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おっちゃん冒険者の千夜一夜  作者: 金暮 銀
バルスベリー編
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第四百七十七夜 おっちゃんとモスフェウスとの取引

 イサベルは仲間の冒険者に『夜更かしリュート』と、雇った吟遊詩人を託す。

 あとは、セサルが赤の寺院で、『爽快なる目覚めの詩』を見つけるのを待った。


 五日が過ぎたところで、夜に青い顔のセサルがやってきた。

「大丈夫かセサルはん? 体調が悪そうやで」

「ちょっと、風邪を引きました。何、大した風邪ではありませんよ」


 イサベルが済まなさそうな顔で詫びる。

「無理をさせてすまないわ」


 セサルはおっちゃんとイサベルを伴って、密談スペースに行く。

「いいってことです。それより悪い報告です。おそらく『爽快なる目覚めの詩』は半分しか、赤の寺院にありません」

「詩が半分だけしかないって、まずいやん。そんな状態で歌ったなら、効果が充分に出ないとちゃうんか?」


「おっちゃんの指摘どおりです。ですが、方法はあります」

「簡単な話では、なさそうね」


 セサルが具合の悪そうな顔で教えてくれた。

「赤の寺院に伝わる詩は、元々は『詩人の岩窟』にあったものです。『詩人の岩窟』に行けば、手に入ります」

 セサルの言葉に、場がシーンとなる。

(こりゃ、まずいで、ダンジョンの中にあるなら簡単には手に入らん)


 イサベルが曇った顔で弱った声を出す。

「参ったわ。今、ダンジョンに挑戦するだけのメンバーはいないわ。募集を掛けて攻略を勧めても、最低三十日は掛かるわ」

「わいも、駄目や。ダンジョンは行きたくない」


 おっちゃんは元ダンジョン・モンスターである。ダンジョンに行って、知り合いにばったり遭ったりしたら困る。なので、ダンジョン探索は避けていた。

 イサベルが厳しい表情を浮かべる。

「わかったわ。まず、歌を知っていそうな詩人を捜して、詩を知っていたら詩を買うわ」


 セサルが体調の悪そうな顔で立ち上がる。

「それが早いでしょうね。でも、もし、知っている詩人がいなかった時はダンジョンに行くしかありませんよ」

「とりあえずは。詩人を当ってみようか」


 密談スペースを出ようとしたところで、セサルがふらつき倒れた。

「おい、しっかりしろ」


 イサベルが不安な顔で声を掛けるが、セサルから返事がない。

「とりあえず、セサルはんの家に運んでや。わいは医者を捜して連れてゆく」

「わかった。私はセサルを連れて家で待つわ」


 おっちゃんは密談スペースを出て、ローサに尋ねる。

「ローサはん。セサルはんが倒れた。往診してくれる医者を知らんか?」


 ローサが心配した顔で教えくれた。

「夜が遅いけど、マヌエル先生なら診てくれるわ」


 おっちゃんはローサから、マヌエルの家を教えてもらう。

 マヌエルの家に行くと、二十代前半の若い医者が出てきた。

 医者は面長で、青い髪をしていた。服は白い仕事着だったので、お休みの最中ではなかった。


「夜分遅くに失礼します。マヌエル先生でっか? 往診をお願いします」

 マヌエルは嫌な顔をせずに、承諾してくれた。

「私がマヌエルです。いいですよ。冒険者さんは昼夜お構いなしの商売ですからねえ」


 おっちゃんはセサルの家にマヌエルを連れて行った。

 マヌエルは一通り診察すると、軽い調子で診断を下した。

「疲労が溜まったのと栄養不足のところで、風邪を引いたのでしょう。安静にして三食きちんと食べれば、すぐに良くなりますよ」


 おっちゃんは、往診と診察代で銀貨十枚を払って、マヌエルを送って行った。

マヌエルの家の帰りに冒険者の酒場に寄る。酒場で四人分の軽食と高級ワインを買って、セサルの家に戻った。


 おっちゃんはリビングで、イサベルと話す。

「セサルはん、無理しすぎたんやな」

 イサベルが暗い顔で、弱々しく話す。

「セサルには迷惑を掛けてばかりだわ」

「なら、元気になった時に、優しい声を掛けてあげればええ」


 イサベルが困惑した顔で躊躇(ためら)う。

「そういうのは、苦手だわ」

(子供やないんやから、そないに恥ずかしがらんくてもええやろうに)

「そうか。なら、今日は、わいがセサルはんの様子を見とるから、イサベルはんは明日の朝に食事を買って、交替に来てや」


「わかったわ。ここに二人いてもしかたないしね。おっちゃんの言う通りにするわ」

 おっちゃんはイサベルを帰したあとに、食事を持って、そおーっと地下室に行く。


 地下室にはモスフェウスが魔法陣の上にいて、気軽に声を掛ける。

「正面から来るとは、セサルに何かあったな」

「ちと、病気で倒れた」


 モスフェウスは顔を(しか)めて、つまらなさそうに発言する。

「何だ。根性のない奴だな」

 おっちゃんは軽食とワインを差し出す。

「これ、モスフェウスはんの分や。食べて」


 モスフェウスは感心した顔をする。

「気が利くな。だが、食事は要らないぜ。ワインは貰うがな」

 モスフェウスはポケットからナイフを取り出して、器用にワインを開けた。


 モスフェウスはワインを一口飲むと、顔を(ほころ)ばせる。

「美味いな。見ない醸造蔵の品だが、味と香りはいい。いい趣味しているぜ、おっちゃん」

 モスフェウスは、そのまま高級ワインをラッパ飲みする。モスフェウスはワインを飲むと、空の瓶をおっちゃんに投げて上機嫌で訊く。


「ワインは美味かったぜ。それで、このワイン、ただじゃないんだろう」

有態(ありてい)にいえば下心があります。ちと、知りたい情報があるんですわ」


 モスフェウスはにこにこ顔で、どんと構えて発言する。

「いいぜ。何が訊きたい? 簡単な内容ならさらりと教えてやるぜ」

「『詩人の岩窟』の裏口って、どう行ったらいいですかね」


 モスフェウスが拍子抜けの顔をして、軽い感じで指示する。

「何、そんな簡単な話でいいのか。何か、あっさりし過ぎて悪いね。ちょっと頭を出して」


 おっちゃんがモスフェウスの前に額を出すと、モスフェウスが軽く指で触れる。

 頭の中に、裏口の情報が流れ込んできた。

「これは助かります」


 モスフェウスは、にやにやしながら尋ねる。

「いいってことよ。でも、何で俺に『爽快なる目覚めの詩』を聞かないわけ? 俺は知っているよ」

「そうなこというて、訊いたら、また、高いんでっしゃろう?」


 モスフェウスは、あっさりと認めた。

「そうだね。貴重な情報だから高いね」

「だったら、自分で汗を流しますわ。働いてこその冒険者ですわ」


「そういう、どこかで線引きをして悪魔と取引する奴は賢い奴だ。俺は賢い奴は好きだよ」

「お褒めに(あずか)り恐縮です。ほな、また何か機会がありましたら、お会いしましょう」


 モスフェウスは軽く手を振った。

「またな、おっちゃん」


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