初めての冒険者登録
アマノラさんが赴任してきて一週間ほど経つと、住民のなかにも冒険者ギルドに出入りする者が出始めた。登録して冒険者証を作り、素材の買取やクエストの受注を行うのだ。なかには他で登録済みのひともいるようだけどな。
うん、これでこその異世界感。
俺たちのなかで冒険者証を持っているのは、王国で登録済みのエルミだけ。ナルエルは職人ギルド、レイラは商人ギルドの登録証を持っているが冒険者登録はしていない。
重複登録も可能ではあるけど、ギルド間で利害がバッティングすることもあるので両方持ちはあまり信用されない……こともあるのだとか。
「どうしましょうか、ミーチャさん」
「どれかひとつ、っていうなら商人ギルドにするのが筋なんだろうけどな……」
俺個人としてはサーベイさんの商会と直接取引なので、商人ギルドに入る意味はない。あまり入りたいとも思わない。
どうせなら楽しそうな冒険者ギルドかな。前までは印象悪かったけど、この町では職員も気心知れたアマノラさんだし。そもそもゲミュートリッヒに支部あるの冒険者ギルドだけだし。
「こんちはー」
「いらっしゃい、お揃いでどうされました? ついにクエスト受注ですか?」
「ミーチャとマチルダちゃんとヘイゼルちゃんの登録をお願いしたいのニャ」
昼過ぎの空いてる時間を選んで、酒場の隣にあるギルドを訪ねる。
ずっと空いてるかと思えば、最近はけっこう新人冒険者(とはいえ年齢は様々)がクエスト受注や素材買取に訪れているのだとか。壁に貼られた募集内容の紙も、ちらほらとしか残っていない。
「はーい。では、おひとりずつこちらの魔珠に手を置いてくださいね」
アマノラさんがカウンターに、ハンドボールくらいの大きさの水晶玉っぽいものを置く。
なんか見覚えがあるようなないような工程だ。なんとはなしにエルミを見ると、大丈夫心配ないという感じで頷かれた。いや、オッサンは不安に思っているわけではないのだよ。
「適性検査ニャ。魔力の測定と登録をするニャ」
「へえ……って待て、俺は魔力ないらしいぞ」
「魔力の量と冒険者の適性は同じじゃないですよ。固有波形を登録するのが目的ですから」
「全然ないとしたらスゴーく珍しいから、問題ないニャ」
アマノラさんとエルミからサラッと慰められる。
「ワタシも、そんナ例は聞いタことがナい」
マチルダには感心された。チョイ珍獣みたいな扱いが気になるが。
俺が触れても魔珠は完全なノーリアクション。適性検査は二秒で終了した。
「ホントに全く光りませんね。はい、登録しました」
アマノラさんが確認したのは、俺の手がちゃんと触れてることだけ。
誰でも技術や才能や適性は様々で魔珠の反応もいろいろだけど、何にも反応しないのは数百万人に一人いるかどうかのレアケースらしい。すごい稀少性なのに、何のメリットもないところが泣ける。
「登録者証は最初七級なんですが、ミーチャさんとヘイゼルさんは膨大な魔物素材の買取に多大な貢献があったと聞いてますので、二階級上げた五級スタートになります」
「へえ……」
到着早々あんなのを見せられたら納得ですよ、なんて苦笑しながらアマノラさんは登録手続きを進める。
「はーい、ではマチルダさ……うぉッ!」
マチルダの魔力測定をしたアマノラさんは魔珠の色変化に驚き、手元にある波形モニタみたいな板を覗き込んで首を傾げる。魔珠は明るくなっただけで色の変化はない。
「無色?」
「特定の属性なしニャ。生まれついての天才とかに多いのニャ」
「マチルダさん、魔力の圧縮純度が凄いですね。ここまでの威力特化型は一級冒険者でもほとんどいないです」
「マチルダちゃん、スゴーい瞬発型なのニャ」
抱っこ攻撃機として飛ぶのに、エルミが必須と聞いたのもそれか。ひとりでも飛べるけど、すぐ落ちるとか。強いけど短時間しか発揮できないマチルダと、そんなに強くないけど長持ちするエルミの組み合わせで補い合っているわけだ。
彼女ら、最近なんだか自信に満ちた顔になった。“ふたりなら何でもできる”みたいなことを言うようになったのも、本人たちには正直な実感なんだろう。
「ほぇッ!?」
最後にヘイゼルの測定をしたアマノラさんがポカーンとした顔になる。魔珠と波形モニターを交互に見て、さらにヘイゼルを見て首を傾げる。
「赤青白が入り混じった反応って、初めて見ました。しかも……なんです、この複雑怪奇な紋様……?」
俺はなんとなく、わかってしまったけれどもね。ここはスルーだ。ツッコまんとこう。
一同の注目を集めたヘイゼルさんは、優雅に微笑みながらも胸を張って告げる。
「我が心の英国連合旗です♪」
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