の侵攻はあったか?」

「正面切っては、ないな。怪しげな連中が入り込んだことはあったが、たいがい排除されてる」

「王国が手を出してくるとして、目的は?」

「……さあな。割に合うもんとしては、(きん)くらいだが……」


 金銀を奪うためならば、目的としてはわかりやすい。

 ただ、金塊というのは少人数の潜入工作員程度で運び出せるものではないのだ。当然ながら管理も厳しいうえに、重量が凄まじい。見付からずに、となれば難易度は上がる。金鉱石の状態なら収奪も搬出も成功する確率は上がるが、その場合は手持ちで運べる体積ではなくなる。

 イルダさんとティカ隊長が首を捻っているのが、それだ。


「……そんじゃ、二、三十人で向かってくる理由は……?」


 俺の疑問に、全員が考え込んだ。

 金銀お宝が目的だとしたら、やり方がおかしい。しかも早々に見付かってしまったので、そいつらは領内に入ることもできないだろう。


「そうです、ミーチャさん。重要なのは目的ではなく、小部隊が正門側に姿を現した理由です」

「……陽動(おとり)、か」


 腑に落ちた感じでティカ隊長が顔を上げる。


「王国軍の本隊が来るとしたら、手薄な裏口だ。イルダ、ここの他に小門は?」

坑道内(した)にもあるが非常用で、門というより大きめの穴だ。ドワーフ以外は辛いぞ」


「もしかしたら、また()()()を引いたか」

英国的幸運(ゲッタ・ブリテン)♪」


 ヘイゼルは楽しそうに笑って、俺に軽機関銃(ブレンガン)を差し出してくる。

 ティカ隊長とナルエルにも、預かっていたらしい武器を渡す。隊長は愛用の戦鎚(ウォーハンマー)、ナルエルは魔術短杖(ワンド)……じゃないな。なんだこれ。殴打用棍棒(メイス)か。ナルエル、魔導師で魔道具師だったんちゃうんか。


「お、おい、お前ら……」

「イルダ、悪いけど門を開けてくれ。戻ってくるときは声を掛ける」

「無茶だ、たった四人で何ができる! 応援を呼ぶまで待ってろ!」

「心配ないぞ。あたしたちは、こういうのには慣れてる」


 渋々ながらも開けてくれた門衛イルダ氏にひらひらと手を振って、隊長は門から出る。後に続いて、俺たちも。

 ガールズはともかく、俺はそれほど慣れてないんだけどな。これまでの戦闘は、たいがい車輛やら遮蔽やらに隠れて敵の攻撃範囲外(アウトレンジ)から撃ってるばっかだし。


 門を出たところから先は、比較的開けた谷間の一本道だった。高山地帯特有の植生なのか、木々も草むらも大人が隠れられるほどの密度がない。

 敵の接近は、かなり遠くから見付けられるようになっていた。


「わたしは道の右側を警戒します。ミーチャさんは左手をお願いします」

「了解」

「ティカさんとナルエルちゃんは、二十メートル(六フート)以内に踏み込まれたときはお願いします」

「「わかった」」


 来るか来ないか、考えるまでもなかった。遠くで馬蹄が岩を叩く音がした。相手は馬鹿正直に、道をやってきたようだ。道の先から現れた相手を見て、俺とヘイゼルが小さく息を吐く。


「……悪縁かね」

「ええ、ここで(ナウ・)断ち切りましょう(ディカピテイト)

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