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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バルスベリー編
489/548

第四百八十九夜 おっちゃんと飛翔族の行商

 起きると、二十畳ほどの客室だった。ベッドはふかふかの大きなもので、サイドテーブルには銀の水差しが置いてある。

 鏡があったので確認すると人間の姿になっていた


 ベッドから起きると、木綿のパジャマを着ていた。部屋の中には質素なソファーと木でできたテーブルがあった。

 ソファーの上には洗濯された腰巻きと『お休みリュート』があった。壁には額に入った、八行の詩が書いてある。でも、達筆で読めなかった。

「わいが街で泊まっていた宿屋より二ランクぐらい上の部屋やな。ちょうどええくらいの高級さや」


 テーブルの上にはガラスの箱に入ったクッキーがあったので、遠慮なくいただく。

「お? なかなか美味いやないか」

 水を飲んで一息つくと、水差しの裏に銀のベルを見つけた。おっちゃんは人間サイズのトロルに変身して、腰巻きに着替える。


 ベルを軽く振ると、三分ほどでドアが開く。

 ドアのむこうには、ナーガ族の老人が立っていた。ナーガ族の老人は上着だけ、執事が着るような黒い服を着ていた。


「ここ、どこですやろう?」

 執事は入室し丁寧な態度で教えてくれた。

「ここは、『詩人の岩窟』にある、客室の一室です。おっちゃん様がお倒れになったので、運ばさせていただきました」


「そうでっか? ほな、モグロドンはどうなりました?」

 執事は穏やかな顔で優しく語る。

「天国側で眠りに就きました。御館様の話によると、モグロドンは攻撃を受けない限り、しばらくは目を覚まさないとの話です」


「マジック・ポータルは、どうなりました?」

「マジック・ポータルは『戸締まりの詩』で御館様が閉じました」


「街は助かったんですか?」

 執事が礼節のある態度で説明する。

「只今、マジック・ポータルが工事の衝撃や誤操作により出現しないように、起動する鍵を抜く作業をしております」


「作業は終わるのは、いつぐらいですか?」

「一週間もすれば、もう街やダンジョンに天国へと続く扉が出現する事態には、ならないでしょう」

「そうか、一週間、何も問題がなければ、平和になるんやな」


 おっちゃんは安堵した。

 執事が明るい顔で労う。

「ご苦労様でした。これで、人間の街を失い寂れたダンジョンになる未来は防がれました」

「そうか。なら、現場に戻るわ」


 執事がにこやかな顔で、やんわりと告げる。

「その件ですが、現場はもう人が足りているので、大丈夫だそうです」

(人が足らん、いうてたんやけどな。大きな仕事をさせたから、わいにこれ以上は仕事をさせるのは申し訳ない、いう話になったか)

「そうでっか。なら、また商売に戻りますわ」


 執事が控えめな様子で勧める。

「御館様はよろしければ、このまま逗留(とうりゅう)して、新年の祝賀会に出席されてはどうかと申しておりましたが」

「偉い人ばかりの祝賀会では落ち着きまへん。新年は身内と祝いますわ」

「そうですか。では、お元気で」


 おっちゃんは『お休みリュート』を持ってダンジョンを出て、人間の姿になる。

隠していた装備品を身に付けて、『瞬間移動』で街に帰った。街に帰ると、宿屋で宿代を前払いしてから、冒険者の酒場に顔を出した。


 冒険者の酒場でも、年越しに向けて祝いの準備が進んでいた。

 おっちゃんはイサベルを見つけた。すると、イサベルから寄って来た。

 イサベルが心配顔で優しく声を掛けてくる。

「どこ行っていたのよ? おっちゃん、探したわよ」

「ちと、アルバイトで数日、街を留守にしていた」


 イサベルが小さな袋を渡す。中を確認すると、金貨が入っていた。

「これが、残金よ」

「ほな、『お休みリュート』を返すわ。高価な品みたいやからな」


 イサベルは『お休みリュート』を受け取ると、チチャを注文する。

 おっちゃんも同じ物を注文して、席に着く。

 冒険者の酒場の入口が開いた。背中に鳥のような羽を持ち、鳥の顔をした飛翔族の集団が入ってくる。


 イサベルは顔を険しくする。が、街の人間は態度が違った。

 飛翔族と人間たちは談笑して、旧知を暖めているようだった。

 給仕の男性が注文のチチャを持ってきのたで、おっちゃんは尋ねる。

「飛翔族やろう? 初めて見るな」


 給仕がにこにこした顔で語る。

「飛翔族の村が、東の山を越えた場所にあるんですよ」

「この街には時々、飛翔族が来るの?」

「昔から、年に四回ほど商売にやって来るんですよ。特に、一月二日から五日間を掛けて行われる市は、一番大きく賑やかですよ」


 おっちゃんと給仕の話を聞いて、イサベルは表情を少しだけ緩和する。

「すまない。どうも、異種族はモンスターに見えてね」

「冒険者家業をしていれば、そういう見方もあるやろう。でも、郷に入っては郷に従えやで」

「わかっているわよ。面倒事を起こして、おっちゃんやセサルに迷惑を掛けるつもりはないわ」


 イサベルと適当に世間話をして、軽く飲んで別れた。

 まだ、日が沈むまでには時間があったので、街の広場に行ってみる。街の広場では荷物を積んだアイス・ワイバーンが停まっていた。


 ワイバーンは飛竜とも呼ばれる体長が四mほどの、空を飛ぶ龍に似たモンスターだった。龍と違い、手は退化して存在しない。だが、鋭い爪と毒のある尻尾を持つ。

 知能は低いが、力が強く、牛だって持ち上げて飛べる。

 アイス・ワイバーンは寒さに強いワイバーンの亜種だった。


(完全に人に慣れているのう。調教が行き届いているようや)

 市が始まる前だが、商人同士の駆け引きは既に始まっていた。

(人間は紙、塩、香料を売る。飛翔族は香辛料、ガラス製品を売るのが多いんやな)


 おっちゃんは冬の灰色の空を見上げて思う。

(来年の今の時季は、キヨコと過せるんといいんやけどなあ)


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