鋼の有袋類
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ありがとうございます。
……さて。状況はわかったけれども、どうしたもんか。
解放されたといっても獣人とドワーフの元猟兵が十三名、プラス俺とヘイゼルの十五名は戦場となりつつあるゲミュートリッヒの町から南に一キロほどの街道上で剥き身で立っているわけだ。
北側で町への侵攻があったというが、そちらはたぶん問題ない。まだ夜明け前の静けさのなか、遠くでパラパラと小さく響いているのはブレンガンの射撃音だろう。規則的で間隔も安定しているから、順調に敵を削っているであろうことは想像がつく。
「王国軍の、本隊が来る」
元猟兵のネコ獣人女性が俺とヘイゼルに告げる。
彼らが把握しているところによれば、別働隊が北側への陽動を掛けるなかで猟兵が爆弾による破壊工作を行い、その隙に本隊が町の南側正門から攻め入る算段だったようだ。
本隊は概算で軽騎兵四十、軽装歩兵六十、魔導師十。兵士を積んだ荷馬車が四、五台と……大型の機械弓と城門突破用の魔導破城槌を積んだ装甲馬車が一、二輌。
「魔導破城槌? なにそれ」
「耳で聞いただけで、詳しくは知らん。俺たち猟兵には作戦など知らされんのだ。その頃には……魔導爆裂球ごと吹っ飛んでる筈だったからな」
ドワーフ男性が溜息混じりに言うのを聞いて、今更ながらに怒りが込み上げる。
「俺たちはアンタらの町に……しかも俺は、女子供が避難した先に突っ込まされるところだった。死ぬのはともかく、巻き添えを出さずに済んだことには感謝してる」
「ふふっ♪ もう殺しましょう、ミーチャさん」
ヘイゼルが穏やかな笑みを浮かべながら振り返る。
「そんな外道なことを考える奴らは、地獄の苦しみを与えながら縊り殺すのが神の摂理です」
「ああ、うん。そこは同感だけど、お前は無神論者だろ絶対」
出物のセンチュリオンがあるのでまとめて轢き潰しましょう、とか嬉しそうに言ってるけどさ。
「そんなもん買っても後で使い道ないだろ。戦闘直前に主力戦車なんて、しかも真っ暗いなかで調達されても俺は操縦も砲撃もできんぞ」
元猟兵のみんなは俺たちの会話がちんぷんかんぷんのようだけど、どうやら“王国軍など恐るるに足らず”というところは汲んでくれてるらしい。
そらそうだ。あの小ぢんまりした2ポンド砲だけでも、この世界にはオーパーツだもんな。
「なんでしたら、擱座状態のサラセンを砲台にするのもアリですよ。どうせ王国軍に、こっちの装甲を抜ける兵器はないです」
それはそうかもしれん。自慢のなんとか爆裂球も、結局は足回りを壊すのが精いっぱいだったしな。
「悪くないです。ヴィッカースでゆっくり細かな微塵切りにしてやりましょう」
「だから、その笑顔が怖いって」
とはいえ、もう迷っている時間はない。いま陽動部隊が北門に押し寄せているということは、本来は猟兵部隊が町中で撹乱と破壊工作を行っている頃合いなのだ。爆発が起きないとわかれば本隊が警戒するかもしれない。
「ヘイゼル、とりあえず砲台になるのはナシだ。ここの全員が乗れる装甲車輌を頼む。予算内なら金額も車種も任せる。武装は……馬を殺したくないなら狙い撃ち可能なものを考えてくれ」
「良い物があります♪」
うん、そこで即答かい。あんま期待できる感じはないけど、お任せした以上は受け入れよう。なんか森の小道があった南西の方角から馬と車輪の音が近付いてきているしな。さすがに逃げ隠れする余裕はない。
「さあ、どうです⁉︎」
……どうです、って……言われてもな。
ヘイゼルの後ろに現れた巨大な代物を見て、元猟兵の十三人が一斉に息を呑んだ。
「「な」」
なにこれ、と言いたかったのかもしれんが、誰もが驚愕で言葉にならない。
俺も同感だ。あまりの巨体と威容、そして鋼鉄の塊が発する恐ろしいほどの威圧感。それ以前の問題として、ものっそいリアクションに困る。
なんとなく、思ってたんと違った。
「これぞ英国♪ ちょっと狭いかもしれませんが、諸元によれば十名前後の兵士とクルーふたりを収容していたようですから、きっと大丈夫です」
「なあ、ヘイゼル。それは良いけど……なんなん、これ?」
ヘイゼルは満面の笑みを浮かべて、俺たちを車内へと誘う。誘われたところで、大き過ぎて誰も乗れんのだが。梯子をくれ。
「装甲兵員輸送車タイプの改修戦車、“ラム・カンガルー”です!」
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