表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
聖ならざる者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

147/339

窮地のゲミュートリッヒ

「……どうだ、動きは」

「ないな。布陣はそのまま、次の攻撃に備えているんだろう」


 ゲミュートリッヒ、北側外壁。町の戦闘員たちは、胸壁の陰で北東方向を睨んでいた。

 夜明け前、いきなり現れた軍勢は町から一キロ弱(半哩ちょっと)の岩場に布陣して町への攻撃を始めた。いくつかの大きな岩陰に分散しているが、位置は町の北側に広がる山岳地帯の中腹。ミーチャが最初にダンジョン攻略したときの、入り口があった辺りだ。

 町の南側に避難場所を移して人的被害は押さえたものの、いまのところ攻撃を止める手立てはない。


「あんなに遠くから当ててくるとしたら、魔導師の実力が尋常じゃないか、すごい数が揃っているかだ」

「その両方じゃな。忌々しい連中に目を付けられたもんじゃ」


 それが王国軍と聖教会の協働戦力なのは明らかだった。攻撃魔法の練度と火力が半端なものではないのだ。それだけの魔導師を維持できる勢力など、その二者以外にはいない。

 少なくとも、アイルヘルンに侵攻する理由を持ったもののなかには。


「長弓や“えんふぃーるど”じゃ届かすのが精いっぱいだ。おまけに魔導防壁を付与した盾を持ってる。当たっただけじゃ、仕留められんぞ」

「マドフ爺さん、“対戦車ライフル(ぼーいず)”か“2ポンド砲(おーどなんす)”なら、どうにかならないか」


 ヘイゼルから受け取って、操作も覚えた新しい兵器だ。

 エルフの射手たちが訴えるものの、ドワーフたちは悔しそうに首を振る。


「あの大岩を全部は砕けん。おまけに仰角(みあげ)だと岩の角度がキツい。下手に打ち込むと弾くぞ」


 敵は硬度の高い切り立った巨岩を選んでその陰に布陣し、攻撃魔法と投石砲は遮蔽の奥から曲射軌道(山なり)に飛んでくる。天然の防壁に加えて、魔導防壁による強化を行った盾。銃砲火器もエルフの攻撃魔法も、圧倒的な質と量の差を前にして消耗を強いられるだけだ。

 不幸中の幸いは、敵もゲミュートリッヒに直接攻め込むほどの戦力はないらしいこと。遮蔽から出て接近してくるならば、対処のしようはある。


「山と町の間に、ろくな隠れ場所はない。出たら良い的だ」

「まあ、それは向こうもこっちも、じゃがの」


 敵は山腹から動く様子はない。遠方からの攻撃で可能な限り戦力と気力と体力を削ぎ、来たるべき総攻撃に備えているのだろう。


「山を大きく回り込んで接近するのは?」

「無理だ。裾野の道は塞がれてる。北門を開こうとしたら、弓と投石砲を放ってきたぞ」

「あいつら、こっちが干上がるのを待つつもりか? よほど補給部隊(輜重)が厚いか、死ぬ覚悟ができてるのか……」


 じりじりしたまま半日以上が過ぎ、一方的に攻撃され続けることで焦りが募る。

 耐えながらミーチャたちが戻るのを待つという意見が多数を占め、それは順当だったが帰還はいつなのか不明。

 車を出して接近攻撃を掛けるという意見も出たものの、装甲車輛のサラセンは足回りの修理が済んでおらず、非装甲のモーリスでは敵の攻撃に耐えられない。

 あとは建築用重機(バックホーローダー)だが、弓矢はともかく投石砲や攻撃魔法を防ぐ能力はない。


「見張りはエルフが受け持つ。ドワーフ組は、“さらせん”を直せないか試してくれ」

「了解じゃ」


 エルミは愛用のステンガンを抱えて、胸壁の陰に座り込んでいた。

 治癒魔法しか取り柄のない自分に、戦う力と勇気を与えてくれた大事な宝物だ。“すてん”さえあれば負けない。もう無力じゃない。そう思えたのに。なのにまた、敵に押されて手も足も出ない。逃げ隠れして、蹲っていることしかできない。

 自己嫌悪に沈み込みかけていた彼女の前に、ふと影が差した。


「エルミ」

「ニャ?」


 立っているのは、マチルダだった。

 エルミとお揃いの軍用ポーチを身に着け、お揃いのステンガンを背負っているが、その表情は不機嫌そうに曇っている。


「お前ハ、弱イな」


 いきなり言われて、エルミは思わず息を呑む。心の奥で疼いていた場所に、その言葉は深く突き刺さった。


「……そんなの、わかってるニャ」


 自分の力が弱いことなど、ずっと前から自覚していた。何度も思い知らされ、何度も死にかけたのだから。

 まして魔族であるマチルダに比べれば、全ての能力が劣っていることも、わかり切っていた。

 でも事実を認めることと、それを受け入れられることは違う。

 気持ちが通じ合えたと思った、友人だと思っていた魔族の少女を、エルミはキッと睨み付ける。


「ずっと、わかってたニャ! それでもウチは! 自分にできることを、しようと思って、がんばってきたのニャ!」


 最後は泣き声になったエルミの訴えを、マチルダは真顔のまま真っ直ぐに受け止める。


「そうダ。知っテいル。ワタシも、同じダ」

「……ニャ?」


 なぜか、魔族の少女は肩に掛けていたステンガンを下ろした。エルミの手からもステンガンを受け取り、胸壁の陰に置かれた弾薬箱のなかにしまう。続いてお揃いの軍用ポーチから弾倉と弾薬を取り出し、銃の隣に収めた。

 最後に上着を脱いで、それも同じように片付ける。


「……マチルダ、ちゃん? なに、するつもりなのニャ?」

「お前にデきルこトと、ワタシにデきナいコト。お前にデきなイことと、ワタシにデきルこと……」


 開いた両手を差し出し、エルミを誘う。

 エルミの両手に自分の両手を合わせ、指を絡めて立ち上がらせると、抱き寄せて耳元に囁く。


「……合わせレば、きっト勝てル」


 そう言ってふわりと、マチルダは笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
唐突なユリ支給に狼狽しそう(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ